勇者と王女の関係に、魔王巻き込まれるー11ー
「馬鹿野郎!何悠長に突っ立ってるんだよ。狙われるだけだぞ」
魔法を詠唱する際、誰もがその場を動こうとしない。選手達の姿を見ても体力があるようには見えない。魔法使いが詠唱する時、戦士などが盾になり、その時間を稼いでくれる。魔法の上級者でなければ、移動しながらの詠唱は息切れをして不発となってしまうのだ。
だが、戦士のような盾が存在しないとなると、詠唱に集中する者は、敵にとっては的にしかならない。
ゴーレムは変換したエネルギーによって、目からレーザーを放ち、腕を振り回しながら移動し始めたのだ。攻撃魔法の詠唱に集中するために目を閉じた選手には避ける事や防ぐ事も出来ない。
それをサイガは選手の一人を抱える事でどうにか避ける事に成功し、レーザーに対しては、マキナが風と水の合体魔法による補助防壁により、光の屈折を利用して、選手に当たらないようにねじ曲げた。だが、その防壁も一度の攻撃で消滅したのだった。
レーザーと同様にゴーレムの拳による攻撃も、選手が作り出した魔法による盾を一度で破壊した。それが意味するのは、ゴーレムの攻撃は簡単に人を殺せる威力を持っているという事なのだ。
それなのに観客である生徒達は何事もないかのように選手達を応援している。普通なら悲鳴が起きてもおかしくないのだが、アイシャが作り出した結界によって、内部で起きている事と、外部から見た光景が違っていてもおかしくない。
「どういう事だよ……このままじゃ……俺達殺されてしまうぞ」
選手達は生き残れば評価するという、アイシャの言葉の意味を理解した。
ゴーレムの攻撃を魔法の盾によって防ぐ事は出来るが、一度で壊されるために何度も生み出さなければならず、その分の魔力を消費し、次第に魔力は無くなっていく。さらにゴーレムの拳が盾を破壊する事でエネルギーとして吸収されてしまう。
それを理解していても、サイガとマキナ以外は魔法なしでゴーレムの攻撃を避ける事が出来ないのだ。
「……エリスのパートナーに頼むのは心苦しいのですが、こんな状況では仕方ありません。貴方はあれが何かを知っているようでした。弱点でもあれば教えてもらえないでしょうか?」
マキナはゴーレムの攻撃を避けながら、サイガの隣に移動した。その姿は武術戦闘や、杖や魔導書を使用しない事での魔力の消費により、明らかに疲れが見てとれた。それにも関わらず、王女の務めと思っているのか、周囲の選手達に補助魔法を掛け、手助けをしているのだ。
「……お前……凄いな」
サイガはマキナの行動を見て、マキナに取り巻きがいるのも王女という理由だけではない事が分かり、エリスよりも勇者らしいと思ってしまった。




