第70話 近接格闘戦、それ如何に? やっぱ剣で戦うもんだろ
システム補助44%
……ちょっと待て! 何だ、この不吉な数字は!?
今まさにダイがボクサーと生死をかけて戦おうって時に、何4が二つ重なった数字が出てきてんだよ!
大体なんで前回から一気に3%も減っているんだ? ここ最近は全然減って無かったって言うのに、最悪のタイミングでボーナスを寄越すな。
まぁそうは言っても、ダイは怪獣をたった1人で撃破した実績を得たばかりなんだ。
言うなれば経験値が大幅に入ったばかりと言う訳だ。それが今になってシステム補助の数値減少と言う形で表れたって事だろうな。……多分。
しかし、だとしてもこの44の数字は不吉過ぎる。
あれか? 振りなのか? 不吉なことが起きる前振りなのか?
止めてくれよ、やっと怪獣を倒したってところなのによぉ。
さて、そろそろ本題に戻るが、余裕ぶっこくボクサーから先手を譲ってもらったダイは、容赦なくロケットランチャーを発砲した。
それも機能停止してる眼帯野郎他3機に向けて。
理由は2つ、1つは眼帯野郎たちが再び起動して襲ってきたら、その時点で5対1の敗戦必至となる。
だから先に破壊してフラグを折っておくのさ。常に先の事を考えて行動する、これが大事だ。
もう1つはボクサーの意表をつく事。仲間の機体が破壊されそうになれば、ボクサーも何かしらのモーションを起こすと考えたんだ。
もし仲間の機体を助けに入るのであれば、その時こそボクサーを倒し得る好機だ。サブマシンガンで遠慮なく蜂の巣にしてやる。
―――ズドォォォォォン!
だが、ダイの予測はどちらも外れた。
飛来するロケット弾はレーザーCIWSによって迎撃されてしまったんだ。機能停止してる眼帯野郎たちの何れかによって。
「なっ!?」
流石にこれは予想外だった。まさか機能停止してる筈のあいつらが自ら迎撃するとは思わねぇーもんな。
『おいおい、いきなり動けない相手を背中から撃つとは、なかなか卑怯な事をするじゃないかい』
やかましい! こっちはフェアで戦ってやれる程の余裕も志もねぇーんだよ!
『でもそれは無駄だぜ。機能停止してれば大丈夫かと思ってたみたいだが、CIWSはオートセットしてあるさ。対策無し歩兵機を放置する訳が無いだろ』
……おっしゃる通り。確かにこれは詰めが甘いと言わざる得ないな。
『そもそも小細工が通用するのは三下までだぜ。小細工だけで成り上がれる程、戦場は甘く無いんだぞ』
それもそうだな。割と言ってる事は的を射た正論なだけに、反論のしようが無いぞ。
それに、とても筋の通った倫理観も持ち合わせている。言葉の端々に重みを感じるし、ダイの胸にもかなり突き刺さるものがあるな。
今まで意思を持たない無人機ばかり相手にしてたからな、そういう倫理観なんぞ腹の足しにもならんわってダイは突っぱねていたが、しかし相手が有人機となれば話は変わってくるのかもしれない。
それにボクサーの言う通り、不意打ちを初めとした小細工は無人機のような三下にしか通用しないものだ。
小汚い手段で今まで勝ち進んできたダイだが、そろそろ潮時なのかもしれない。ダイはここから、新しい戦い方を身につけるべきなのだろう。
『さて、ビギナーズラックももうお終いだ。次はこっちから行っちゃうぜ』
「え、ちょっ……タイム―――」
『駄目だってぇーの』
ボクサーはまたも跳躍してきた。
凄まじい跳躍力で、ダイとの距離を一瞬で至近距離まで詰めてくる。
そしてすかさず仕掛けて来たのは鋭い右フック、跳躍の勢いを乗せた鋭い横薙ぎのパンチがダイを襲う。
しかし、これは1度見た攻撃だ。如何に凄まじい跳躍力で迫って来ても、1度見たなら躱せない事は無い。
ダイはボクサーの右フックをバックジャンプで回避。更にサブマシンガンを手に取って反撃に出ようとする。
「―――ぐはっ!?」
だが、ダイはボクサーのパンチをくらってしまった。右フックでは無く、その次にきた左ストレートを。
バックジャンプで回避したは良かったが、ボクサーは更に踏み込んで来て、右フックに繋げるように左ストレートパンチをイングリッド改のボディに叩き込んできやがった。
その左ストレートパンチをもろにくらって、ダイは地面に叩きつけられる。幸いイングリッド改に目立った損傷は無かったが、中にいたダイは衝撃のあまり意識を失いかけた。
当然と言えば当然だ。ボクサーの手はボクシンググローブに見立てた鉄塊そのもの。言うなれば鉄槌で殴られたのと同じだ。
それをコックピットのあるボディにくらったら、中にいたダイにも衝撃は凄まじいものに違いない。意識を失わずに済んだだけマシな方だろ。
それでも直ぐに受け身を取って立ち上がるが、ボクサーは追撃して来なかった。ファイティングポーズを解いて左拳を腰に当て、ステップも踏まずに棒立ちしている。
止めはまだ刺さないって事か。完全に余裕を見せてやがる、舐めやがって。
「……でも、これなら大丈夫だ。あれだけまともに受けても、機体は全く壊れていないぞ」
『そう思うかい?』
するとボクサーは右拳を横の岩壁に軽く当てた。と思えば―――
―――ズドォーン!
「なっ!?」
なっ!?
何だ、ありゃあ!!?
まるで爆破でもしたかのようなとんでもない破壊力だぞ。さっきまで垂直にそびえていた岩壁がごっそりと抉られていやがる。
しかも、一瞬だがダイはゾワッとする感覚に見舞われた。あれは波動兵器だ、波動兵器を内蔵したパンチなんだ。
つまり、殺ろうと思えばいつでも殺れるって事だ。ボクサーは最初から手加減してやがったんだ。
奴にとってダイなど、遊び道具でしかないと言うつもりか。とことん舐め切ってやがる。
『さ〜て、暫くはハンデを抱えてやるから、もうちょっと楽しませてくれよっ』
再び跳躍で接近してきた。また鋭い右フックが来るかと身構えたが、しかしフックパンチは来なかった。
今度はジャブパンチだ。モーションを最小限に留めて威力を落とした軽いパンチだが、その分出だしが早くスピードがある。
それにジャブはテンポ良くリズミカルに打てる事から、ワン・ツーみたいにジャブからストレートへの繋ぎとしても使われる。
しかしボクサーは、そのジャブからまた更にジャブ、更にジャブとジャブジャブジャブの繰り返しを仕掛けてきた。
これはラッシュ、威力ではなく打ち数を重視した高速連打だ。
「ぐぅぅぅぅぅ……!」
一発一発はそれ程強烈では無いが、超高速の連打は徐々にイングリッド改へのダメージを蓄積させている。このままではヤバい。
しかし身動きも取れない。ボクサーのラッシュにダイは両腕の籠手でガードするのがやっと、離れようにもボクサーはピッタリくっついて来て離れようとしない。
つまり、手も足も出ない状況って訳だ。何とかしろぉー、ダイー!
「駄目だ、引き離せない……だったらいっそ―――」
ダイはガードしたまま、引き離せないでいながら後退していた足を止めて、逆に前へ出した。
ボクサーの高速ラッシュに飛び込むように突進したんだ。無謀な極まりない行為だが、しかしボクサーの意表をつく事には成功した。
『うおっ!?』
思い掛けないダイの突進にボクサーはラッシュを崩され、更にダイはそのまま突っ切るように体当たりする。
体当たりはボクサーのバランスを崩した程度だが、ダイもその隙を逃すまいと更に前へ出て、思い切りのいいキックを打つ。
『ぐふっ!』
渾身のキックはボクサーを蹴飛ばすだけの威力を出してくれた。これで間合いが広がったぜ。
ダイはすかさずサブマシンガンを両手に取ると、
「うがぁー!」
一心不乱に乱射した。
機関銃だから連射力はある。ボクサーのラッシュ以上に凄まじい弾幕が、文字通り雨のように降り注いだ。
ダイの使ってるサブマシンガンは[FN P990 20mmサブマシンガン]と言う、P90を歩兵機用としたサブマシンガンだった。
20mmと口径は小さいが、この弾はサブマシンガンにしては貫通力のある珍しい特殊弾を使っている。だから口径の割に威力があるんだ。
そのサブマシンガンを両手に2丁構えでのフルオート乱射、まともにくらえばボクサーとてただでは済まない筈だ。
『危ねっ』
しかしボクサーも素早く回避した。持ち前の跳躍力でヒョイッとな。
ダイも逃すまいとサブマシンガンの狙いを定めに追いかける。いくら跳躍力があろうと、この狭い洞窟で回避し続けるのは不可能だと踏んで。
しかしボクサーも逃げてばかりじゃない、回避の最中で鉄塊の拳を振りかぶる。跳躍して右フックを仕掛けてくるのかと思ったが、しかしボクサーは跳躍しなかった。
跳躍せずに、右ストレートパンチを仕掛けてきたんだ。まだ距離があるにも関わらず、ボクサーは右ストレートパンチを打って―――飛ばしてきた。
飛ばしてきたんだ、腕のボクシンググローブにあたる部位だけを、ダイに向けて飛ばしやがった。
所謂、ロケットパンチだ。
「うそぉ!?」
流石にそれにはビックリさせられたが、寸前のところで何とか躱せた。しかしロケットパンチはそれだけで終わらなかったんだ。
何故なら飛ばしたロケットパンチはボクサーの腕とワイヤーで繋がっていた。それを引き戻す際に、ボクサーは鞭を振るうように飛ばした拳を操り、ダイに叩きつけてくる。
まるで鎖の先に繋がった鉄球のように……って、そんな使い方もあるのか!?
「マジかぁ!」
それも何とか躱せたが、しかし右手に持っていたサブマシンガンに直撃し、壊されてしまう。
貴重な武器だって言うのに、よくもやってくれやがったな。これでダイに残された武器は左手のサブマシンガン1丁だけになってしまいやがった。
そしてボクサーも拳を腕に戻す。多分あのロケットパンチは左腕にも搭載されているだろうな。近接戦オンリーかと思ったらあんな飛び道具を隠し持っていやがったとは。
『……ふぅん、普通なら今ので終わるところなんだけどな。アグナムから聞いてた割には、結構戦えるじゃん』
アグナム? ……なるほど、眼帯野郎の事か。遂に名前が明かされた。
『しかしモガミンよ、何で格闘戦をしないんだい? まさか出来ないって訳じゃ無いだろ』
「もっ、……モガミン?」
変な仇名つけんなや。お前はダイの彼女か。
大体このボクサー、さっきから馴れ馴れしいんだよ。俺達は友達じゃねぇーぞ。殺し合いをしてる敵同士だぞ。
「か、格闘戦は……できる。でも、ナイフが……無い。ドリル戦車に……使った、から」
『ドリル戦車って言うと、モリュートスの事だな。な〜るほど、さっきからプラント中の奴らが騒がしいと思ってたら、お前もフルボッコにあってた口か』
お前も、だと? 他にも無人機にボコられてた奴がいるのか?
ダイの他にも、このプラントで戦ってた奴がいる?
『なら随分苦労した事だろう。よく見たらそのサブマシンガンもさっきのロケットランチャーも、どっちもサージャーの武器だし。それを奪い取って今までやって来たとなれば、さぞかし苦戦を強いられてきたようだな』
サージャーと言うのは蜘蛛の事だな。ああ、そうだよ。相当苦労してきたんだよ、馬鹿野郎!
大体テメェーなんぞ、ダイの音速手榴弾が使えればどうとでもなるんだよ。手榴弾が無いから使えねぇーってだけで。
武器さえちゃんと揃ってりゃ、もっと存分に戦えるんだよ。同情するなら武器をくれ!
するとボクサーは右腕からボクシンググローブを脇に挟んで取り外して、五本指のある手を露出させた。
あのグローブ、取り外しできたのか。
『あんまり不便させて戦わせるのも酷だな。ほら、使いなよ』
そう言ってボクサーは五本指になった手で何かを掴むと、ダイに向けて放り投げた。
そしてダイの足元に落ちたそれを見て、何なのかが直ぐに分かる。それは大振りのナイフ……いや、ブレードだ。
鞘に収められているが、全長はイングリッドの腕の長さ程もある。ダイが今まで使ってきたナイフよりもずっと大振りだが、剣と言うには短い、そんな軍用として絶妙な長さのナイフがブレードだ。
だが不用意に取ったりはしない。敵の差し出した武器なんぞ罠に決まってる―――
「あ、ありがとう……」
―――って、受け取るんかぁーい!!
ちょっとは警戒しろよ! 罠だったらどうするんだよ!?
『……差し出した俺っちが言うのも何だけど、罠だとは思わなかったのかい?』
流石にボクサーも呆れたのか、俺と同じ指摘をしやがった。
何やってんだよ、ダイ。敵に心配されてるぞ。
「そんな事、する必要……ない。だってお前……その気になれば、いつでも……殺れる」
…………。確かに、ダイも考えていたのか。ボクサーが罠を仕掛ける必要が無いって。
ボクサーにはまだまだ余力がある。奴がその気になればいつでもダイを倒せるんだろう。
そうしないのは遊んでいるだけ。ブレードを渡したのもその為だ。敢えて武器を渡して戦い甲斐を得ようとしてるに過ぎない。
だからわざわざ罠を仕掛けるような小細工はしないだろう。考えて見れば、直ぐに分かる事だったな。
『はっはー、見抜いていたか。まぁだとしても、普通はプライドが邪魔して受け取らないものだけどな』
妥協主義のダイにプライドなる単語は存在しない。
そもそもプライドで腹が満たされるならダイは木乃伊になったりしない。
そうしてダイは拾ったブレードを鞘からおもむろに抜いて、そして唖然とした。
ブレードには、刃が付いて無かったんだ。
刃は付いて無いし、しかも溝があるし。刃の代わりに溝があるって、どんなブレードだよ。てかボクサー、テメェー何をよこしやがる。
『ロックを解除してスイッチを入れてみな。そうすると刃が出て来るぜ』
そんな馬鹿な、と思いながらもロックを解除してスイッチを入れてみると―――
「―――うわっ!?」
本当に出てきた。それも眩しく光るレーザーの刃だ。
『LPPブレード、レーザー生成プラズマ発振器を刃に用いたブレードさ。よく切れるぜ』
レーザーブレードか。まさかそんな近未来兵器が使える日が来るとは思わなかったな。
試しに横の岩壁にレーザーの刃を当ててみると、
「す、凄い! 本当に良く切れる」
マジかぁ、見るからに硬い岩壁がすうっと切れたぞ。
まるでバターにナイフを入れるみたいに楽々と刃が入った。切れた岩壁の切り口も溶けて溶岩化したし、恐ろしいくらいの切れ味だ。
これはいい物を貰ったぜ。今まで不便してた武装問題がこれ1つでチャラにできる程にな。
『じゃあ、そろそろ始めようか。これでまた少しは楽しめそうだしな』
ボクサーは右手にグローブをはめ直して、再びファイティングポーズを取る。
武器は手にしたが、しかし依然としてダイの不利は変わらないままだ。
でもこれは僥倖だ。今までの逆境を考えれば、ブレードを手にする事ができただけでもかなり優位に立てたに違いない。
ダイならきっと勝てる。ボクサー相手だろうと、きっと勝てる筈だ。……多分。
因みに軍事用で使われてるのはヴィブロブレードと言って、刀身を振動させて切れ味を増すだけのシンプルなブレードが一般的だ。それと比較したらLPPブレードはかなり先を行った技術が盛り込まれている事になるな。ボクサーは何故にそんな物を持ってやがった?




