死体消失 勇者VS魔王 ー10ー
「店長!偽金で買った奴を追いかけるから、店番お願い」
エリスは箒を手に、相手を追いかけるために店を出た。
人が多い表通りなら姿を隠しやすいとエリスは考え、足を向けてみると正解だったようで、その姿を簡単に見つける事が出来た。
それは強烈な悪臭により、周囲の人達は離れ、逆に目立つ形になっていたからだ。
だが、相手もそれを分かっていたかのように、エリスが来るのを確認するように店側を見ながら立ち止まっていた。そして、エリスが目に入ると、逃げ出すように前に歩きだした。
「この距離からでは追い付けないと思って、馬鹿にするために待ってたわけ……上等じゃない!」
人の流れだけでなく、自転車が走り、街灯や自販機などの障害物や露店などが邪魔をし、普通に進んでは追い付かない。相手は悪臭を利用して、人が離れる事でスムーズに進む事が出来るからだ。
風の魔法でも使えれば飛行も可能なのだが、エリスには魔法を使うだけの魔力がない。それを相手は知っていたのだ。故に追い付くのは至難の技となる。
エリスは一旦人通りが少ない店前の道まで戻り、助走をつけて、角を曲がる際に重力を無視し、建物の壁を地面代わりにして追い掛けた。
それはエリスの身体能力の高さから出来る事であり、周囲にいる人間や魔族、機人は何事かとエリスに目を向けた。
「天誅!」
相手の動きが意外と遅かった事で追い付き、箒で相手の体を振り払った。それによって、相手を倒す事が出来るはずだったのだが、予想外の事が起きた。
「なっ……どうなってんのよ」
エリスの目の前あるのは人の死体であり、首が切り離されていた。その顔は会長候補の一人。それはエリスの一撃が原因ではない。表通りにいたはずが、廃工場のような場所に飛ばされていたのだ。
「やれやれ……まだ調整不足か。勇者の身体能力は高く、魔法が使えないという情報は確かなようだ。つまり、いつでも倒せるという事だな」
エリスが攻撃した相手も移動しており、ここに飛ばしたのもそうだろう。だが、相手の首は胴体から離れ、その顔は大きさは違えど、エリスが助けられなかった魔獣の顔そのものだった。
そして、首と胴体が離れたせいか、もしくは時間の経過によるものなのか顔の目や肉が溶け出し、骨だけが残る。
頭が切り離されただけでなく、骨にまでなった。それなのに機人ではないはずなのに体は動き、頭蓋骨を拾い上げ、声も発した。




