後編 婚約は解消されましたが、真実の愛には爵位が必要なのですか?
レオナード様が北方領の魔導鉱石について何もご存じないと分かり、私は少し残念に思っていた。
せっかく北方領へ行かれるのだから、現地で採掘される魔導鉱石についても調べていただけたら嬉しいのだけれど、今はそれどころではないらしい。
そう考えていたところへ、夜会の会場の扉が開き、お父様とロゼッタ男爵が姿を現した。
二人は王城の別室で会議をなさっていたはずだけれど、どうやらこちらの騒ぎを聞きつけていらしたようだ。
「レオナード。お前がエレオノーラとの婚約を破棄すると宣言した件については、報告を受けている」
お父様の声に、会場のざわめきが静まった。
「陛下! それは、その……私の考えが浅はかでした! どうか、先ほどの宣言は撤回させていただきたく……!」
「撤回?」
お父様が眉を寄せると、レオナード様は勢いよく頭を下げた。
「はい! 私はやはり、エレオノーラ殿下との婚約を――」
「その件なら、すでに私とヴァルクハイム公爵の間で、解消する方向で話がまとまっております」
お兄様が口を挟み、公爵様も重々しく頷かれた。
「陛下。愚息の振る舞いについては、申し開きのしようもございません。婚約解消について、我が家に異存はございません」
「ち、父上!?」
レオナード様が驚いているけれど、私としては公爵様のご判断が変わっていないことに、ほっと胸を撫で下ろすばかりだった。
お父様はそんな私へ視線を向け、少し困ったような顔をなさった。
「エレオノーラ。お前自身の意思も確認しておこう。本当に婚約を解消したいのだな?」
「はい、お父様!」
「……本当に、それでよいのか?」
「はいっ! とっても!」
思わず声が弾んでしまったけれど、ここで曖昧なお返事をしてはいけない。
私は背筋を伸ばし、お父様をまっすぐ見つめた。
「私も、婚約解消を希望しております!」
「……分かった」
お父様は一度目を閉じ、それから公爵様へ向き直られた。
「ヴァルクハイム公爵。そなたの同意も確認した。エレオノーラ・アルヴェリアとレオナード・ヴァルクハイムの婚約は、本日をもって正式に解消する」
「謹んで承ります」
「ありがとうございます、お父様!」
私は思わず両手を胸の前で合わせた。
これで、ようやく研究院への道が開けるかもしれない。
けれど、一つだけ確認しておかなければならないことがある。
「あの、お父様。念のため、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「……何だ?」
「もう、レオナード様が撤回するとおっしゃっても、婚約は元に戻りませんよね?」
「戻らん」
「よかったぁ……!」
思わず大きく息を吐くと、なぜかレオナード様が胸を押さえていた。
「エ、エレオノーラ……そこまで私との婚約が嫌だったのか……?」
「えっ? いえ、レオナード様が嫌だったというより、研究の時間が……」
「……もうよい。分かった」
まだ最後まで説明していないのだけれど、レオナード様は聞いてくださらないらしい。
お父様は会場の人々に婚約解消を正式に告げると、関係者だけで事情を確認するとおっしゃった。
こうして私たちは、王城の奥にある応接室へ移動することになった。
◇
応接室には、お父様とお兄様、ヴァルクハイム公爵様、ロゼッタ男爵、レオナード様、ミレーヌ様、そして私が集まった。
セシリアも私の後ろに控えている。
長椅子へ腰掛けると、ロゼッタ男爵が娘のミレーヌ様へ厳しい視線を向けた。
「ミレーヌ。まず確認したい。お前はレオナード殿と、どのような関係にあるのだ?」
「お、お父様……それは……」
「夜会の席で王女殿下の婚約が破棄されるほどの騒ぎになったのだ。曖昧な返事では済まされんぞ」
ミレーヌ様は膝の上で両手を握り、ちらりとレオナード様を見た。
その視線に気づいたレオナード様が、勢いよく立ち上がる。
「男爵! 私たちは真実の愛で結ばれているのです!」
「……レオナード殿。私は今、娘に尋ねております」
「ですが、ミレーヌも同じ気持ちのはずです!」
男爵が娘へ向き直ると、ミレーヌ様はますます俯いてしまった。
私は二人の様子を見比べ、少し不思議に思った。
「あの、レオナード様。一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「……何だ、エレオノーラ」
「真実の愛は、お一人でも宣言できるものなのですか?」
「なっ!?」
「ミレーヌ様のお返事が、まだでしたので……」
レオナード様は口を開いたまま固まり、お兄様が咳払いをなさった。
公爵様は片手で額を押さえていらっしゃる。
すると、レオナード様が私に向かって声を荒らげた。
「エレオノーラ! 余計なことを言わないでくれ!」
「……申し訳ありません。では、ミレーヌ様のお返事を待ちますね!」
私は姿勢を正し、ミレーヌ様の方へ向き直った。
すると、お父様も、お兄様も、公爵様も、男爵も、なぜか同じようにミレーヌ様をご覧になった。
「えっ……あ、あの……」
ミレーヌ様は助けを求めるようにレオナード様を見たけれど、肝心のレオナード様も返事を待っていらっしゃる。
しばらくして、ミレーヌ様は小さな声で答えた。
「わ、私も……レオナード様を、お慕いしております……」
「ほら! やはりそうではないか!」
レオナード様が嬉しそうに声を上げる。
私はひとまず安心した。
お互いのお気持ちを確認できたのなら、これからのお話も進めやすくなるはずだ。
ところが、そのとき応接室の扉が控えめに叩かれた。
「陛下。夜会にご出席の子爵閣下より、ロゼッタ男爵宛ての書状が届いております」
扉の向こうから侍従の声が聞こえ、お父様が入室を許可なさった。
侍従は男爵へ封書を差し出し、事情を説明した。
どうやら、今夜の夜会には、ミレーヌ様と縁談が進んでいる子爵家の当主も出席していたらしい。
その子爵様は会場での騒動を知り、事情を確認するため、その場で書面を作成して男爵へ届けるよう、王城の侍従に依頼なさったという。
男爵は封書を開き、内容を読み進めるにつれて表情を険しくした。
「……ミレーヌ」
「は、はい……」
「お前、子爵家のご子息との縁談を、どうするつもりだったのだ?」
その言葉に、ミレーヌ様の肩がびくりと跳ねた。
私は初めて聞くお話だったので、思わず男爵の方を見る。
「子爵家のご子息、ですか?」
「はい、殿下。実は娘には、以前から縁談がございまして……」
男爵のお話によれば、ミレーヌ様には子爵家の嫡男との縁談があり、両家の当主の間では基本的な合意ができていたらしい。
正式な婚約発表はまだだったものの、ミレーヌ様ご自身も、そのお話をご存じだったという。
私は思わず瞬きをした。
なるほど、ミレーヌ様にも別のご縁があったのね。
「ミレーヌ。先方は今夜の件について、事実確認を求めておられる。説明してもらおう」
「そ、それは……まだ正式な婚約ではありませんもの!」
ミレーヌ様が慌てて答えると、レオナード様が彼女の方へ身を乗り出した。
「ミレーヌ!? 君にはほかに男がいたのか!?」
「えっ?」
私は思わずレオナード様を見た。
「……レオナード様には、つい先ほどまで私という婚約者がいましたよね?」
「…………」
「ミレーヌ様の方は、まだ正式な婚約前だったのでしょう? でしたら、レオナード様の方が――」
「エレオノーラ! もう分かった!」
「……まだ何も結論を申し上げていませんけれど?」
レオナード様は何かを言いかけたけれど、そのまま黙ってしまわれた。
私は首を傾げたものの、これ以上お話を遮るのもよくないと思い、口を閉じることにした。
するとミレーヌ様が、何度も首を横に振り始めた。
「わ、私はまだ、子爵家のご子息と正式に婚約しておりませんもの! ですから、何も問題は……!」
「そうか!」
レオナード様の顔がぱっと明るくなった。
「では、私との結婚を選んでくれるんだな!」
「えっ!?」
「私たちは真実の愛で結ばれているんだろう!?」
「そ、それは……もちろん、お慕いしておりますけれど……!」
「ならば何も心配はいらない! 北方領にも一緒に来てくれるよな!」
「ほ、北方領……!?」
ミレーヌ様は椅子から立ち上がりかけ、そのまま固まってしまった。
レオナード様は彼女の反応に気づかないまま、公爵様へ向き直る。
「父上! 私たちの結婚を認めてください!」
「認めるとは言っておらん」
「父上!?」
「そもそも、お前には領地経営を学び直すよう命じたはずだ。結婚の話を進める許可など出しておらんぞ」
公爵様のお言葉を聞いた瞬間、ミレーヌ様が小さく息を吐いた。
けれど、その様子をレオナード様が見てしまったらしい。
「……ミレーヌ。なぜ、安心したんだ?」
「ち、違いますわ! 私はただ、その……!」
「君は私と一緒に北方領へ行きたくないのか?」
「そ、そんなことは……!」
ミレーヌ様は答えを探すように視線をさまよわせている。
北方領は寒さの厳しい土地だと聞いているから、突然移り住むことになれば不安なのかもしれない。
もっとも、私なら魔導鉱石の調査ができるので、喜んで行くのだけれど。
「ミレーヌ」
男爵の低い声が、二人のやり取りを止めた。
「お前は子爵家との縁談を承知していたはずだ。なぜ、レオナード殿との関係を進めた?」
「そ、それは……!」
「理由を聞いている」
ミレーヌ様は追い詰められたように唇を震わせ、レオナード様と公爵様を交互に見た。
「だ、だって……レオナード様は、公爵家の跡取りで……!」
そこまで口にしたところで、ミレーヌ様は慌てて両手で口を覆った。
応接室が静まり返る。
「……ミレーヌ?」
レオナード様の声が、先ほどまでとは違っていた。
「ち、違いますわ! 私はレオナード様を愛しております! 決して、爵位が目当てだったわけでは……!」
「そのレオナードが、跡取りになるとは限らんがな」
公爵様が淡々と告げると、ミレーヌ様の顔から血の気が引いた。
「こ、公爵様……?」
「今夜の振る舞いを見て、後継者としての適性を改めて審査することにした。次男を含めて検討するつもりだ」
「そ、そんな……!」
ミレーヌ様が呟き、今度は男爵の方を見る。
私は、先ほどの子爵家のお話を思い出した。
「あの、男爵。一つ確認してもよろしいでしょうか?」
「はい、殿下」
「子爵家のご子息は、今のところ後継者のままなのですね?」
「……はい。嫡男として、家督を継ぐ予定と伺っております」
「まあ、そうなのですね!」
私は頷いてから、ミレーヌ様へ向き直った。
「では、ミレーヌ様。今でしたら、どちらになさるのですか?」
「え、ええっ!?」
ミレーヌ様が目を見開いた。
レオナード様も、公爵様も、男爵も、なぜか私を見ている。
「お嬢様」
後ろからセシリアの声がした。
「はい?」
「今、その場で選ばせてはいけません」
「……あら? そうなの?」
「そうでございます」
そう言われてみれば、どちらのご縁もまだ正式に決まっていないのだから、今すぐお答えいただく必要はないのかもしれない。
私はミレーヌ様にお詫びしようとした。
けれど、その前にレオナード様が声を上げた。
「エレオノーラ! 君は少し黙っていてくれないか!?」
「……あら?」
私は思わず瞬きをした。
「もう婚約者ではありませんので、レオナード様に指示される理由はありませんよね?」
「ぐっ……!」
レオナード様は言葉に詰まり、お兄様が口元を押さえて横を向いた。
お父様が大きく咳払いをなさる。
「エレオノーラ。質問はそのくらいにしておきなさい」
「はい、お父様!」
私は素直に頷いた。
ただ、ミレーヌ様がどちらをお選びになるのか、少しだけ気になってしまう。
◇
その後、ロゼッタ男爵は、子爵家への対応についてお父様に説明した。
ミレーヌ様とレオナード様の関係、そして今夜の騒動について、確認できた事実を隠さず伝えるという。
子爵家との縁談は一旦進行を停止し、今後については先方のご意向も伺うことになった。
ミレーヌ様が勝手に新しい縁談を進めることも、当面は認めないそうだ。
「まずは今夜の経緯を正確に整理し、先方へ回答せねばなりませんな……」
男爵が疲れたように呟く。
私は、そのお言葉を聞いて一つ思いついた。
「あの、それでしたら、今回の経緯を時系列で整理した方がよろしいのではありませんか?」
「……時系列でございますか?」
「はい! いつ、どこで、誰が、何をしたのか。原因と結果を整理すれば、先方にも説明しやすいと思います!」
研究でも、何か問題が起きたときには、まず観測された事実を順番に並べることが大切だ。
そうしなければ、原因と結果を取り違えてしまうことがある。
男爵は少し考え、それから深く頷いた。
「……なるほど。確かに、そのとおりですな」
「でしょう?」
自分の提案がお役に立ちそうで、私は嬉しくなった。
せっかくここまで興味深い事例が揃っているのだから、もう少し踏み込んでもよいかもしれない。
「でしたら、論文にするのもやりましょうか?」
「論文!?」
男爵が驚いた声を上げた。
「はい! 真実の愛が貴族間の婚姻関係に及ぼす影響について、興味深い事例ですので!」
今回の出来事には、婚約解消、家督継承、領地経営、そして複数の家同士の婚姻交渉が関係している。
それぞれの要因がどのように影響し合ったのかを整理すれば、きっと面白い考察ができるはずだ。
「お嬢様」
セシリアの声が、先ほどより少し低くなった。
「はい?」
「他家のご令嬢の恋愛事情を、学術論文にしないでくださいませ」
「……匿名なら大丈夫かしら?」
「そういう問題ではございません!」
「ええっ!?」
匿名にすれば個人情報への配慮もできると思ったのだけれど、どうやらそれだけでは足りないらしい。
私は少し残念に思いながら、論文の提案を取り下げることにした。
「……では、研究記録として残すだけなら……」
「お嬢様?」
「……何でもありません」
セシリアがにっこり微笑んでいる。
あの笑顔のときは、これ以上お話を続けない方がよいことを、私は長年の経験から知っていた。
男爵は時系列整理の提案については丁寧に礼を述べ、論文については辞退なさった。
お父様は、なぜか深いため息をついていらっしゃる。
私は少しだけ不思議に思った。
研究とは、本来、身近な疑問から始まるものなのだけれど。
続いて公爵様が、レオナード様の今後について改めて説明なさった。
北方領で領地経営を学び直すこと、後継者としての適性を再審査することに加え、王家との折衝業務からも外すという。
ただし、公爵家と王家の間で結ばれている既存の契約は、そのまま継続されるそうだ。
私はお話を聞きながら、ふと北方領の魔導鉱石を思い出した。
「公爵様。北方領の鉱山も、領地経営のお勉強に含まれますよね?」
「……当然、資源管理も学ばせるつもりです」
「では、魔導鉱石についても調べていただけるのですね!」
「……領地経営に必要な範囲で、ですな」
「まあ! でしたら、私からも質問をまとめておきますね!」
北方領には、王都周辺ではあまり見られない性質の魔導鉱石があると聞いている。
産出量や純度の変化だけでも、研究の参考になるかもしれない。
「私は君の研究助手になるわけではない!」
「はい! もちろん存じております!」
「……本当に分かっているのか?」
「ですから、正式な領地管理の報告書に含まれる範囲で構いません!」
「そういう問題ではない!」
公爵様が、私の私的な研究のためにレオナード様へ調査を命じるわけではないと説明なさった。
それは当然だと思うので、私は素直に頷いた。
ただ、鉱石の試料を一つくらい見せていただけないかしら、というお願いまでしてはいけないのかどうかは、まだ確認できていない。
セシリアが私の肩へそっと手を置いたので、その質問は後日にすることにした。
◇
ようやく一連のお話がまとまったところで、お父様が私へ向き直られた。
「さて、エレオノーラ。お前には、今後について聞いておきたいことがある」
「はい、お父様!」
「先ほど、王立魔導研究院へ入りたいと言っていたそうだな」
「はいっ!」
私は思わず身を乗り出した。
お父様は少しだけ目を細める。
「……随分と嬉しそうだな」
「もちろんです! ずっと入りたいと思っておりましたので!」
王立魔導研究院は、王国でも最高水準の魔導研究設備を備えた施設だ。
研究者として働くことができれば、今まで文献でしか知らなかった魔導装置にも、実際に触れられるかもしれない。
私は以前から募集要項を確認し、必要な書類や研究実績を整理していた。
けれど、王女としての公務に加え、レオナード様との婚約に伴う務めもあったため、応募は控えていたのだ。
「……そこまで準備していたのか?」
「はい! 昨夜も募集要項を読み直しておりました!」
お父様が驚いた顔をなさった。
後ろに控えていたセシリアが、小さく頷いている。
「お嬢様は、必要書類の一覧まで作成していらっしゃいます」
「セシリア!」
「ただし、昨夜は就寝予定時刻を一時間ほど過ぎておりました」
「そ、それは……少し確認したい項目があったからで……!」
「少し、でございましたか?」
「……二十七項目ほど……」
お父様が額を押さえられた。
「エレオノーラ。研究院への応募は認めよう」
「本当ですか!?」
「ああ。ただし、王族として必要な公務を果たすこと。それから、食事と睡眠を疎かにしないことが条件だ」
「はいっ!」
「採用されるかどうかは、お前自身の実力次第だ。王家の名を使って便宜を図るつもりはないぞ」
「もちろんです、お父様! 自分の研究で評価していただきたいです!」
私は嬉しくて、思わず立ち上がりそうになった。
王立魔導研究院へ応募できる。
しかも、王女としてではなく、一人の研究者として選考を受けられるのだ。
こんなに嬉しいことが、ほかにあるだろうか。
「ありがとうございます、お父様! 私、頑張ります!」
お父様は少し困ったように笑い、それから優しく頷いてくださった。
「……ああ。頑張りなさい」
お兄様も、私の方を見て微笑んでいらっしゃる。
レオナード様が何かを言いかけたようだけれど、公爵様が一睨みすると黙ってしまわれた。
ミレーヌ様は男爵の隣で俯いたままだった。
私はお二人の今後がうまくまとまることを願いながら、研究院の応募書類をいつ提出しようかと考え始めていた。
◇
応接室を出る頃には、夜会も終わりに近づいていた。
廊下の窓からは月明かりが差し込み、磨き上げられた床に淡い光が落ちている。
私はセシリアと並んで歩きながら、何度も研究院の募集要項を頭の中で確認していた。
「ねえ、セシリア!」
「はい、お嬢様」
「私、早速面接の練習をしたいわ!」
「お嬢様。今夜はお休みくださいませ」
「……一問だけでも駄目かしら?」
セシリアは足を止め、私の顔をじっと見つめた。
「……一問だけ、でございますよ?」
「ええっ! ありがとう、セシリア!」
私は嬉しくなって、さっそく考えていた質問を口にした。
「ではね、『最近、最も嬉しかった出来事は何ですか?』と聞かれたら、どう答えるべきかしら?」
セシリアの表情が、ぴたりと止まった。
どうしたのだろう。
私は研究院への応募を許されたことも嬉しいけれど、そのきっかけになった出来事を正直にお話しするのが、一番自然だと思うのだけれど。
セシリアは少しの間、何かを考えるように目を閉じていた。
そして、静かに口を開いた。
「……婚約破棄以外でお願いいたします」
「ええっ!? 一番嬉しかったことなのに!?」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
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ありがとうございました!




