表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/199

第46話 三芳リカルドと雪乃




「……それで早苗さんは……私を庇って1人で……」


「そんな事があったのか…… まったく、つくづくあの2人は似た者同士だな……」


泣き崩れる美優子をどう慰めたらいいのかわからず、側に立っている事しか出来ない優作。


優作は美優子が落ち着くのを待ってから、自分の方で起きた出来事の顛末を美優子に話した。



「そ、そんな、優畄君が…… それにお兄ちゃんが1人で代官屋敷へ向かっただなんて……」


話を聞いても頭が混乱して言われた事を理解出来ず、絶望的な状況にその場にへたり込んでしまう美優子。


しばしの沈黙の後、美優子が口を開いた。



「…… 優ちゃん、私達だけで早苗さんを助けに行けないかな?」


「どうやって? ここまで来るのにもやっとだったんだぞ」


「で、でも……」


あの崩れた洞窟からこのボロ屋に来るのに、優作達は1時間も要していたのだ。


とてもでは無いが、2人で救出に向かうのは不可能だろう。


「早苗さんを助けに行くにも、俺たちだけで下手に動くのは悪手だ」


「でもこのままじゃ早苗さんは…… こんな時に優畄君が居てくれたら…… 」


「いない奴の話はやめろ!俺たちに出来ることだけを考えるんだ」


「ッ……」


優畄の名を出されて少し激昂してしまった優作、頭を冷静に戻すと自分の意見を言う。



「俺は弓夜兄い達の気持ちを無下にしたくはない。今は後方へ退がるべきだ」


このまま計画も無く無闇に救出に行っても、1人代官屋敷に向かっている弓夜の足手纏いにもなりかねない。


ここは一時後退という結論に2人は至った。



ーーー



その頃、崖にぶら下がり体の再生をしていた僕はある危機に直面していた。意味の分からない黒い髪の毛が畝りながら僕に迫ってくるのだ。


(な、なんだこの髪は?!)



それはちょうど僕のいる崖の上、そこから500m離れた場所に雪乃はいた。


早苗を捕まえて気分の良い雪乃は、さらに獲物を捕らえようと島中を彷徨っていたのだ。



『ケヒャ! この感じ黒石の能力の波動。 微弱だが妾には分かるぞえ!』


雪乃の髪はいわば昆虫の触覚の様なもの、触れた物なら姿形が直ぐさに分かる。


それ即ち、触れられたならばアウトという事。



僕の今の体は、プラリタ.ナーラという巨大な扁形動物の様な、不気味な見た目をした魔獣に変化していて動けない状態だ。


動きは遅く回復特化のため攻撃力は皆無。動こうと思えば動けるがスローモーションの様に動きは遅い……


(なんだってんだチクショウ!)


それでも触れたらヤバそうな気配はひしひしと感じるので、少しずつ、少しずつ体を動かして逃げる事にする。



『ぬう? 波動が動いておるのか、なかなか捕まらぬな…… 』


だが崖の下に僕がぶら下がっているのが分かるのか、髪の毛も僕を追う様に追随して来るではないか。


蜘蛛の糸でぶら下がっているとはいえ、蜘蛛の糸も一本だけなので心許ない……


かと言ってまだ完治していない今の体で変化を解いたら、どうなるのかは僕にも分からない。


今の僕の体の回復具合はおよそ8割弱、完治まで後2時間はかかりそうだ。


(ヒナは無事だろうか…… でも今は賭けに出る時じゃない。ここは耐えるんだ、そして体を完全に回復させる事を考えよう)



『おのれ小癪な! ちまちまと逃げおってからに!』


波動が微弱ゆえ確証は無いが、もしかしたら妾の旦那様から逃げ出した黒石の者かもしれないと、追随を続ける雪乃。


だが雪乃の髪では正確な位置は分からない。それに長距離に及ぶ髪の毛の操作のため、素早く動かせないという欠点も雪乃の髪の毛にはあるのだ。


そのため仕方なく鬼ごっこの様な今の状況になっている。



僕は寄られたら逃げ、逃げたら寄られの追いかけっこを糸の張力の限界まで続けた。



(クッ、ダメだ、これ以上動いたら糸が切れてしまう…… )


だが何故か髪の毛は、僕まであと10cmと迫ったところで、まるで巻き戻したかの様に何処かに戻って行ったのだ。


(髪の毛が戻って行く…… な、なんとか逃げ切ったかのか? )


ひっそりと安堵する僕。 髪の毛の主に何があったのかは知らないが、まあ助かったのだからよしとしよう。



一方地上では、雪乃の髪の毛が僕まであと10cmと迫った時に、彼女の元に突如として三芳リカルドが現れたのだ。



『雪乃よ、何を戯れておる』



三芳リカルドを見た瞬間、完全に優畄の気配の事を忘れて、彼の胸にしなだれかかる雪乃。


『ああ! 旦那様……』


蘇ってから100年、雪乃は三芳リカルドの姿を見るといつもこの調子なのだ。


そして彼の前では決して髪の毛を伸ばさない。彼の前では悍ましく刻まれた顔を見せたく無いのだ。


2人はしばし互いの存在を確かめ合う様に抱き合う……。



『旦那様……』


正直、この雪乃は狂っている。



500年前に惨殺された彼女、幽鬼となり50年毎に生き返るも、その度に黒石の血族に封印されてきたのだ。


彼女の願いは一つ、愛おしい旦那様に会いたい……


しかし、やっと三芳リカルドに会えたと思えば、黒石の畜生共が供養塔に火を灯し、直ぐに分かれさせられてしまう。


黒石への怨念がつのる一方で、彼女の精神は崩壊して行った……


正気でいる方が彼女にとっては苦痛だったのだろう。


三芳リカルドもそんな雪乃を哀れに思い、彼女の思うまま、したい様にさせているのだ。


そしてこの100年、やっと三芳リカルドと共に過ごせる安らぎを手に入れたのだ。


((旦那様との時を壊そうとする者は、何人たりとも許しはしない! 皆殺しにしてくれる!! そして旦那様と永遠に……))



『…… 雪乃よ喜べ、新たに黒石の者を捕らえた。明日其奴等を処刑する』


『おお、なんと素晴らしき事でしょう! 憎き黒石の血族に地獄を味あわせてやりましょう!!』


『ああ、明日は存分に楽しむが良い』


『はい、旦那様!』



雪乃は僕の事などすっかり忘れて、まるで恋人同士のように、三芳リカルドにしかだれながら去って行った。



そして明朝、島の至る所に弓夜と早苗の処刑を知らせる看板が立ったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ