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タヌキとキツネの交渉

お待たせしましたー

 

「こちらへどうぞ。少しお待ちください。商会長を呼んできますので」

「ありがとうございます」


 案内されたのは、応接間、みたいなところかな。

 派手な内装はしてないけど、ソファは柔らかくそれでいてしっかりと僕の体を受け止めてくれていて、これが高級品かと思った。

 うん。

 屋敷にもあるんだけどね、高級感のあるソファ。


 あそこのだけやたらとお金かかってそうで掃除する以外にほとんど使ってないんだ。


「ところでゼシンは座らないの?」

「俺はこのままの方がいいだろうな」

「なんか後ろに立っていられると気になるんだけど」

「そこは我慢してくれ」


 そうして腕を組んだゼシンが僕に咎めるように声をかけた。


「ユウトは……あんな対応されてムカつかないのか?」

「んー、そりゃ、嫌な気持ちにはなるけど、ほら、僕今冒険者の格好だし」

「なんだ、冒険者は商人様にへつらえってか?」

「違うよ。そうじゃなくて、んんー?」


 土俵ってなんて言ったら伝わるかなぁ。


「例えばさ、逆に考えて、冒険者ギルドに小綺麗な格好した子供がギルドマスターに話があるよって来たら、ダメって言われると思うんだよね」

「そりゃあ、まぁ……な」


 首をひねりつつも否定は出来ないと口をへの字にしたゼシンだけど、やっぱり納得し難いって顔をしてた。


「それでもよ、あんな突っぱねるこたぁねえだろう?」

「じゃあもいっこ! 王様に話があるよって子供が来たら衛兵さんは帰れ! って言うと思うんだよね」

「……でも、ユウトは子爵だって言ったじゃねえか」

「そんなの自称なら誰でも言えるよ。遠い国の名前とかと一緒に言ったら確かめられないし」

「お前、そんなのバレたら首斬られるぞ……?」

「バレたら、でしょ?」

「すぐにはバレねえってか?」

「うん」


 誰も、誰も漏らさない秘密はバレないんだよ。

 特に悪いことしてる人達は、□□さんも、□□さんも、□□君だって言ったりしない。


 だから、こんなのなんでもない。

 ちゃんと手続き踏んで、通れるものなら堂々と通りなさい。

 なんていうのは。


 それが、例え

 どうせお前みたいな子供に出来るわけない。

 みたいな感情越しでも、少なくとも言ってる事は正しかった。


「やぁやぁ、待たせたね、フタワ卿」


 そこに部屋のドアをココンと軽く叩いてプジョリさんが入ってきた。


 後ろには秘書っぽい人もいて、飲み物だけ置いてから部屋から出ていった。


 そして、よっこらせと恵比寿様みたいな体を揺すってソファに座ると一口舐めるように口をつけた。


「忙しい事は商人にとっては喜ばしい事ですが、こうも書類書類と言われるとペンを持つ手が憎らしくなるものですな」

「しなくちゃいけない事は面倒な事が多いですよね」

「然り。行商ならば己の裁量で出来たことも、町商人になれば周囲と馴染む為に泥を手に取ることも必要な時があります。商人には金が一番信用なるものですが、信用は金では買えませんからな。なかなかままなりませんな」

「すみません。急な話だったので」

「なんの、そこは信用があればこそですぞ?」


 そう呵呵と笑ったプジョリさんがゼシンにチラリと目線を向けた。


「プジョリさんの目と耳がいいのは商人だからですか?」

「えぇもちろんですとも。目端が利かねば道に落ちた金貨を拾えませんし、耳が悪ければ落ちた音を聞き逃してしまいかねませんからな」


 全部聞こえてたって事かなぁ。


 何の話だって顔をしかめるゼシンに二人で少し笑った。


「よく分からんが俺をダシにして笑ってねえか?」

「そんなことは」

「なくもない、かな?」

「ったく、これだから商人ってのは……いや、ユウトもか?」

「なんの事か分かりかねますが、今日来られたのはそちらの御仁と関係があるんでしょうかな?」

「そうですけど、この部屋は風通しは良い方ですか?」

「それが全くでして、寒期はまだ良いのですが、暑期はどうにも浴場の中にいる様でして、この部屋の中で食べるゼリーはさぞや美味しいでしょうなぁ」


 じゃあどこで僕たちの会話を聞いたの。

 とは思うけど、とりあえず今は人に聞かれる心配はないよって事でいいのかな。


「こちらのゼシンさんが、見た通り冒険者なんですけど、愛妻家でお嫁さんが心配過ぎて遠出したくないって悩んでまして」

「ほほぅ」

「おいこら! 俺はそんなこと言ってねえぞ!?」

「ええー? そうでしたっけ?」

「ははぁ、それで毎日奥さんのいる家に帰りたいと」

「なので、僕が出来るお祝いはプジョリさんに紹介することかなって。目と耳のいいプジョリさんなら、何かいい話持ってるんじゃないかと思って」

「それでしたら、えぇ。丁度良い話がありますから、そちらをご紹介させて頂きましょうか、祝い事は大事ですからな」

「……恩に着る」

「いやいやなんの、これで間接的に殿下との個人的なツテが出来るとあらば、こちらとしても願ったりですからな」

「は……?」

「仲良くしてよね」

「当然ですとも」

「いや、いやいや、なんなんだお前ら!? 怖いわっ!」

「だって、ゼシンは五つ星の冒険者でしょ?」

「一端の商人の耳はハイエルフよりも良い事が必須ですからな」


 はっはっはっと朗らかに笑うプジョリさんに僕も笑う。


 商会長のプジョリさんは目と耳がいい。

 それなら、王族のコルモ殿下との繋がりがあって五つ星の冒険者であるゼシンを全く知らないなんて事はないよね。


 そんな僕たちを嫌そうな顔で見ていたゼシンだけど、諦めたようにがくりと肩を落として苦笑をうかべた。


「嵌められたってわけじゃねえし、な」

「良かったじゃない。コネあって」

「嫌味かコラ」

「悪いようには致しませんからご安心を。何せ殿下ともフタワ卿とも懇意にされてる方ですからな。無下には出来ますまい」

「いいように使われてる、の間違いだろ……」

「なんの、世の中には使われたい御仁も多かろうものですよ」

「せいぜいこき使ってくれ」


 降参だと両手を挙げたゼシンに、では、と手を差し出したプジョリさん。


 その手を見下ろしたゼシンがペシッとプジョリさんの手をはたいてニヤリと笑った。


「金の話が先だろ?」

「おや、そんなつもりは無かったのですが、そうですな、そちらを先に済ませましょうかな」

「そのつもりがなくても使えるなら使うのが商人だろ?」

「えぇ、使えるものは親の手でも使え、とは格言みたいなものですな」

「墓ん中から引っ張り出しても」

「足りなきゃ爺婆連れてこい」

「「そこまでやったらもうお仕舞い」」

「……なにそれ?」

「使えるものは使うべきとしても、やりすぎは良くないって事さ」

「無茶をすれば破滅してしまう、身の丈にあったことをしなさいということですな」


 そうして今度は大人二人で笑うゼシンとプジョリさんが、その後はトントン拍子に話を進めて、最後にはガッチリ握手した。


 良かったね。


「では、今後とも宜しくお願いしますな」

「あぁ、こちらこそ頼む」

「それと、フタワ卿にはこちらを」

「ん??」


 そうプジョリさんから渡されたのは一通の書状?


 きちんと蝋封もされたそれは、あとで見てって事……じゃないよね?


「急なお越しになる際にはそちらを見せてください。必要とあらば今まで通りこちらから足を運びますが」

「あ、うん、ありがとう」


 進捗を伝えにとかで、今は三日と開けずに来て貰ってるし、来ない日でも何かあればすぐに書状も来てたけど、うん。


 そっか、つい、いつでも来ていい、という言葉をそのまま受け取ってたけど、貴族的ないつでも来ていいだったんだ。


 貴族的ないつでも、は、殿下とのやり取り程じゃないけど、日にち決めて約束してからって事。


 それでも、今回みたいに訪ねてくる理由があるなら、紹介があると言えるようにこれをくれるって事だよね。

 本当はタイミング見て渡すつもりだったんだろうけど。


 何せ今は頻繁に会ってるから、話があるならその時でもいいはずだし。


 貴族的な感覚だと三日に一度というのはもう毎日顔合わせてるくらいの感じらしいから。


 貴族って大変だ。

 友達と遊ぼうとしたら何日後になるんだろう。


 そんなことを考えつつ、商業ギルドから出た僕たちは通りを歩きながら話をする。


「今回は助かった」

「いいよ、むしろみっともない感じだったし」

「なんだ、受付の事か?」

「まぁ、うん」

「良いじゃねえか、そんくらい。俺がお前に感謝する気持ちに変わりはない」

「それならいいけど」


 いいけど、こう……ね?


 僕に任せて! ってした挙句にちょっとゴネた上で帰ろうとしたのはなぁ、ちょっとカッコワルイ。

 運が良かったなぁ。


「て事で飯でも奢らせてくれ。酒にするのはちっとばかし早いからな」

「飲めるとしてもこんな昼間から飲まないよ?」

「そりゃあ大人になってからもう一度言ってくれ」


 そう言ってゼシンの案内で入った酒場は、まだ昼間だって言うのにお酒の匂いがぷんぷんした。

 うん……酒場だから間違ってないんだけどね。


 なんでほぼ満席かなぁ。


「よう、マスター酒くれ酒」


 で、ゼシンは僕を連れてカウンター席の方に行くなりお酒を注文した。


 よっと。

 なんでカウンター席の椅子って背が高いんだろう。

 プラプラして落ち着かない。


「なんだテメエ明るいうちから! 嫁っ子置いて何してんだコノヤロウ!」


 ゴッ!


 とカウンターに叩きつけるようにジョッキを置いて、ニヤリと笑ったマスターだけど、もうセリフも表情もやってる事も滅茶苦茶だよ。


「メシくれよ。今日はお大臣のおかげで気分がいいんだ」

「テメエいつからジャリにたかるようになったんだ? おぅ、ボウズ肉でいいか?」

「あ、はい」

「たかっちゃいねえさ。仕事だ仕事」

「仕事だぁ? こんな時間から飲んだくれて仕事もあるかバカヤロウ。ボウズは何飲む」

「えっと、ジュースがあればそれで。なければ水でもいいです」

「ユウト、ここじゃ水といえば酒だ」

「え!? なんで!?」

「酒場だからな。水出す酒場があるか! ボウズは仕込みたてのワインでも飲んでろ」

「ブドウのジュースだとよ」

「ワインだ」


 ゼシンが、な、面白いだろ? とコソコソ耳打ちしながらジョッキを傾けるのに、口元を抑えてコクリと頷く。


 マスター、見かけはヤクザのボスみたいな感じだし、口調も荒いけど、なんだろう、このツンデレ感は。


「ほら、肉だ食え」

「あ、ども」


 と、鉄板の乗ったお皿を受け取ろうと手を出したら


「触んじゃねぇ! 火傷してえのかボウズ!」


 とか言われてミトンみたいなの渡されたり。


「酒場でジョッキを干すとはいい度胸だボウズ」


 とか言われてオカワリ注がれたり。


「テメエら、全部で銅六枚だって言ったろうが、ナメてんのか? アァ? 一枚多いだろうが! 数も数えらんねえのか!」


 とか。


 ほんと、ほんとに、凄い……。


 そんな感じで、ゼシンが三杯飲んでる間に「肉野菜炒め」を食べて、僕たちは酒場を出た。


 それでそこでゼシンは、モクさんのところに帰るそうで、手を振って去っていった。


 酔っ払って帰っていいのかな。

 モクさんもゼシンの事は分かってるよね。


 さて、僕はどうしよう。

 ギルドでお仕事する為に出てきたのに案内してご飯して、でお昼になっちゃった。


 今からお仕事したら帰るの遅くなりそうだし、かといってこのまま帰るのも、なんか、なんかダメな気がする。


 とりあえず、ギルドに行ってから考えようかな。




さてと

次、新キャラがまた増えます(笑)


それが終わったらようやくお披露目に移ります。

というか、王城にスポットが戻りますw


メノの見たアレはどーしたぁぁぁっ!!?


とかはおいおいで。

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