お月様
あの日
震災の朝の空
赤いまんまるの月
はっきりと西の天に浮かんでいた
太陽は直視できないから
それが月だと理解した瞬間
体中から震えが昇ってきて
こわくて こわくて
歩けなかった
家も 学校も ぺしゃんこ壊れた
街は ぼぅぼぅぼぅ 燃え広がる
戦争の後の残骸のように
私の世界は 一瞬で真っ暗闇
手がぶるぶる揺れる
膝がカクカクして軸を失う
だけど
泣いている暇はない
避難所になった小学校
おトイレを譲り合う
寒い人に毛布を手渡す
生きるためのおにぎり お弁当 お茶
隣の人と寒さと暖かさ 分け合う
最後は助け合いが残る
自分ひとりの悲しみなんて消えていく
横の人 前の人 後ろの人
遠くの場所にいる人
みんな『なにか』を背負っている
旅人みたいに
荷物は できるだけ少なく
物も 心も 軽くして
歩かなきゃならない時
イノチ ソコヂカラ ダスシカナイ
魂から涙がザァーと溢れても
生かされた人生を
守る
生きること
終わりたい
もうやめたいって
何度も考えて
いつも 最後に
あの日が蘇るから
赤い月に笑われないように
赤い月がもう二度と現れないように
祈る道を選ぶ
私には
煌めくような
立派に輝く 取り柄はない
それでも
転んだら起き上がって
今日を生きる
ノコサレタ イノチ
助けたり 助けられたりしながら
今 地上を踏みしめている
ペンを握って
イノチの言葉 選ぶ
競うものは 何もない
自分の歩幅で
前へ 前へと
ゆっくりと
黄色い月の
満ち欠け
尊い
消せない
闇と
光
へ




