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第10分のB話 影無しちゃんは語りたい……どうせ影無しですよ

ハヤセ視点

 学校で最上(もがみ)君が歩兵機戦をやった、つい昨日あった出来事を私はクラスメートの宗谷美咲(むねたにみさき)から電話越しに聞かされていた。ここ病院なんだけど……。


『ちょっと聞いてるの、日向(ひなた)!?』


「だーかーらー、最上君とは何も無いしロボットの事も知らないってばぁ」


 スマホの先で美咲ちゃんが苛立たしそうに怒鳴ってきた、そんなに怒られても言える訳無いよ。実は私も乗ってしまた、なんて。


 美咲ちゃんはさっきからずっとこの調子だ。私が最上君と一緒に下校したのを見てたみたいで、私達の間に何かあるんだと睨んだみたい。


 そしたら最上君が学校で歩兵機ダオスロードを乗り回して大騒ぎ、それで私も関わってると察したんだと思う。美咲ちゃん、勘がいいからなぁ。


 それより何より私がその辺の事情を美咲ちゃんに話していない、と言うか何かを隠してる事に気付いたから今こうして問いただされているんだけど。自分が除け者にされるのが何よりも嫌なんだなぁ、美咲ちゃんは。


『日向、正直に言いなさい。あなた知ってたんでしょう? 最上君がロボットに乗ってた事を』


「本当に知らないよぉ。あぁ、もう診察だから切るね」


『ちょっと日向、待ちなさ―――』


 スマホを切って強制終了した、診察時間と言う嘘を使って。だってそうするしか無いもん、それに本音を言うと私は美咲ちゃんの事は少し苦手かな。


 美咲ちゃんと出会ったのは中学の時、今も通ってる英会話塾で知り合った先輩に紹介されたのがきっかけだった。その先輩は本当にいい人でとても頼りになるお姉さんだった。


 今は大学生であまり会えなくなったけど、美咲ちゃんとは幼馴染みみたいで今も交流があるみたい。


 私と美咲ちゃんはその先輩の紹介で親しくなった、今思えば私の学生生活を案じて引き合わせてくれたのかもしれない。私って友達とかいなかったから。


 先輩は大学先でもバイト先でも活躍していて、今はもう就職の事も考えてるそう。久しぶりにまた会いたいなぁ、美咲ちゃんの事も相談したいし。


 そう言えば先輩の苗字って[最上]だったけど、ひょっとして最上君のお姉さんだったりするのかな?


 ……まさかね。


 でも私は、美咲ちゃんとはあまり上手くいってない気がする。私は思った事を口に出来ないけど美咲ちゃんはズケズケと言ってくるから次第に上下関係みたいなのが出来上がってしまって、気付いたら私はクラスの最底辺で美咲ちゃんは最上位に分けられていた。


 少し距離を置いた方が良いのかな。でもそうすると最上君がいなくなったから、次にクラスの標的にされるのは私かもしれない。それはやだなぁ。


「日向さーん、診察室へどうぞ」


 本当なら最上君の事を心配してあげなきゃいけないんだけど、今は私自身の事で手一杯だもん。最上君ごめんね、ダオスロードは譲ってくれなくていいから許してね。


 やっぱり美咲ちゃんとの付き合いは続けた方がいいのかな。でも私と最上君の事疑ってるし、美咲ちゃんの方から離れていくかも……そうなったら次の標的は私で確定だね、多分美咲ちゃんが主犯格になる。


「日向さーん? 診察室へどうぞ」


 いっそ引きこもろうかなぁ。ダオスロードも無くなったし、ニートに堕ちるのも手かも……。


 いやいや、やっぱりそれはダメだよね。だったら先輩に連絡とって美咲ちゃんとの間に入ってもらおうかな。それで丸く収まるならいいけど。


「日向さーん?」


「……あ、はいっ!」


 うっかりしちゃった、看護婦さんが何度も呼んでくれてたのに全然気付かないなんて。


 取り敢えず学校の事は保留にしよ。どうせ暫くは学校を休む事になったんだし。


 それで看護婦さんに促されて診察室に入った私だけど、診察室に医者さんはいなかった。……あれ、なんで?


「日向ハヤセさん、ね。それでは診察を始めましょうか」


 そう言ったのはさっきの看護婦さんだった。何故か医者さんが座る筈の席に座って、私と対面している。あれ、ひょっとして看護婦さんじゃなくて女医さん……の格好じゃないよね。


「SR-7D3/MPM.η」


「…………はい?」


「聞き覚えがないかしら? SR-7D3/MPM.η」


 無い、と思うんだけど。でも2度聞くとそう言えば聞いた事があるような無いような。でもこれって診察なの?


「あなたも乗っていたわよね。あの崖の下で、最上ダイと一緒に」


「っ!?」


 思い出した! 私を誘拐した歩兵機が最上君に言ってたんだ、SR-7D3/MPM.ηはどこだって。え、でも何で看護婦さんがその事を知ってるの?


 その時看護婦さんは足を組んで綺麗な美脚を露わにして、私は思わずドキッとしちゃいました。あ、別に生脚に見惚れたからじゃ無いよ。


 私がドキッとしたのは看護婦さんの組んだ脚に……拳銃っぽいものが見えたから。


 拳銃っぽい……ううん、多分それ本物の拳銃ですね。分かってました。よく見たらこの看護婦さん、日本人じゃ無いし、眼光がプロの殺し屋さんみたいに鋭くなったもん。


 ……どうしよう。ピンチだよね、これ。


「あれね、私達の歩兵機なの。だからあなたがあれに乗ってたことって全部筒抜けなのよ、初めて乗ったとは思えないスマートコントロールにこっちがビックリさせられたわ」


「あの……あなたは、一体……」


「あなたの味方、少なくとも今はね」


 優しく言ってくれたけど、看護婦さんから伝わる気迫と言うか威圧と言うかのプレッシャーに全く安心出来ないよぉ。


 だって普通に拳銃とか隠し持ってるって事は、撃つのも慣れている人なんですよね。それって普通に怖いです。そして日本では捕まります。


「話が変わるけどあなたのお友達の最上ダイ、失踪したわよ」


「……え?」


 失踪? 今度は最上君が失踪したの? 美咲ちゃんから聞いた話だとどっかの国の人に連行されたって聞いた筈なのに、なんか全然話が違うよ。


「ええ、実際に最上ダイはあなたの通う高校からある組織によって連行されたわ」


 あれ、ひょっとして心読まれたかな。看護婦さん、さも当然みたいに不敵な笑みを浮かべてる。ますます怖くなってきたよぉ。


 本当は看護婦さんじゃ無いのは流石にもう分かったけど、じゃあ何をやってる人かと聞かれても分からない。ただ警察とかよりももっと凄い人なのは確かだけど。


 どこかの国のスパイとか軍人とか……まさな本当にプロの殺し屋とか!?


「でもね、最上ダイは輸送される最中で何者かに拉致されたの。そのまま失踪してロシア国内で足取りは途絶えてしまったわ」


 ロシアに連れ去られたの、最上君!? しかも拉致って、つまり誘拐だよね? 誘拐された私を助けに来て今度は自分が誘拐されるって……木乃伊取りが木乃伊になってるよ。


「私達は何としてでも彼とその歩兵機を見つけ出さないといけないの。クロステーゼよりも先に、ね」


「……クロステーゼ、ですか?」


「私達の敵よ。そして日向ハヤセ、あなたにとってもね」


 え? なんか物凄く怖くなってきたよ。なんで私に敵がいるの?


「クロステーゼが最上ダイを連行したのは歩兵機に乗っていた事実が発覚したから。でも歩兵機はパイロット登録をしないと搭乗できない仕組みだから、歩兵機そのものを調べればそれも簡単に分かるわ。あなたが乗っていた事もね」


 パイロット登録、勿論知ってますよ。最上君と一緒にしましたから。


「……じゃあ私が歩兵機に乗っていた事がバレたら……私も連れて行かれるの?」


「もうバレてるわよ」


 詰んじゃった、うぇーん……。


 どうしよう。もう学校とか美咲ちゃんの事とかの話じゃないよ、私これからどうなっちゃうの?


「単刀直入に言うわよ。日向ハヤセ、あなたをスカウトするわ。私達のもとへ来なさい」


 ああぁ、やっぱりスカウトされちゃうんだ……え? スカウト?


「言ったでしょ、私達は味方だって。それにあなたの操縦技術にもビックリさせられた、あなたには抜きん出たセンスがあるのよ」


「えっと……恐縮です」


「私達としてはその才能を放っておきたく無い、それに私達のもとに来れば今よりも身の安全は保障出来るわ。クロステーゼと言えども私達への直接的な接触は出来ないからね」


 本当に何者なんだろ、この看護婦さん? なんだがどんどん話が大きくなってて、ついて行けないよぉ。


「それに最上ダイ、彼を助ける為にもあなたの協力が必要だと考えてるわ」


「私の協力、ですか?」


 それって私と最上君が特別な関係だからって事? 別に最上君とはそんなに親しい訳じゃないんだど、この看護婦さんもそんな風に勘違いしてるのかなぁ。


「最上ダイの歩兵機MPM.ηにはあなたも正規パイロットとして登録されている。失踪した歩兵機を探すにあたって登録されたパイロットは必要不可欠よ。ならそれは1人でも多い方がいい、でしょ」


 あ、そうか。


 確かに看護婦さんの言う通りだね。ダオスロードにパイロット登録した私はもう無関係では無いんだから、探すとなったら関係者が立ち会うのは当然かな。


「どうかしら? 強要はしないけど、選択の余地は無いと思うわよ。それともリスクを承知で元の影無しちゃんに戻りたい?」


「…………」


 どうして私の仇名まで……分かっちゃうんだろうなぁ、多分この人達はそう言う事が出来ちゃう人達なんだね。


 そりゃあ選択の余地は無いかもだけど、実際今後の学生生活に先行きが見えなくて悩んでもいたけど、でもだからって二つ返事で了承出来る事でも無いよ。


 だって私は、この人達の事をまだ何も知らないから。


「……あなた達は、何者なんですか?」


 これを聞かないと、私は素直に頷けない。例えもう心は決まっているとしても。


「ディガロ」


 ……え? 今、ディガロって聞こえたけど、なんだろう? 聞いた事の無い単語だったよ。


「世界の平和を守るために活動している。抽象的な表現で申し訳ないけど、今はそれしか言えないわ。良い返事を待ってるわね、日向ハヤセ」


 それ以上は何も言わない様子で、看護婦さんは診察室の扉を開けて私を外に促した。謎の名刺を手に持たせて。


 支払いの待ち時間の間、私はその名刺を物思いに見ていた。[DIGALO(ディガロ)]と大きく書かれたその名刺は他に何も書かれていなかったけど、裏には手書きで電話番号が小さく書かれている。


 ここに電話しろってことだと思うけど、私は直ぐには答えられなかった。その前にどうしても話したい相手がいたから。


 支払いを終えて(診察らしい診察はしてないと思うけど)病院の外に出た私は直ぐに電話をかける。暫くコールが続いてから通話に出てくれた。


「もしもし、先輩ですか? 私、日向です」


 電話をかけた相手は中学の時お世話になった先輩、最上高嶺(もがみたかね)さんだ。


 私は先輩にだけは歩兵機の事を打ち明けようと思う。どうせディガロのところに連絡したら帰って来られないだろうから、だったら先輩にだけは話しておきたい。


 と言うより、もう私1人じゃ抱え切れないよ。誰かに話して楽になりたかった。それで真っ先に思い浮かんだのが、一番信頼できる先輩だよ。


『……日向ちゃん?』


 あれ? 先輩少し元気がない?


 どうしたんだろう。


「あの、先輩。昨日お見舞いに来てくれたって母から伺いました、ありがとうございます」


 先輩は私が誘拐されて無事保護された翌日、つまり昨日にお見舞いに来てくれたみたい。その時私は病院で警察から事情聴取を受けていたけど。


『ああ、その事ね。別に気にしなくてもよかったのに。わざわざありがとう、日向ちゃん』


「いえ、……あの、先輩大丈夫ですか? なんか元気が無いようですけど」


『……ごめんね、ダイの事で色々あったから』


「え、ダイって……最上、ダイ君?』


 それじゃあやっぱり、先輩と最上君は……姉弟(きょうだい)!?


『あら、ひょっとして日向ちゃん気付いてなかったの? 昨日自宅に電話をかけてくれたでしょ、あれ最初に出たのって私よ』


 ほにゃあああああ!?


 うそ、うそうそうそ、うそだぁ!


 じゃあ私は先輩だと気付かずに最上君に替わってくださいとか言っちゃってたの!? 私、自分がアホ過ぎてヤバい!!


『ねぇ、日向ちゃん。ダイの事はもう知ってるのかしら?』


「あ、はい。美咲ちゃんから聞きましたから……」


 それで結構揉めてましたけど、流石にそれはもう話せないかなぁ。


『そう。ねえ日向ちゃん、あなたもしかして……いえ、なんでもないわ。ごめんね、変なこと聞いたりして』


「…………」


 先輩も私と最上君が歩兵機に関わっていた事に勘付いている、でも私に気を遣って聞かないでくれたんだ。歩兵機に関わった意味では私も被害者だから。


 やっぱり先輩は優しい人だなぁ、私の事を気遣って直ぐにでも聞き出したい最上君の事を聞こうとはしなかった。そう言えば最上君にも、何と無くそんな気遣いのある優しさがあったかな。


 本当なら最上君の事も歩兵機の事も含めて全部話したい。先輩にだけはちゃんと説明しておきたい。けど、やっぱりそれはダメだ。それは今話したらいけない事だ。だからせめて―――


「―――私が、連れて帰ります」


 せめてそれだけは、ちゃんと伝えておきたい。


「私が最上君を連れて帰ります。必ず連れて帰りますから、だから……だから先輩は、最上君の帰りを待っていてあげてくださいっ! お願いします!」


『えっ? 日向ちゃん、それってどういう―――』


「あの、これで失礼しますので、それでは!」


 そう言って私は電話を一方的に切った、美咲ちゃんの時と同じように。


 さよなら先輩、最上君のことは私が必ず連れて帰りますから。


 それから私は名刺の裏に書かれたところへ電話をかけた。今の私には明確な目的がある、それを実行する為にも私は覚悟を決めなければならない。


 さよなら、影無しと呼ばれてきた私……。そしてこんにちわ、歩兵機乗りの私!


『あら、意外と遅かったわね。ハヤセ』


 電話に出たのはさっきの看護婦さんでした。何と無く分かってたけど。






 その後私は地元の小さな図書館に来た。小学生の頃以来全く来ていなかった図書館は今も昔と変わらなかった。


 図書館には幾つかの個室があって、私はその内の一室に3回のノックをしてから「どうぞ」と言われて中に入った。


 中にはさっきの看護婦さんが、今度は私服姿で個室に備え付けの椅子に座って私を見ていた。それも睨んでるくらいのレベルで。


「鍵は閉めておきなさいよ」


 そう言われて閉め忘れた鍵をかけておく。


 さっき会った時よりも雰囲気が鋭くなった感じがするのは気のせいじゃないよね。多分この威圧感がこの人の本来の有り様なんだと思う。


「分かってるとは思うけど、一度踏み込んだらもう後には引けないわよ。それでもいいと言う覚悟があって来たのかしら?」


「もう私に引き返す道はないです。一度と言わず何度でも踏み込んでやりますよ」


 そうだ、引き返すなんて最初から出来ない。あの日最上君とダオスロードにあった時から、きっと私の運命はこうなるように決まってたんだ。


「……その前を見据えた目、嫌いじゃないわよ」


 不敵に笑うとおもむろに立ち上がって私の前まで来て、隙のない動作で私に握手の手を差し出してきた。ちょっとビクッとしてしまったけど、私は平静を保って握手に応じた。


「改めまして、アメリカ軍特殊歩兵機部隊ディガロの副隊長カミラ・ヘールズ中尉よ。3ヶ月であなたを一端の歩兵機乗りに鍛え上げて見せるわ」


「1ヶ月で一流になってみせます」


 3ヶ月も待ってられない、1ヶ月が目標だ。それで一流の歩兵機乗りになってみせる、どんな地獄を見ようと乗り越えてやるんだ!


 1ヶ月、それまで待っててね最上君。


「いいわね、その度胸。虐め甲斐があるわ。いらっしゃい、Mr.ジーザスに合わせてあげる」

そう言えば先輩と美咲ちゃんは幼馴染みだけど、先輩と最上君が姉弟なら美咲ちゃんと最上君も幼馴染みになるのかなぁ……あれ? なんか、ムカつく?

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