第9話 美人のお姉さんかと思った? 残念! 怪獣くんでした……解せぬ
おさらいしよう。
歩兵機を持ってる事がバレた、これはまぁ仕方ない。てかダイに隠し事は無理だ。
で、クロステーゼなる怪しげな組織が現れたがこれは……まぁ許容出来る。歩兵機なんてのがあるならそんな秘密組織があっても不思議じゃないしな。
それで色々あって歩兵機戦が勃発した、突飛かもしれないが有りがちと言われればそうかもなって話だ。
その結果全校生徒に歩兵機の事がバレてダイの高校生活が終了、ある意味人生も終了、見事な転落人生だな。ははは……。
その上戦闘は惨敗、まぁ当然だな。相手はプロ、システム補助があるにしても素人のダイがどうこう出来る筈が無いし。
そして気付いたら目の前に怪獣がいて―――おかしい!!
明らかにおかしいだろ!?
話がなんか180°変わったぞ。女が変わるのはまぁいいにしても話は変わったらダメだろ。
いやいやいや、マジでどうしてこうなった? 一体ダイが気を失ってる間に何があった? そして美人のお姉様方はどこへ行った!?
……まぁ1つ言える事は、目の前に怪獣がいるって事。
厳密には怪獣型の歩兵機だが、その怪獣は何と言うか……日本原産のあの怪獣の姿でしかも規格外にデカいんだわ。
どのくらいデカいかって言うと数字の上では40m超え、ダオスロードの5倍もあるんだわ。距離があるのに対面するとプレッシャーがマジパネェなんですけど。
そんなデカいのに身体を支えられるのかって言う必要は無い。日本原産の怪獣通り脚は短めで太いし第三の脚たる尻尾もある、これらの要素が過度な機重を十分支えられる構造になっているのだ。意外と理にかなった体型だったんだな、GODZ……。
動きは鈍そうだが、装甲は見るからに分厚い。ダオスロードの波動砲3発でどうにかなる相手では絶対無いし。
で、そんな怪獣にガン飛ばされて震え上がったダイは
「な、な、……ナイストゥミートゥー」
何故か英語で挨拶した。ダメだこりゃ……。
そんなダイにHow are youとか聞いてくる筈も無く、それどころか口を大きく開けてきた。怪獣が口開けたら大体何か出すよな?
まさか熱線? いや、メカだからミサイル? メガ・バスター? それとも2連装メーサー砲?
なんてバカな事考えてたら怪獣の口の中で青紫色の光が揺らめく炎のように歪む。歪むって、空間が?
いや、それってまさか……
「は、波動砲!? ヤバッ!」
それに気付いたダイは直ぐに背を向けて隔壁の扉に向かいBダッシュした。怪獣が波動砲を撃ってきたのはその直後だ。
「わぁー、わ、わわ、わぁ、わぁあああああ!!」
ダオスロードの後頭部に内蔵されたバックモニターカメラのお陰で撃ってくるタイミングは見て分かったが、それでも避けるのは簡単じゃない。
何せ1発がダオスロードの波動弾より遥かに大きい、着弾すれば爆風も凄まじいし吹っ飛ばされないよう必死に耐えるだけでも骨が折れる。
しかも怪獣はそんな強力な波動砲を連射して来やがる、既に6発目を撃ち放ったと言うのにまだ撃ってくるとかチート過ぎだろ。
1発1発を全力回避してるから全然先に進めないし、それでも怪獣の波動砲が止む気配は無いし、どないせえっちゅうねん! なんかもう殺虫剤から必死で逃げるゴキブリみたいなんですけど。
それでも右往左往しながらこつこつ進んで漸くトンネルのところまで辿り着いた。多分この時ダイは少し油断したんだろうな、あと少しと言うところで波動砲をくらった。
直撃ではなかったけど着弾の爆風が背後から至近距離に受けてしまい、それに呑まれたダオスロードはトンネルの中へ吹っ飛ばされた。
「わぎゃあああああ!!」
まぁそのお陰で何とかトンネルの中へ逃げ込める事に成功したんだがな。ダイは直ぐに立ち上がって更にトンネルの先へ駆け抜けた。
怪獣はあの巨体ではトンネルの中には入れないだろうが、今はちょっとでも遠くへ逃げたかったダイはそのままBダッシュで逃げ続けるしかなかったんだ。
今の一撃で外装が幾らかひしゃげたが気にしていられない、それよりも今は逃げるのが最優先。脱兎の如く一目散だ。
それからかなり走り抜けた、長い長いトンネルを必死に駆け抜けた。持久力なんかてんでないダイにしては驚くほど良く走り抜けたもんだ。何だかんだで人間命が関わると限界以上の能力が発揮出来るんだな。よくやった、ダイ。
そしてそのままトンネルを走り抜けた結果、また隔壁に行き止まった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
荒い息を整えて背後を振り返る。そこには緩いカーブを描いた僅かに上り坂となっているトンネルの道、それ以外は何もなくあの怪獣が追ってくる様子も無かった。
何も考えずに全速力で逃げ切った結果、ダイは疲れ果てていた。基本的にインドア派で運動なんか体育の授業以外でやったことが無いから、突然こんなに走らされるのは参るよな。
歩兵機が大幅に反映してくれるからダイ自身は小走り程度で済むものの、長い距離を全力で走れば体力の無いダイなんかは直ぐダウンする。そうでなくても歩兵機の操縦って全身を使うから、かなりしんどいんだぜ。
暫く隔壁の前で休憩だ。てか大体何なんだ、あの怪獣は?
突然容赦なく襲ってきたし。しかもまさかの波動砲を撃ってくるし。ダイが何かしたか?
正直ダイは疲労感以上に恐怖感に押し潰されていた。
波動砲は自分だけのアドバンテージとか思ってた時期もあったけど、いざ相手にやられたら滅茶苦茶恐いわ。身を以て知る波動砲の恐ろしさ、パネェ。
ぶっちゃけあれに勝てる気が全くしない、あの美人さんとは違う理由で。
美人さんは技量の差を見せ付けられたが、歩兵機自体は素早いだけであとは普通だった。波動砲さえ当てられれば勝算のある相手だ、まぁ当たる当たらない以前に瞬殺されるけどな。
逆に怪獣は歩兵機の性能差を見せ付けられたもんだ。デカい分的も大きいから波動砲は何とか当てられなくも無いだろうけど、見るからに耐久特化したあのボディにダオスロードの波動砲3発では到底太刀打ち出来ない。しかも向こうは更に強力な波動砲を幾らでも撃てるときた。
例えるなら人が拳銃1丁で戦車に挑むようなものだ。死ねってか?
かの有名なスイーパーならやれなくも無いだろうけど、ダイは素人のペーペーだから絶対無理。
あの眼帯野郎と戦って死の恐怖を実感したつもりでいたけど、甘かった。怪獣の一方的な攻撃に為す術もなかった、それに比べたらまるでチャチな恐怖だ。次元が違い過ぎる。
あれこそ本当の恐怖だろう。恥じも外聞もなく一目散に逃げ出す脅威、抵抗しようとかそんな事も考えられなかった。ただひたすら逃げて逃げて、逃げるしかな無い。それが死と言う絶対的恐怖だ。
故にダイはもう会いたく無いと思っている。確かにあんな規格外に関わるのはごめんだな、一生会わずに済むならそれに越した事はない。
が、万が一あの怪獣との戦闘が避けられない事態となかったらどうするか? それこそ怪獣のいた場所がこの謎の空間の唯一の出口とも限らない訳だし。
どうする、ダイ?
「……トイレ行きたい」
あー……まぁ生理現象だしな、仕方ないわな。
因みにダイが行きたいのはデカい方なんだが、困った事にそう都合よくトイレは……あったし!?
なんか隔壁からちょっと離れたところの壁にトイレがあったし。良かったな、ダイ。路上で脱糞せずに済んだぞ。
ダイも直ぐにそれを見つけてダオスロードから降りた。あの怪獣が来るとは思わないが向こうの隔壁は開けっ放しなんだからもう少し警戒しろよ。
でだ、ダイもスッキリしてからいくつか分かった事がある。
まずトイレがあった、それにライトもついている。つまり水道も電気も通ってると言う事だ。隔壁には人が押す用のスイッチもあったし、これらを鑑みてもここには人がいる。それは間違いないだろう。
そして多分ここは地下だ。さっきの隔壁にはB3、こっちの隔壁にはB4って書いてあるし、つまり地下4階って事だよな。だとしたらこの地下空間は人の手によって作られたもので、それなら人がいても不思議じゃない。
まずはここにいる誰かと接触して事情を説明し、助けを求めよう。ここが何処なのかも分からないし情報を得られるだけでも大助かりだからな。
「……よし」
再びダオスロードに乗り込んだダイは意を決してB4の隔壁を開けた。
隔壁が地面に沈んで行く中、ダイは割と離れた位置でその様子を見ていた。ひょっとしたらこっちにも怪獣がいるかもしれないし、いたらそれで詰みだけど。
「……っ!?」
隔壁の中を遠目に見たダイは別の意味で驚いた。さっきの怪獣がいた空虚な空間とは違って、クレーンだったりベルトコンベアーだったり、また複雑な精密機器があちこちに設置されいた。まるで工場か、或いは研究開発所のようだった。
ただ不思議なことにそれらの機器は常に歩兵機が余裕で通れる程の通路を確保して設置されている。天井高も歩兵機の全長より余分にあるし、まるで歩兵機がここを通る事を前提として設立しているみたいだ。
しかし辺りを見渡しても人っ子1人いない。機器やデスクには人が作業していたと思われるような形跡がいくつか見て採れたのに、肝心の人そのものが全く見当たらなかった。それも不気味なくらいに。
どう不気味かって言うと、まるで人が忽然と姿を消したようにだ。
人が作業していたと思われる形跡。それは仕事終いで片付けられたと言うものじゃなくてな、絶賛仕事の真っ最中にも拘わらず人がいなくなったと言う不気味な違和感だった。まるで仕事中にちょっと抜け出してそのまま誰も帰って来なくなったかのようにな。
しかもその作業場には埃が積もっている。人がいなくなってから数年は経過している様子だ。まるで日本で言うところの神隠しじゃねぇーか。
一体ここで何があったのだろうか? ただでさえここが何処かも分からないのにさっきの怪獣と言い、人がいなくなった施設と言い、あまり穏やかじゃない事件の匂いがする。これ以上面倒事はごめんだってのに、ダイも怖くなってきてるぜ。
さらに少し進むとガラスの壁があった。壁は少し厚めだがダオスロードが軽く小突いたら簡単に割れそうなもので、表面に図形のようなものが描かれていた。
「……これって、地図だ」
そう、これはここの施設の見取り図だった。ガラスの端の方に英語で何か書かれていたが、ダオスロードが自動翻訳してモニターに表示するとB4第七フロアと記されていた。第七フロアって事はこの地下4階に7つ、いやそれ以上のフロアがあると言う事だろうか。
なんにしてもこの地図は非常に有り難い。出来るならこのまま持って行きたいところだがそれは無理だろうな。
「これ、写真に撮るとか出来ないかなぁ」
―――カシャッ
ダイがそんな事を漏らすと、なんかカメラのシャッター音が聞こえてきた。そしてご丁寧に地図の画像をモニターに表示してくれる。どうやらダイの音声認識に判断して、自動操作で対象の写真を保存してくれたみたいだ。歩兵機ってとっても便利なんだなぁ。
「やった! これでここのフロアは攻略出来る」
攻略って、ゲーム感覚でやるんじゃねぇーよ。ガチなんだからよ。
まぁでも隅々まで探索すると言う意味では攻略だな。何かしらの手掛かりを見付けないことには始まらないし、もしかしたらどこかに人が隠れているのかも知れない。そう言う意味ではこの地図は非常に便利だ。
地図を見る限りフロアはそこまで広くない、ダイの高校の敷地くらいだな。仕切りや精密機械とかがあるせいでプチ迷路状態になってるけど、攻略は割と早く終わりそうだ。
地図を確認してその場を移動しようとした時にガラスの地図に光が反射してうっすらな姿見になった。そこに映るダオスロードは幾分機体の所々に傷が目立っていて―――背後から別の歩兵機が迫って来ていた。
「っ!? うわぁあああああ!!」
悲鳴と同時に振り向いて砲腕を展開、眼前まで迫って来ていた歩兵機に向けて波動砲を撃ち込んだ。その歩兵機は波動砲を胴体へまともに受けて吹っ飛ばされ、フロアの壁に叩きつけられて下に落ちる。その後動く気配は無かったが、ダイはそんな事を気にしている余裕はない。
突然背後に立ってた歩兵機にビックリしたのもあるけど、その歩兵機と同型機が隔壁の入り口に5、6機立っていたからだ。
薄気味悪い歩兵機だった。全身がゾンビの様な黄緑色で、人型だが頭が無い歩兵機だった。頭があってもダオスロードより一回り小さく、個々の戦闘力はそれ程高くはなさそうだがそれが5、6機と言う数は流石にヤバい。取り敢えずこいつらは頭無しと呼んでおく。
頭無しは明らかにダイを敵と見なしている、とても対話でどうにかなるような雰囲気では無く、胸の乳首位置にある丸い目が青から赤に変わって鋭い爪の付いた手を構えている。うん、これから襲いますって言ってるよな。
既に1発撃った波動砲は残弾2発、あの数相手では全然足りないし残弾が回復するのを待っててくれる筈もない。そんな奴らがトンネルの出入口に陣取っている、退路が断たれたって訳だ。
「だったら……」
ダイは踵を返してフロアの奥へ逃げた。考えはあった、地図を見て分かったんだがこの先に歩兵機用の武器が格納されている場所がある事を知ったんだ。
頭無し達も追ってくる。それ程速く無いし今のダイの足なら逃げ切れるだろうが、さっき全速力で走り切ったせいでスタミナが直ぐにでも尽きそうなんだよな。そうなったら追いつかれてジ・エンドだ。
その前に武器庫まで辿り着かなければならない。
「いっ!?」
と思ったら進行方向からも頭無しが数機現れた。バックモニターで確認すると背後からも迫って来ている。ヤバい、袋小路だ。
「くっそぉおおおおおお!」
もはや引き返せないダイは進行方向の頭無しに波動砲を撃ち、着弾時の爆風にタックルで突っ込んだ。中々思い切った事をするようになったじゃないか。
まぁタックルは空振りに終わったが、結果頭無しの軍団を通過する事に成功してダイは直ぐに立て直し、またBダッシュで駆け抜ける。
波動砲の残弾はあと1発、もう1発分チャージが溜まるまでまだ少し時間がかかる。スタミナももうあぶない。これでどうにか武器庫まで辿り着けるか?
……頑張れ、ダイ!
歩兵機のバックモニター画面って正面壁のディスプレイ下辺の一角にあるんだが、ディスプレイには顔の動きに連動して動く枠があるだろ。枠の中はメインカメラの映像を映すから重なるとバックモニターが見えなくなるんよ。だから顔を動かさずに目線だけ動かして見る技術が必要になるんだ。因みにダイは半分くらい重なった状態で見てたけどな。




