四女と国王夫妻ともう一人
その後の二人について。
『謳われぬ末姫』『騎士姫の初恋』を読んでいた方が、
わかりやすいかもしれません。
「お母さん、赤ちゃんができたみたいなんです」
その衝撃の発言は家族三人での食事時。
しかもまたタイミングの悪い事に、
私が牛乳に口を付けていた時なのだから狙っているんじゃと思った。
ごふっと思わず牛乳を噴き出すが、咳き込むのはどうにか避ける。
いつも冷静と言われる私だが、さすがにこれには驚きを隠せない。
置いてあったナフキンで口を拭う。
幸いにも私は父似だが、動揺しても父ほど奇行に走る事はない。
思わず父の方に視線を向ければ、照れくさそうな顔で頬をかいていた。
もう五十路の方が近いくせにその表情が似合う父は、
本当に整った顔をしていると思うが、そういう問題じゃない。
「……何で今更」
感情そのままに尋ねれば、
いつもどおり、おっとりと母は答えた。
その顔はどう見てもうら若いお嬢さんといった感じで。
父といい、母といい、ホント若作り通り越して詐欺である。
「ほら、ウィーニもセラも立て続けに居なくなっちゃったから……」
「それで寂しくなってついうっかりですか」
「いえ、計画的」
「……計画的なら40才で子供作ろうなんて思いませんよ」
私のツッコミに対して、母は安産の家系だからと。
何ともマイペースな返答を。言った所で手応えがない。
母と私の明け透けな会話に父が一番恥じらっていた。
張本人が照れてどうする。
「……姉上やウィーニには言ったんですか?」
「これから伝えます」
「姉上には手紙出しときます。
ウィーニは……居住地、森深くですし、
今、彼女も身ごもってて大変でしょうから私が直接赴きます。
母上は安静にしておいてください」
「すまない、リリー」
父が本当に申し訳なさそうに呟く。
ここでふんぞり返るような父なら私もこんな事言い出さない。
だがこの通り、ちゃんと感謝できる人だから私も手伝うのだ。
結局私はなんだかんだでこの家族が大好きだから。
「それにリリーももうすぐお嫁さんになりそうだから」
母の一言に父の顔が強ばる。
怜悧な顔つき台無しの半泣き。ああ、ホント娘バカなんだから。
私も大概家族バカなので人の事言えないけど。
普通五人も……いや六人にもなれば愛情偏るものなのに。
どの子供達も妃も全力で愛する父を見てると、
嫌でも家族大好きになりざるをえない訳で…何を語っているんだ、私は。
「まだまだ私の片思いですから、大丈夫ですよ、父上」
「でもお父さんとお母さんもずっと両片思いでしたよ」
「そういうお伽噺みたいなのは稀ですってば」
「リリーが幸せになるなら…今すぐ…嫁い、で…も、かまわない…」
「そんな泣きそうな顔で言われても説得力無いです、父上!」
普段の父上しか知らない人が見たら驚くだろうなあと思いつつ必死に慰める。
それにしてもこの年で弟か妹に恵まれるとは。
早くに結婚したなら、もう親子とも言える年の差なんだけれど。
何にしろ、私の弟妹である限り、めいっぱい可愛がるが。
母のおなかを見つめる、まだできて間もないのだろう。
膨らみは無い、けれどその中には私の家族がいるのだ。
(安心して生まれておいで)
お父さんもお母さんも貴方のお姉さんも、
みんな、貴方を愛すから。
次女と三女は諸事情で欠席。
陛下と王妃はいつまでもバカップルです。
次の主役はおそらく四女さんかと。
ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました!