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第10話 外れたの悲劇……暫く立ち直れませんでした

 システム補助94%


 いつの間にかまたシステム補助の数値が下がっていた。多分ダイが全力疾走している最中で歩兵機での走り方のコツを掴みつつあるんだと思う。


 で、その全力疾走真っ最中のダイだが、スタミナはとっくに尽き果てていた。


 怪獣から逃げる時に使い切ったようなものだからな、休憩を挟んだとしても回復はあまりしていない。それに喉も渇いていたし、水分補給が望めない中での全力疾走はスタミナ以前に命にも関わり兼ねない。


 それが普段運動をしないダイだから無理な全力疾走は本当に命が尽きるかもしれないんだ。何事も無理をすれば身を滅ぼす、覚えとけ。


 それでも速度をなるべく落とさずに全力疾走していられるのは鬼気迫るものがあるからだろうな、てか今まさに背後から危機が迫ってきてるんだけどな。捕まれば死と言う恐怖が死にたくないと言うダイの意識を奮い立たせていた。


 そして漸くT字状の曲がり角が見えてきた。あそこを曲がって真っ直ぐ行けば武器庫だ。


 ダイは走り切る事が出来た、と言う達成感の期待を抱いてしまったのが油断に繋がった。先頭の頭無しに追いつかれて片脚を掴まれたんだ。


「うぎゃあ!? は、離せぇー!!」


 脚を掴まれた頭無しに最後の波動砲を撃つ。頭無しは後続を巻き込んで吹っ飛ばされたが大破したのは先頭の1機だけ、他はまた直ぐに追って来た。


 ダイも直ぐに駆け出す。掴まれた脚には頭無しの手首だけが残っていて、鋭い爪が太腿の外装にめり込んでいる。地味に鬱陶しいな、これ。


 思わぬ事態に肝が冷えたが、お陰で気も引き締まった。だが波動砲を撃った際に一度立ち止まったせいでしんどさが更に増した。急がないと本当に倒れてしまうぞ。


 T字状の角を曲がって後は一直線、なのに地味に遠い。何なのこの距離、必要あるの?


 それでもめげずに武器庫の扉の前まで来た。横の壁にあるスイッチを押すと扉が開き始めたが、この扉隔壁ほどじゃないがかなり分厚くスライドして開き切るまでが割と遅い。


 早くしてくれと願うも扉の開く速さは変わらない。そうこうしてる内に頭無しが迫って来た。このペースだと追い付かれるかもしれない。


 やっと開き切ったところでダイは中に入り扉を閉めた。だが扉は開くのも遅ければ閉じるのも遅かった。


 不味い、追い付かれる。


「れ、レーザー!」


 ダイはレーザーCIWSで牽制、先頭の頭無しを怯ませる事には成功したがそれも一瞬の事で直ぐにまた迫ってくる。大体そのレーザーは攻撃用じゃないんだよ。


 それでもレーザーで必死に牽制する。今まともな飛び道具はこれしかないからだ。


 そして先頭の頭無しが扉の前に差し掛かったところで、波動砲の1発分が溜まった。こいつは僥倖だぜ。


 直ぐさまレーザーを止めて波動砲を撃つ。この扉までの通路は狭い一本道だったが故に回避は当然出来ず、それどころか後続を何機か巻き込む事にも成功した。


 再び頭無しとの間に距離が出来る。だが、奴らがまた迫ってくる前に扉は閉まってくれた。何とか助かったみたいだ。


「はぁ、はぁ、あぁー……」


 緊張の糸が切れてダイはその場にへたり込む。まぁお前にしては良くやった方だよ。自己ベストは間違いなく更新してるぜ。


 一息ついてから武器庫の中を見渡す。そこにはダイの期待通り幾つかの銃火器は選り取り見取りに揃っていた。これだけあれば十分戦える、筈だと思う、多分。


 武器庫は奥にもう一部屋あったけど、何故かそこの扉には英語で[危険物注意]と書かれていた。そんなの見せられたら開けろと言ってるようにしか見えないが、気の小さいダイはそんな事出来ないし。


 とりあえずここの武器を物色しよう。あの頭無しを相手にするのはその後で―――と思ってた矢先、武器庫の扉が開き出した。


 そりゃそうだよな。考えたら分かるけど、ダイが普通に開けられたんだから頭無しに開けられない筈無いもんな。


 つくづく考えが足りないな、ダイも俺も。


「ヤバ……」


 頭無しがなだれ込んで来る。その前にダイは駆け出し武器を手に取ろうとした。


 ダオスロードの目で見たお陰か、武器の簡単な詳細も表示してくれた。これは非常にありがたい、素人知識では何を使えばいいのかも分からないからな。銃と思って使ったらライターでしたなんて事にもなり兼ね無いし……流石にそりゃ無いか。


 で、そんな選り取り見取りの銃器類の中からダイが選んだのは、単純に一番威力の高そうな大砲だった。


 [2A58 125mm滑腔砲]


 ダオスロードの全長以上もある長大な大砲だ、間違いなくこれらの中で一番威力があるに違いない。


 因みに80mmを越える滑腔砲って大概戦車砲だから、多分それを歩兵機用に改良したんだと思う。


 弾倉も直ぐに見つかった。ダイは直ぐに弾倉を差し込んで砲口を頭無しに向ける。撃とうとしたら[セーフティロックを解除しますか?]と言う表示がモニターに表示されたから「解除!」と叫んだらダオスロードが勝手に操作して解除してくれた。本当に便利だな、歩兵機って。


 頭無しはもう直ぐそこまで迫って来ている、撃つなら今しかない。ダイは迷わず滑腔砲を撃つ。頭無しの土手っ腹目掛けて。


 ダイの腕は素人だがシステム補助の恩恵があれば外したりしない。この距離なら多少は狙いがズレても必殺確定だ。やったれー!


 ―――ドガシャーン!


「え?」

 え?


 悲劇が、起きた。


「外れた……」


 外れた……。


「……外れた」


 ……外れた。


「……外れたぁあああああ!?」

 ……外れたぁあああああ!?


 外れた。二重の意味で外れた。


 滑腔砲の弾が外れたって意味と、……ダオスロードの肩が外れたって意味で。


 そう、肩が外れやがった。滑腔砲の反動で肩と胴体を繋ぐ関節が綺麗に外れてしまったんだわ。そりゃ弾も外れるよな……。


 ちょっと待てやぁー! なんで歩兵機の肩が外れるような物をここに置いとんじゃー!? あの怪獣にでも渡しとけやぁー!!


 って、ヤバいヤバいヤバいヤバい! 弾を外したせいで頭無しが懐にまで入って来た。しかも鋭い爪の付いた手で貫手仕掛けてきてるし、マジでヤバいって!


「だぁー!」


 ガムシャラにダイは左へ避けた。右胸部を少し抉られたけど気にしてる場合じゃない。避けた先から後続の頭無しがひっきりなしに襲い掛かってくるんだから本当に気にしてる場合じゃない。


 武器を手に、出来る筈ない。右腕が肩から丸々無くなったんだ。利き手じゃない左手で武器使い回すのはリスキーだ、例えシステム補助があったとしてもだ。


 故に取れる手は遁走のみ、他に何が出来るって言うんだよ。


 だが武器庫の入り口は頭無しが陣取っていて突破は無理だ。それどころか頭無しが3機、左右正面の三方向から取り囲むように襲って来た。しかも背後は壁、追い詰められたし。


「ふ、フックランチャー!」


 ダイは左腕のフックを天井に刺した。そして頭無しが突進して来ると同時に壁を蹴ってフックにぶら下がり、頭無しを跳び越える。咄嗟の判断だが見事に成功した。


 ―――バキーン


 しかし腕の中のランチャーは外れたけど。……またかい。


「いっ!?」


 何でって思うより先にモニターに警告表示[荷重不可により肩関節破損の恐れあり、フックランチャーを強制パージします]だってよ。先に言えやぁ!!


 ヤバい。これはマジでヤバいぞ。


 右腕が外れて左腕のフックランチャーも外れて、残ったのはレーザーCIWSだけだがあれは役に立たないし。


 そして遂に追い詰められた。軽く10機はいると思われる頭無しども。その凶器の手を構えて一斉に襲い掛かる。背後は壁、ダメだ逃げられな……い?


 いや、逃げられる。背後は壁じゃなくて扉、あの[危険物注意]と書かれた奥の部屋の扉だ。


 もはや迷う必要は無い、ダイはスイッチを押さずキックで扉を蹴破った。かなり強引な方法だが何とか扉を破って中に転がり込むことに成功した。代わりに足首がイカれたっぽいけど。


 それで中に入ったはいいんだけど、中は本当に危険物注意だった訳よ。


 何があったかって、それは爆発物だよ。それも部屋一杯に。


 ミサイルとか地雷とか、取り扱いを間違えたら洒落にならない物のオンパレードだ。更にヤバくなってねぇーか?


 そしてその奥の一角に個室っぽいところがあった。立て札を翻訳して見ると緊急避難用シェルターと書かれている。


 それを見たダイの思い付いた行動は生死を賭けたギャンブルそのものだったが、もうそれしか無いと俺もそう思う。ギャンブル最高!


 で、どんなギャンブルかって言うと簡単な事だ。ここの爆弾を全部爆発させてシェルターに隠れる。それで助かるかどうかってギャンブルさ。


 狂ってると思うかもしれないけどな、追い詰められた人間ってのは咄嗟に思いついた事を即座に行動しないと生き残れねぇんだよ。即断即決、これが大事。


 そんな訳でダイはシェルターに向かい、途中たまたま目には止まった[対艦攻撃手榴弾]と書かれていた手榴弾を1つ掴んでいった。


 歩兵機からみて桃缶のような形状と大きさの手榴弾は上の安全ピンを親指で弾くだけで取れる、だから片手でも使えるから助かったぜ。


 ダイは安全ピンを取った手榴弾をなだれ込んできた頭無しに投げてシェルターに隠れる。あれ1つ爆発すればここの爆発物も全て誘爆するし頭無しも一気に殲滅できる。あとは賭けだ、シェルターに隠れてダオスロードが無事でいられるか否か。


 と思ったらシェルターの扉を開けた途端、扉が外れてしまった。……3度目はねぇーだろ。


 ヤバいと思いながらもダイはシェルターに入り扉を立てかけたが、直ぐに倒れる。仕方ないから奥へ進んで扉を盾にし、身を屈めた。でもこれでは流石に―――


 ―――ドォオオオオオン!!!


 凄まじい爆発音と衝撃波が壊れた扉の上からダオスロードを押し潰さんとする。中にいたダイもその凄まじい衝撃に一瞬気を失ったが直ぐに取り戻すことができた。


 爆発が収まってシェルターから出ようとしたら、なかんかもうダオスロードが満身創痍の状態になってた。


 右腕は丸々無くなってるし右脚は足首はちょっとイカれてるし、左脚太腿には頭無しの手首が未だに掴み刺さってるし、さっきの爆発の衝撃で白銀の外装が見るも無残な姿に変わり果てていた。良く生きていたもんだぜ。


 それでも何とか立って歩ける。覚束ない足取りで一歩一歩慎重に歩いて外に出ると、頭無しの残骸がそこかしこに散らばっていた。


 どうやら全滅は出来たようだ。五体満足の頭無しは1機もいないし動く気配もない。


 勝った、眼帯野郎の時よりもグダグダでダイも無事では済まなかったけど、それでも何とか勝った。色々外れる悲劇が立て続けに起きたけど、勝ちは勝ちだ!


 ただその爆発の規模は隣の部屋にも及んでいるようで、武器の幾つかが使い物にならなくなっている。あの滑腔砲もアウトだ、もう使う気は無かったけど。


 でも外れた右腕は回収しておきたい。あれには波動砲もある、あれが無くなったらこの先もう生きていく自信がない。


 滑腔砲の周囲を探すと右腕は直ぐに見つかった。黒焦げでボロボロになっていたけど、原型は保っている。どうか壊れていない事を切に願った。


 バラバラバラ……と持ち上げてバラけるその瞬間まで。


「うそ……」

 うそ……


 右腕も波動砲も、他に言い様の無いグズ鉄へと変わり果てていた。これはどう考えても直せない、波動砲は亡くなってしまった。


「……うそだぁあああああ!!」

 ……うそだぁあああああ!!


 この時俺達は確信したよ、この世に神はいないってな。






 それから暫くへたり込んで現実逃避するも現実に追いつかれて無理矢理引き戻され……何言ってるか分からないけど取り敢えずダイは立ち上がって歩き出した。


 どこへと言う訳でも無く、ただフラフラ〜と目的も無しに歩く。とにかくショックが大きかった、波動砲を失ったと言うのは。


 あの眼帯野郎やポンコツさんにグダグダながらも勝てたのは波動砲と言うアドバンテージがあったからだ。今もあの頭無しを相手に波動砲無しでは武器庫まで到達出来なかった。


 その波動砲が失われた。ダイにしてみれば高校生活が終わった事よりも遥かにショックの大きいものだった。まぁ気持ちは分かる。


 波動砲の無いダオスロードとか、タコの入ってないたこ焼きみたいなもんだ、クレームが殺到するわ。


 で、そんなかつてない絶望感から立ち直れずフラフラと歩いていたダイは、とあるフロアに辿り着いた。


「……っ!?」


 そのフロアに気付いた瞬間、ダイは思わず身構えてしまった。そのフロアには、歩兵機がいたからだ。


 だが、よくよく見るとその歩兵機はダイのよく知ってる歩兵機だった。よく知ってる、と言うか今現在乗ってる歩兵機のそれだ。


「だ、ダオスロード?」


 それは紛れも無くダオスロード、それらが動き出す様子は無くカプセルベッドみたいな物に入れられて立て掛けてあった。


 その数4機、何れも全く同じ機種だがダオスロードとは少し異なる。


 まず色が違う。ダオスロードの白銀ベースに薄い紫のアクセントをあしらったサイキックカラーと違って、この4機はシックなグレーのメタリックカラーで統一されていた。


 そして右肩の形状は左と同じで突起は無い、つまり波動砲が無かった。ひょっとしてダイのダオスロードはかなり特別な機体だったりするのか?


 そして最後に、コックピットが無い。ダイの位置からだどギリギリ見えるんだが、何れも背中から心臓辺りにかけてが何も無い、空っぽだ。


 何故そうなっているのかは分からないが、ただ今のダイはそれらの4機を見て沸々と怒りが込み上げていた。何でかって言うと4機は綺麗な新品、こっちは満身創痍、この差を見せられたら……なぁ。


「うがぁー! 腕、腕よこせー!」


 いかんなぁ、ダイが壊れ始めてる。


 まるでゾンビの様に動かない4機の内の1機に飛び掛かり、新品ピカピカの右腕を乱暴に掴んだ。


 するとポロっと取れた。ポロっと、取れてしまったんだ。


 なんか磁石でくっつけてあったのかったってくらい簡単に取れたんだ。こいつ取れるぞ。


「腕ぇー! よこせ、腕ぇー! うでぇぇぇ……え?」


 腕が取れた事に気付いて何とか平静を取り戻したが、突然腕が取れた事に困惑してる。勿論俺も困惑している。


 まぁそれはいいとして、取れた腕だけどダイはどうしたものかと悩んだ末に何を思ったのか腕の肩関節を胴体の肩が外れた箇所に当てた。


 まさか繋がる筈は無いと思っていただろうが、そしたらモニターに面白い表示が出てきてくれた。


 [対象パーツとの互換性を確認しました。対象パーツを接続しますか]


「……します」


 そう呟いた途端、肩の辺りで複雑な機械音が暫く鳴り響き、気が付けば右腕が繋がっていた。ダイ自身右腕の感覚(厳密には操縦桿)が元に戻ったし。


 マジか、こんな簡単でいいのか……。


「戻った、付け替えられるんだ」


 満身創痍でもパーツ交換すれば新品同然、それはパソコンだろうと自動車だろうと、歩兵機だろうと一緒って事だな。


「だったら……」


 うん、もう何するか分かったな。それだ。


 それからかれこれ1時間ちょっとでダオスロードのお色直しは終わった。グレーのメタリックカラーで統一したシックな歩兵機に生まれ変わったのだ。


 波動砲はもう失ったし立ち直れてもいないけど、取り敢えずダオスロードはリニューアルされた訳だ。


 さて、仕切り直しといこうか。

実は歩兵機の関節ってな、荷重不可がかかるとフレーム損壊の危険につながるからその前に強制パージして外す事でフレーム損壊を未然に防ぐんだわ。今回右腕が外れたのもそのせいでな、けどいきなり外れたら心折れるわ。だが簡単に外れるなら簡単にくっつける事も出来る、損壊を防ぐためにパージしただけだからその後で簡単にくっつけられるんよ。爆弾でも使ってぶっ壊れない限りは、な。

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