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第77話 不良外国人ボブ、その秘密と真実


老夫婦に助けられてお泊まりした日から5日、枝豆採りの畑仕事も大体終わり、そろそろ老夫婦の元から旅立とうと考えていた狸の花子。


((老夫婦には世話になったが、ここは居心地が良すぎていかん。そろそろ旅立ちの頃じゃのう……))


衰退していた霊力も、お婆さんの美味しいご飯で大分回復した。


心のこもった料理には人を癒す効果もあるのだ。


ここまで回復すれば、たとえ本来の姿に戻ったとしても黒石の追っ手から姿気配を隠すのは用意だ。


それに花子には町に身を隠すための宛があった。


旅立つためのボブの洗脳も順調に進んでいる。まあ洗脳と言っても暗示に近いものだが。


彼が寝てる間に耳元で「旅立て〜、旅立て〜」と念じるだけなのだ。ボブもウンウン魘されて寝心地悪そうにしているが、まあ大丈夫だろう。


ここまでしなければボブの奴は、居心地の良いこの家に住み着いてしまう恐れもあったのだ。


((こやつには悪いが、町に行くまでの足代わりになってもらわねばならぬでな……))


彼等は昔から人を妖、利用して、足代わりに使っていたのだ。今更気にやむ程の事ではない。


そして旅立の朝、ボブは朝食を済ませると、花子に吹き込まれた通りに旅立つ旨をお爺さんとお婆ちゃんに話した。


「…… 師匠、私ァしには、道場破りという目的がありま〜ス。そう今は旅立ちの時ィ! 私ァしは行かねばァならないので〜ス!」


「……そうかボブよ旅立つのか……」


「……寂しくなるわね……」


本当に寂しそうな顔をする2人。花子も罪悪感に苛まれる。


それでもいつか来ると分かっていた事だが、お爺さん達はボブを止めようとはしなかった。


それが彼が選んだ道ならば喜んで笑顔で送り出す。

この老夫婦はそういう人達なのだ。


「花子ちゃんともこれでお別れなのね」


((お婆さん、すまぬ…… 妾にはやり遂げなければならぬ事があるのじゃ))


「ボブよ、行くと言うならこれを持って行け」


お爺さんが夏野菜の糠漬け床が入った桶をくれた。

涙ながらにその桶を受け取るボブ。


「オ〜ウ…… 師匠達の作る糠漬けはァ、最高で〜ス……グスン…… そしてェ、し、師匠に頂いたァありがたい言葉のォ数々……決して忘れませ〜ン!」


「おうボブよ、またいつでも来いよ……」



そして老夫婦は、昔に娘さんが使っていたというママチャリを足代わりに貸してくれた。


ボブと花子が出立した後も老夫婦は、見えなくなるまでずうっと手を振っり続けていた。


「ウウウ…… 師匠、お婆ちゃんありがとうで〜ス……」


涙を流しながら自転車を漕ぐボブの背負うリュックの中で、狸の花子も老夫婦との別れを惜しんでいた。



((……ほんに居心地の良い家じゃった。座敷童の奴が居付くのもわかるのう…… ))


実はあの家には座敷童が5体も居たのだ。


一体でも珍しい座敷童、それが5体もいるのだ。あの家がどれだけ居心地が良いか分かるだろう。


((彼奴らは老夫婦の人間性に惹きつけられてやって来たのだろうかの。さても昨今、あれ程の人格者には滅多に出会えん。しがない世の中になったものじゃ……))


時刻は午前10時、


ボブと花子の目指す街までは50km程、自転車とボブのスタミナが有れば、夜まえには辿り着くだろう。


花子はボブの背負うリュックから頭を出して、何気にボブを見やる。


((しかしこやつも不思議な奴じゃのう、此奴からはまるで邪気が感じられん……))


人は普通、幾つかの邪念を持っているものだが、彼からはそうゆうものが一切感じられないのだ。


((無こそ有なり、まったくもって不思議な奴じゃあ))


花子がボブと過ごした数日で、彼に関して分かった事がある。



それは、彼は人ではないと言うこと。



正確にいうとかつては人だったが今は違うそんな存在。そう、実はボブには生まれついての特性があったのだ。それは【ゾンビキング】という能力。


彼の先祖のゾンビへの情熱はかなりのもので、かつて彼の先祖は呪術により666体のゾンビをこの世に生み出した。だがそれは地獄との距離がそれだけ近づくということ。


ちょうど666体目のゾンビを作った時ボブは生まれたのだ。


ボブの両親は知らなかったが、それは禁呪にも等しい禁断の行為だったことを……


その瞬間に地獄と繋がったボブは依代となり、この世とあの世を超越する存在になったのだ。


そのため666体のゾンビの力をその身に授かったボブ。その結果彼は666回死んでも生き返る能力を授かる。


それも彼が死ぬたびに666回分、ゾンビとしての力が上がっていくという、ぶっ壊れの能力なのだ。



しかしこの能力にも欠点はある。それは知能指数がゾンビのそれと同じ程度になるというもので、666体全てを足してやっと今の状態のボブなのである。


ちなみにボブはこれ迄に69回死んでいる。一番最初に死んだのは彼が3歳の時、抱っこしていたお婆ちゃんが、誤って頭からアスファルトの地面に落としてしまったのだ……。


その時に彼の能力は目覚めた。


その他の死因は交通事故だったり、熱中症だったり、唐辛子を喉に詰まらせたりといろいろ……



実は彼自身はこの能力に気付いておらず、もし彼がこの能力を悪用すればこの世の覇者も夢ではないだろう。


だが彼はそれをしない。何故ならば何も考えていないからだ。


まあそれ以前に、心優しきボブにその様な邪な考えが浮かぶ事はないのだが。



そんなボブが漕ぐ自転車が、早くも町を見渡せる丘の上にまでやって来た。


なんとたったの3時間程で50kmの距離を走破してしまったのだ。


((な、なんじゃ此奴は! し、信じられん膂力じゃ……))


「オウ、予想より早い到着で〜ス。最近また力が上がった気がしま〜ス、そのせいでしょうかァ足が軽いで〜ス」



実はボブ、お爺さんと畑仕事をしている時に、お爺さんの運転するトラクターに轢かれて死んでいたのだ……


どうゆう仕組みかは分からないが、ボブは死んでも一瞬で体を蘇生修復させている。そのため本人はおろか加害者の人も、彼が死んだ事には気付かない。


今の彼の力は常人のおよそ10倍。あの時投げ殺されたボーゲルにはまだ遠く及ばないが、それでも今のボブならカポエラで、小さな竜巻くらいならを起こせるかもしれない。


そんな彼が道場破りに向かう道場とは果たして……



町に着き隠れ家のアテに向かう事にした花子、耳元で妖術を使いボブを操りながら向かう先は、優畄達が夏祭りで訪れたあの神社だ。


「おう涼しいで〜ス、ここをこの町でのヤサにするで〜ス」


((確か瑠璃鞠ちゃん家は、あの屋代の中だったはずじゃ))


呑気なボブはほっておき、花子は同族にしか届かないテレパシーを送る。


すると誰も居ないのに自然と屋代の扉が開いていく。そしてそこからこちらを覗くのは、3本の尻尾を生やした狐だった。


((この感じは、千ちゃん!))


((瑠璃鞠ちゃん!))


2匹の狸と狐は走り寄るとお互いを確かめ合う様に戯れ合う。実はこの2体は幼馴染で本当の姉妹の様に仲が良いのだ。


((……無事だったのね千ちゃん、お里が滅びたと聞いて心配だったの))


((うん、瑠璃鞠ちゃん…… 爺が囮になってくれたの……))


狸の花子こと千姫は、里で起きた事の一部始終を瑠璃鞠ちゃんに聞かせて話す。


((そんな事が…… 辛かったのね千ちゃん、生きていて本当によかった……))

 

((ううルリ瑠璃鞠ちゃん……))


ひしっと抱き合う狸と狐。


親しい間柄だと喋り方がガラリと変わる千姫。


そんな彼女達の話を聞いていたボブが突然泣き出したのだ。


「……大変だったんで〜スね……」



狸と狐の姿ゆえ普通の人には分からないはずなのだが、ボブはうんうんと泣きながら頷いている。


((…… お主、妾達の神通力が分かるのか?))


どうやらボブには彼女達の神通力がわかる様だ。



「無事に巡り会えてよかったで〜ス…… 私〜の役目もここで終わりで〜ス」


そうボブは、あの打ち捨てられた祠で初めて狸姿の彼女に会った時から、彼女の神通力を感じ取り、彼女の手助けをしていてくれていたのだ。


((……な…… ぼ、ボブお主、初めから分かっておったのじゃな……))


「''困っている人がいたら助けるのは当たり前''これ我が家の家訓で〜ス。私〜シはいつでも貴方の味方で〜ス」


そう言うとサムズアップしその場を去っていくボブ。


((…… 妾は分かっている様で何も分かっておらなんだ、ボブよありがとうな……))


花子然り千姫は、ボブが見えなくなるまで見送った後、ピョンピョンと戯れ合いながら、瑠璃鞠ちゃんと共に屋代の中に消えていった。




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