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第13話 踏み躙られても踏み潰されても立ち上がれ。……潰されたら終わりか

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 今度は減っていた、これで漸く人並みのスタートラインに立てたってとこか。


「うぅ……ううぅ………………」


 正直どれくらいここで(うずくま)っていたか分からない。相当長~い時間こうしていたと思うけど。


 もしかしたら日付も変わってるかもしれない。怪獣の足音も、今は聞こえない。


 近付いていた足音も実際は遠ざかる足音だったのかもしれないし、いつから聞こえなくなったのかも分からない。もしかしたら直ぐそこいるのかもしれない、ずっと息を潜めて。


 いや、恐いわ!


 けど冷静に考えてそれは無い。遠目では見つからないにしても近くに寄って来られたら確実に見つかる、ダイの隠れている場所はそういう所だ。


 そして見つかったのなら波動砲が飛んでくるに違いない、あの怪獣なら絶対そうする。それが無いと言う事は、見つかってはいないと考えるべきか。


 ―――ガタン!


「ひっ!?」


 突如、無駄によく響く音がした。あまりに突如過ぎてダイが悲鳴をあげてしまったし。


 何かと思って思わずバックモニターで確認したら……なんか手っぽいのが転がっていた。


 いやいや、恐いわ!!


 薄暗い中にいるせいで良く見えないんだが、それはどうも人の手っぽく見える。それが良く見えないと言う状況が尚更恐いし。


 ダイにしたらより一層の恐怖だった。このまま何かも分からないでおいとくのは絶えられないな。


 外に出るのは勿論恐いが、あれが何かも分からない事の方が余計に恐い。人間理解の及ばない事には過剰に恐怖心を抱くものだ。


 ダイは恐る恐る壁の外を覗き見る事にした。せめて銃くらい構えとけと思うんだが、今のダイにそこまでの考えは回らない。


 そして覗き見た先にあったのは―――地面に転がった四本脚のマッチョ腕だった。


 当然だが大広間には駆逐された四本脚の残骸が多数、頭無しの残骸もちらほらとある。幾つかは折り重なるようになっているから、多分その内の1つが崩れたんだな。


 そしてその大広間に怪獣の姿はなかった。


 残骸の周辺だけでなく大広間全域を天井まで隈無く探したけど、結局怪獣は見当たらない。


 大広間はだだっ広いだけで本当に何も無い空間だが単純に丸い空間と言う訳ではなく、ドーナツ状の輪っかになった空間になっていた。


 多分怪獣は今、ダイの視界に入らない対角線上の向こう側にいるんだと思う。何故そこに行ったのかは分からないが、他に隠れる所も無いから多分そうだろう。


 なんにしても怪獣はいない。それだけ物凄く安心した、助かったんだからな。


「う、くぅ……」


 それでダイが喜ぶかと思ったんだが、そんな事は無かった。


 正直俺も意外だったよ。妥協主義上等のダイが命かながら助かったにも関わらず、震える身体で嗚咽を漏らしている。


 泣いているんだ、ダイは。


「ああああああああああ!!」


 それは大広間に響き渡る程に、怪獣が来るとも知れない中で、ダイは見っともないまでに泣き叫び喚いた。


 しかしそれは恐かったからとか、死ぬかと思ったとかそんなんじゃない。ダイは悔しくて泣いていた、屈辱故にだ。


「ああああああああああ!!」


 ダイってな、高校での学生カースト最底辺で標的にされてたと言ってたが、この際はっきり言うといじめを受けていたんだ。それもかなり悪質なやつな。


 ダイの他にも最底辺の奴はいたしその中でいじめを受けた奴もいたが、そいつらは皆自主退学に追いやられて既に高校からいなくなっていた。


 あくまで自主退学だから学校側は知らぬ存ぜぬが通るし、問題にも上がらない。進学校だからそう言った問題は表沙汰にしたくないからな。


 標的にされてから退学に追いやられるまで大体1ヶ月そこら、長くても2ヶ月耐えた生徒はいなかったそうだ。


「ああああああああああ!!」


 けどな、ダイはそんな環境を3ヶ月以上も耐えていたんだ。それ程の環境にも関わらず、あの臆病者で妥協主義なダイが、だぜ。


 単に厳格な母親が許さなかったというのもあるかもしれない、他の退学した生徒は家族が味方してくれたらしいからな。それに家に居場所がないというのもある、だったら学校を辞めても意味が無いようなものだ。


 けどな、同時にそれこそがダイの唯一の強さでもあったんだ。


「ああああああああああ!!」


 決して(ほこ)る事も出来なければ(おご)る事も出来ない、本当にちっぽけでなけなしの強さだが。しかしそのささやかな強さこそがダイの芯を支える土台であり、何者も踏み入れてはならない最後の砦でもあった訳だ。


 誰にだって譲れないものはある、ダイにとってその強さこそがたった1つのそれだったんだ。


 なのに結果はどうだ? 命欲しさにただただ逃げるしかなく、逃げられなくなったら隠れて蹲ってやり過ごすしかなかった。この一連の結果にダイのなけなしの強さなんかあったかい?


「ああああああああああ!!」


 ダイは踏み躙られたんだ。最後の最後に失っちゃいけないものを、完膚なきまでに踏み躙られてしまったんだ。


 結局そうなったのは単なる暴力だ。今までのいじめも暴力でしかなかったが、しかしダイはそれにずっと耐えて続けてこられた。それがダイの強さだったからだ。


 それが怪獣の暴力で一瞬にして瓦解した。あまりにも呆気なく……ってガキどもの暴力と国際問題レベルの暴力を一緒にすなぁー!


「ああああああああああ!!」


 いや、さっきからずっと泣き叫んでいるけど、流石にあれは仕方ねぇーだろ。恥を承知で言うがな、俺だってあれは逃げ隠れするよ。あれは恐い、マジで。


 だが多分ダイが泣き叫んでいるのは、自分の晒した恥に身を切られる思いなんだ。


 安易に使うべきじゃないセリフだと分かってはいるが敢えて言おう。死んだ方がマシだ、と本気で思っている。


「ああああああああああ!!」


 今まさに死ぬことを肌で感じたダイだが、死ぬのが嫌で自分の強さを捨てて生き延びることを選んだダイだが、自分で選び取った今の自分自身が死ぬほど許せないから泣き叫んでいるんだ。


 死んだ方がマシ、そう思い至るまでの屈辱感だったんだ。


 今までの何もかも妥協してきたダイが初めて、それも死んだ方がマシと思えるまでに悔しがっているんだ。自分のたった1つの強さを捨てたことにな。


「あああああ!! もういい、辞めてやる! こんな所出たら歩兵機捨てて辞めてやるっ!」


 そう、それがダイの出した答え……って何言ってんの、こいつぅー!!?


 歩兵機を捨てるだと? 許さんよ、俺は許さんよ。


 漸く泣き止んだかと思ったら(ろく)でもない決意を固めやがった。いい加減こいつに一言いってやりたいところなんだが、如何(いかん)せん()()()()()()()()()()()()()


 で、碌でもない決意を新たにしたダイはこの地下施設から脱するべく立ち上がった。


 それはいいんだが、さてここからどうする? だだっ広い大広間を探索すれば上に行けるだろうけど、それは却下な。もう怪獣とは会いたくないし。てか恐いし。


 なら怪獣がいない間に地下4階へ下りて別ルートを探すしかないな。


「……はぁ、戻ろっか」


 ダイはここへ来たトンネルに足を運んだんだが、直ぐに足を止めざるを得なくなった。


 トンネルが出入口の直ぐ近くで塞がっていたんだ。マジか……。


「ええぇ……」


 そう言えばここへ来る途中でダイがロケットランチャーぶっ放してトンネル内の鉄骨を崩し落としたっけな。そこへ四本脚と頭無しの残骸が折り重なって、見事に通路を塞いでいた。そう言えばこいつらずっと出入口付近で戦ってたわ。


 多分……いや間違いなく怪獣の波動光線でこうなったな。改めて見ると分かる、波動光線の恐ろしさ。やっぱ逃げて正解だろ。


 これはイングリッドの力ではどうにもならない、残骸をどかして通路を通るのは無理だろう。しかし下へ降りないと道は無いし、食糧とかもあっちにある訳だからな。


 他に下へ降りる手段と言ったら―――


「……あれしか、ないかなぁ」


 あれ、とはつまり穴だ。


 ダイが怪獣をやり過ごすのに隠れていた壁の穴だが、その中にも落とし穴みたいな穴があった。と言うより壁の中はこの穴しかない、穴を隠す為の壁みたいな感じだった。


 ダイはこの穴の淵に立ってやり過ごしていた訳だが、この穴って多分下の階層に繋がってるよな?


 上と下の階層でどれ程の距離があるのかは分からないが、この底の見えない穴なら繋がっているに違いない。


「行くしかないか……」


 物は試しだ、行ったれぇー!


 だが飛び降りるのはNGな、あんまり深いと落下の衝撃で大破って事もあるかなら。


 そこでダイは天井にフックランチャーのフックを打ち込んでザイルの代わりにした。


 過去にフックランチャーが外れたの悲劇にあったが、本来フックランチャーのワイヤー1本でぶら下がるのは歩兵機の質量と腕の関節の都合上無理なんだ。


 なので今度は両腕のフックランチャーで2本、これならギリギリぶら下がるくらいなら出来る。念の為穴の横壁に足をつきながらゆっくり降りるけど。


 しかし底の見えない穴に降りるのは中々勇気がいるな。ただでさえ薄暗い壁の中だから距離感が全く分からないしな。


 加えてイングリッドにはライトとか付いてない。暗視モードなら搭載されているんだが、見える筈の穴の底が見えるような見えないようなでまるで役に立ってなかったし。


 本来こんな底の見えない穴ん中に降りる事なんざ臆病なダイには無理だと思ってたんだがな。しかし流石にあんだけ死ぬような思いをしたら度胸も付いてきたって訳か。これが維持できればいいんだがな。


 ふとダイが眠気に襲われた。時計を見るとここに来てから1日以上が経過している、もうそんなになってたか。地味に腹も減ってきたが手持ちの食糧が幾つかあるしそれは大丈夫。と言うよりトイレに行きたくなってきて、今はあまり飲み食いとかしたくなかった。


 取り敢えず下についたらまず小便だ。トイレは無いだろうが小便くらいその辺でやればいい。


 だが睡眠はどうするか。頭無しとか四本脚がまだそこら中にいるかもしれない状況で熟睡するのは無理だな。何処か安全が確保されそうな場所を探して一眠りしないと。


 いや、一眠りどころじゃない。外へ出る手段が無い以上、今はこの地下施設の何処かに拠点を作るべきだ。


 ダイもこれまでの事を反省して色々考えてた。勝てない相手と遭遇して逃げるにしても闇雲に逃げていたら怪獣の巣に戻るような羽目になる。


 ならばちゃんとした逃げ込む為の場所、つまり拠点が必要になると言う事だ。逃げ込むだけでなくちゃんと休息も取れて不用意に侵入されない、その為の拠点が。


 下に降りたら、まずは拠点を作る。それが第1の目標だ。


 まぁ何にしてもまずは下に降りたら……あれ?


 随分降りたと思うがちょっとこの穴、深過ぎやしないか? 地下3階と地下4階ってこんなに差があったっけか?


「……そう言えばライフルが弾切れだった。空の弾倉、落としてもいいよね」


 落としていいけどダイ、お前ライフルってあの左腕の無い四本脚にしか撃ってなかったよな?


 あいつ直ぐにやられたけど、お前全弾撃ち込んだのかよ……弾の無駄じゃねぇーか。予備弾倉5つあっても全然足りねぇーぞ。


 で、空の弾倉を落としてみる。これで底があとどれくらいなのか分かるし。―――ポイっとな。


 ……………………


 …………………………


 ………………………………カタン。


「遠ぉおおおおお!!?」

 遠ぉおおおおお!!?


 これ地下4階じゃない! 1階分の落差じゃない!!


 おかしいと思ってたけど、これ地下5階にまで達してる! ひょっとしたら地下6階まで達してんじゃねぇーか!?


 ヤベェーぞ、万が一地下6階まで降りたらどうする? 直ぐに上の階層へ上がれるとも限らないし、一番の問題は食料だ。これがマジでヤバい。


 見つけた食料は4階の食堂に置いてきた。地下の5階、6階に食堂や食料庫があれば助かるんだが、もし無かったら今の手持ちで4階に上がるまで持ち堪えないとならない。


「ヤバ……残りの食事、何食分残ってるだろ?」


 急遽手持ちの食料を確認した。元々は4日分の食料を1日2食に節約して持ってきて未だ手を付けてはいない。


 4日、結構厳しいぞ。だが今更戻れないし、戻っても先に進む道が無いし。


「……進もう。もうどうにでもなれだ」


 こいつ、やけくそになってやがる。大丈夫か?


 それから暫くして底に着いた。遠いと言っても東京タワーを昇り降りしてる訳じゃない、歩兵機で降りればそこまで時間はかからないさ。


 ただ降りた先は何もなかった。周囲360°全て壁、道なんてものはどこにもない密閉された筒の中だ。無駄足かよ!


「トイレ行こ」


 しかしダイは気にせず歩兵機から降りて用を足す。地味に調子が戻ってきたじゃねぇか。


 ダイ自身がここに立った感じ、下はコンクリートの地盤のようだ。周りを見渡してみるも暗いから何も見えないし分からなかった、やっぱ歩兵機の暗視モードがないと視界もままならないな。


 そんな訳で用を足したダイは直ぐ歩兵機に戻ろうとしたんだが


「……風?」


 まさか歩兵機から下りて風を感じるとは思わなかった。


 風、この密閉された筒の空間に風が吹いている。どこかから外に通じているのか?


 それに気付いてダイは直ぐにイングリッドへ戻った。未だ天井に突き刺さったフックを抜いて戻し、手探りで全周囲の壁を調べる。


 見えないだけで何処かに通路があるのかもしれないしな。


 結局通路は無かったが、壁の一部がゆるいところを見つけ出した。そこだけちょっと叩けばぐらぐらする、建付けの悪い壁だ。


 ダイは思い切って壁を蹴った。そしたらもう簡単に抜けたよ、壁が抜けた先にはかなり広い空間が広がっていたさ。


 広いだけでなく天井も高い、8mのイングリッドから見ても高いくらいだ。しかしその空間にはコンテナがいくつも積み上げられていて、広い筈なのに何故か狭苦しく感じられた。


 どうやらここは倉庫のようだ。ライトも点いていて明るいし、クレーンやリフトなどの機材もある。


「……あ」


 そしてその倉庫の中心には―――四本脚もいた。

腕からワイヤー出してぶら下がるシーンを色んな所で見た事があると思うけどな、あれって腕とか肩とかにぶら下がっている全質量の負荷がかかるんだぜ。並みの人間でも肩が外れそうなもんだが、歩兵機みたいなロボットなら寧ろ当然の如く外れるだろ。だから大概はフィクションなのさ、現実的に考えればダイみたいに外れるか、2本でやっとぶら下がれるかってところだ。リアルとはそう言うものなのだよ!

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