波乱の生徒会選挙 銀髪眼鏡VS魔王 ー14ー
店長は変態丸出しだった。自分に乗せるためにサドルを隠したのではないかと疑いたくなる。
「もしかして……店長がサドルを隠したんじゃないでしょうね。自転車に変形する時点で怪しいんだけど」
「それは違う。そんな犯罪はしない。エリスがいないと店に客は来ないし、週末しかバイト出来ないのであれば、私が寂しい。だから、会いに来たまでだ。理解したのであれば、私の顔に乗れば……おっ」
店長に乗ったのはエリスではなく、近くにいた肥えた男子生徒。店長は顔がサドルだったせいで、周囲を見回す事が出来ず、エリスが壊れない自転車だと男子生徒に勧めていたのに気付かなかった。
「この重みは……エリスじゃない。この酸っぱい臭いは……男の汗臭さか!私は男に弄ばれる趣味は……体が軋む……止まってくれ」
店長の言葉は男生徒達の尻によってかき消され、重みで変形を解除する事も出来ず、男子生徒に店長は連れて行かれた。
「店長はどうでもいいとして……タイヤもパンクさせられてるみたいだから、商店街まで押して行くしかないわね。乗らなくていいんだから、押して行くぐらいはしてよ」
「仕方ないな……それぐらいはやってやるよ。パンク代も俺が払うんだろ」
サイガとエリスは店長がそこにはいなかったように、話を進めていく。
「それにしても、サドルを盗んだ奴を捜さなくてもいいのか?」
「別にいいわよ。新品になるんだし、面倒でしょ。まぁ、見つけたら弁償代は私が貰うけどね」
「……俺が貰うわけじゃないんだな」
エリスがファンクラブに声を掛ければ、犯人を血眼になって捜し出しそうな気がするのだが、その事をサイガはエリスに伝えなかった。
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サイガとエリスは商店街までの、歩いて三十分ほどの距離をゆっくりと進んでいく。二人がこんな時間を取るのは初めてであり、サイガは自然とエリス自身の事について聞いていた。
「なぁ……エリスは何でマキナを様付けで呼ばないんだ?マキナの事を嫌ってるわけじゃないんだろ。武術戦闘で気絶させず、腕に攻撃しただけで魔法戦闘に参加出来るようにしたからな」
「いきなり何よ……マキナの事が気になるわけ?」
「いや……そうじゃなくて……マキナがエリスに突っかかるか気になってたんだ。エリスは嫌われてると言っていたけど、俺にはそう思えなくてな。それで……マキナはエリスが様付けで呼ばないからって言ったんだよ」
「様付けで呼ばないから……ね。私自身、様付けで呼ばれるのが嫌いだからかな。私が勇者だと知って、住んでた場所の大人達だけじゃなく、友達でさえも勇者様って呼ぶのよ。その時にさ……私は私なのにと思ったわけ。友達には勇者じゃなく、エリスとして見てほしかった。だから、私はマキナを王女として見ないようにしてる……って何言わせるのよ!この事はマキナに言わなくていいから」
エリスの言葉に、マキナも同じ気持ちではないかとサイガは思った。エリスがマキナを王女としてではなく、一人の人間として、対等の立場でいてくれるから、マキナはエリスと競い合うのが楽しいと感じているのだろう。
「分かったよ。何か……エリスの意外な一面を見た気がするな」
「うるさい……私は何も変わらないわよ。そろそろ商店街に着くわね。自転車を修理してる間に私とアンタの服を色々と買うわよ。それにアンタの長い髪も切ってもらわないと駄目ね」
サイガとエリスの服は手で数えるほどしかなかった。エリスの服の殆どがジャージで、サイガに至っては同じ服ばかりを着ているのをエリスは見逃さなかった。
それにエリスはサイガの長い髪が邪魔に見えて、無理矢理床屋で切らせる事にした。
サイガの救いだったのは人間の床屋であり、カニ型の魔物の床屋ではなかった事だ。下手すれば、サイガの首も切られていたかもしれない。




