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ちぐはぐ

 

 翌朝、起きると隣にはメノがいなかった。

 いつもなら着替えを手伝ったりしたそうにしてるはずなんだけどな、とちょっと首を傾げた。

 まだやっぱり割り切れない、のかなぁ。


 勿論、家出なんかしちゃってそこは僕が悪いけど、朝食の時はなんか空気が重かった。


 メノは体調不良で先に失礼しましたって言ってたけど、そんな事はいいんだ。

 本当に顔は真っ青だったし、テリアにお願いして今日は休んで貰った。


 誰だってそんな日はあると思うし、女の人は特にそうだって言うからね。

 男の僕には分からないけど。


 ただ、テリアもリリも少し体調悪そうだった。

 私はメノほどヤワじゃないですよーと笑ってたし、本当に大丈夫そうだったから、強くは言わなかったけど。


 だから、僕もみんなにも迷惑かけたし今日は屋敷にいて家事の手伝いでもしようかなって思ったんだよ。

 まぁ、貴族のする事じゃないかもだけど、お客さんがいるわけじゃないし、大変な時にも何もしないのはやっぱり違うと思ったから。


 でも、ボラに仕事行ってこいって言われちゃった。


 休むと感覚が鈍るから、疲れてる身体を休ませるわけじゃないなら今はそっちが優先だって。


「いーか? 今お前の体はドンドン作り替えられてる最中だ。最適化してるでもいい。それを止めると体が混乱すっから今は動ける時は動かせ、馴染ませろ。それが今お前がするべき事だ」


 なんて言って僕を外にほおり出した。


 そうやってたから屋敷がダメになったんだけど、でも、他のみんなもそうした方がいいという感じだった。


 僕のせいかな……


 そう思ったけど、今日は門にいたアデーロも今はその方がいいと言われた。


「女には機嫌が悪くなる時があるんですよ。そんな時は少し時間を置くのも紳士ってものですよ」

「そうかな……?」

「大体、みんなユウト殿が好きなんですから、少しは子離れしてくれないと家から出させて貰えなくなりますよ?」

「それは困るなぁ」

「そんなわけで、今のウチにシャバの空気を楽しんできてください」

「アデーロはそんな事ないの?」

「僕ですか? 嫌だなぁ、そんな女性に恨まれる様なことはしてませんよ」

「でも、さ……恨んだりするのって理屈だけじゃないから」

「それは金言ですね。まぁ気をつけておきましょう」


 少しモヤモヤしたけど、誰にでもやるべき事があるみたいに、学生なら勉強とか、社会人ならお仕事とか、主婦なら家事とか、ここだと騎士なら鍛錬とか、神官ならお祈りとか、露店の人は場所取りもシビアだって聞くし、どこのだれにでも、それは僕にだってやらなければいけない事はある。


 屋敷のみんなの為に僕が出来ることは、みんなのおかげで立派な勇者になれたと胸を張って言えるようになること。


 それが、アグレシオ殿下を筆頭にして、僕の勇者の召喚を執り行ったマグダレン導師や、他にもたくさん居るだろう僕が邪魔な人達を見返すことに繋がる。


 他の勇者が良かったなんて言わせない。

 勇者が僕で良かったと言わせたい。


 そのためにすることは、経験を積む事。

 この世界の事も、エランシア王国の事も、貴族の事も、庶民の事も、教会の事も、何もかも知らないばかりじゃダメだよね。

 もちろん、勇者の事も。


 先は長い、でも期限はそんなに長くない。

 だから、僕は僕に出来る事をしないといけない。


 その僕の今出来る事が、冒険者の事。

 つまりは荒事に慣れること。

 アイスとかゼリーは僕には今はやることないから、結果待ちみたいな所はある。

 礼儀作法とかも最低限はしてるけど、まだ付け焼き刃でいいらしい。


 というのも、召喚されてその後、ね、囲われてたみたいなイメージが良くないんだって。

 それは、貴族なのか、王族なのか、それとも王国自体になのかは僕には判断できない事だけど、どこかの色に染まってるのはそれ以外の人にとっては嬉しくないのは分かる。


 誰だって、強い人が相手の言いなりだったら面白くないよね。

 公平にして欲しいのに、だったらなおさら。


 まぁ僕が強い人かはともかく、勇者っていうのはきっとそういう人には欲しいんだろうな。


 そうなると僕がお城から出されたのは良かったのかな。


 結局はお手紙いっぱい来たし、挨拶も色々と行ったけど、これが外に出たから増えたのか減ったのかは分からないなぁ。


 そんな感じでうんうん唸りながらギルドまで来たら、僕の他にも唸りながら依頼票を睨んでる人がいた。


「あれ? ゼシンさん?」

「……? おぉ、坊っちゃまじゃねえか、なんだもう立派に冒険者じゃねえの」

「そうかな?」


 ゼシンさんは前に教会行脚した時の殿下の護衛してた人だ。

 そういえば、全然会わなかったな。

 なんか忙しかったのかな。


「というか、坊っちゃまはやめてよ。ゼシンさんのが年上で冒険者でも先輩なんだから」

「そりゃ悪かった。んじゃ俺の事もゼシンって呼んでくれや。ゼシンさんなんて言われてちゃ痒くなっちまう」

「うん。じゃあゼシンね。それでどうしたの? なんか唸ってたけど。それにモクさんは一緒じゃないんだ」

「あー……それな。まぁ、今は俺一人だ」

「ケンカでもしたの?」

「ンなわけあるか! 縁起でもねえ」


 軽く頭にチョップされてごめんねと言えば、まぁちょっと話そうとギルド併設のバーみたいなところに連れていかれた。


 うん、僕もちょっとそのままお仕事って感じでも無かったからちょうど良かったのかもしれないね。


「悪いな、時間取らせちまって」

「いいよ。僕もちょっと気分が乗らなくてどうしようって思ってたから」

「ンじゃ、そこはお互い様ってやつだな」

「そうだね。それでどうしたの?」

「あー……その、な、ちっとばかし遠出の仕事を控えようと思ってな、探してたんだが、俺くらいになると中々条件に合うのがなくてな」

「遠出をしないって、モクさんに何かあったの!? 怪我とか!」


 まさかと思って聞けば、手を振って違うと言われた。


「それこそまさかだ。モクが怪我するくらいなら俺の方がボロボロだ。そんなヘマはしねえよ。そうじゃなくてな……」

「良かったー」


 それならなんでと思えば、むぅと唸って、百面相しつつも諦めたように長い息をついて、そっぽ向きながらボソッと言った。


「……モクが妊娠したんだ」

「へー! おめでとう! あ、だから?」

「な、なんだ!?」

「モクさんにお仕事はさせたくないし、離れたくはないけど、仕事もしなきゃ、みたいな?」

「カーッ! これだかは察しのいいガキは……! そうだそうだよ、悪ぃか!?」

「え、悪くないよ、いい事じゃない」

「お、おぅ……そう、なんだが、まぁ、モクの奴は気にせずしっかり仕事してこいとか言うけどよ、心配もするしよ、あんまり危険のありそうなのは避けたいだろ? でも稼ぐにゃ危険はつきものだからな、どーすっかなと思ってよ……」

「あー……」

「俺は剣振るくらいしか能がねえし、仕事っていやぁコレしかねえんだけどな、万が一を考えるとなるべく慎重にしとかねえとな。モクも子供も守ってやらにゃいけねえからな」


 そう言ってガリガリと頭を搔くゼシンは、もうちゃんとお父さんしてるんだなと思った。


 でもそっか、冒険者のお仕事は、やっぱり荒事だから、危険なこともあるよね。


 チラッと胸元を見れば五つの穴が開けられたゼシンのギルドカードが、ゼシンが五つ星の冒険者だって分かる。


「マジモさんのとこと一緒の仕事は出来ないの?」

「あ〜? マジモだ? いや、まぁマジモに限らずどこでも構わなくはあるんだがな、他んとこに入るとすると仕事が選びづらいからな。安全にはなるけどよ……」

「モクさんから離れたくないと」

「うっせ!」

「あ」

「あ?」


 それなら、どうだろう……

 プジョリさんにお願いとか、できるかな?


 ゼリーのお店、まだ始まってないし、殿下のアイスの方が先になるからナイショで進めてるみたいだし、ゼシンなら殿下の事も知ってるから、そこら辺の事情は細かく言わなくても理解してくれそうだし、それでお店の用心棒みたいなお仕事ならそこまで危険じゃない……と思うから、少しは安心だよね、それで街中の仕事だからモクさんもお給料良ければ心配事減る、んじゃないかな。


「なんだ、突然黙って」

「ゼシン、護衛みたいな仕事って出来るの?」

「ア? ナメてんのか? これでも五つ星だぞ俺は?」

「それはごめん。マジモさん達と同じくらいだもんね」

「いやまて、マジモよりも俺の方がすげぇからな? アイツらは四人で俺達は二人だ、それでランクが同じなら俺達の方が上だろ」

「えぇ……何その理屈」

「重要だろ!」

「いいよ、今はそんなの……」

「ユウトは覇気が足りねえぞ! もっと男ならガツガツ行けって!」

「誰が強いか選手権とか興味ないもん。それに僕からしたらボラ以上に強い人いる気がしないし」

「ボラ……ってーとトスキアの戦姫か……いや、そうか、まぁ、アレと比べられるとなぁ……」


 あー……

 五つ星だって凄い冒険者なのに、そんな人からもそんな印象なんだ、ボラって……。


「まぁ、ボラの事はいいんだよ。そうじゃなくて、お店の用心棒的なのは興味ない?」

「ありゃ、信用がねえとな……つまりコネがねえと中々上手くいかねえんだよ……ってなんだ、ユウトにゃアテがあんのか?」

「多分……?」

「多分てお前……」

「絶対とは言えないけど、話くらいは聞いてもらえると思うよ。僕も一応関係者のだから」

「家の稼業に噛ませて貰えんのか。そりゃありがてえ」

「そんな大層なものじゃない気もするけど、そうなるのかな? 僕は丸投げしてるみたいな感じだから、そんなにウチのって訳じゃないんだけど」

「よく分からんが、こういうのはコネが大事だからな。顔繋ぎだけでも出来るなら助かる。ユウトの話しがダメでもその後に繋がるからな」

「それなら、話聞きに行こっか」

「今からか!?」

「え? 早い方が良いでしょ?」

「そりゃそうだが、今からすぐ時間取れんのか?」

「いつでも来てくださいとは言われてるし、ダメだったら今度会う約束すればいいよ」

「お、おぉ……こういう時は決断早いのかお前」

「え、なに?」

「いや、助かる。頼めるか?」

「うん。頼まれました!」


 ゼシンから差し出された手と握手して、それから入ったばっかりだけどギルドから出て、僕はピタリと止まって、それから安請け合い……した事は後悔してないけど、また自分の浅はかさに顔を覆って蹲った。


「あぁぁ……っ!」

「ど、どうした!?」

「ご、ごめん、ゼシン。商業ギルドの場所、わかる?」

「……は?」

「僕、自分で歩いて行ったことないの忘れてた……」


 そうだよ!

 そうだよー!


 何度か行ってたけど、全部オッソに馬車で運んでもらってたし、後はプジョリさんがウチに来てくれてたから。


 一昨日もそれでレアさんのとこに行けなかったのに恥ずかしくて立てないよ!


 と、クックックッと上から押し殺したような声が聞こえた。


「いや、坊っちゃまは箱入りだなぁ? いいぜ、案内しましょうか、このワタクシめが」

「ぅー……オネガイシマス」

「ほら、しゃがんでたら歩けねえぞ」

「あーもう! 恥ずかしいなぁ!」

「なんだ、澄ましたツラしててもまだ世間知らずだよなぁ、ユウトも」

「そーだよ! ほらもうそれはいいから案内してよー」

「そこだぞ」

「……え?」

「だから、そこだっての」

「そこって……」


 ポカンとしてそこを見上げた。


「目の前じゃん!」

「一つ賢くなったな?」


 バッと後ろを見れば、四つ辻じゃないけど、位置的には斜向かい的な、徒歩一分……は言い過ぎだけど、ほんとにそのくらい近い。


「なんで冒険者ギルドと商業ギルドがこんな近くにあるの!?」

「そりゃあここがギルド通りだからだなぁ」

「ケンカ上等の冒険者とお金命の商人が近くにいたら問題しかない気がするんだけど……」

「だからどっちのギルドも裏口があるだろ? あぁ、商業ギルドの方は知らんか」


 つまりこっちはお客さん向け入口って事?


 そうだよ、僕も使ったじゃないか、裏口の方。

 それでレアさんにも理由聞いてたのに!

 いやでも、分かんないよ、そんなの。


「むくれてねえで紹介頼むぜ、ユウト。建物の場所知ってても顔繋ぎは出来ねえんだからな」

「分かったよー……」


 ぽんぽんと背中を押されて商業ギルドの中に入る。


 中に入れば、建物の大きさはそこまで違わなかったのに、なんか広く感じた。


 冒険者ギルドは表の入口からが冒険者の場所で、奥の方がギルドの人の場所って、カウンターが綺麗に二分されてる感じだからで、変わって商業ギルドの方は、左右の壁にカウンターがあって、真ん中がすっぽり商人の人の場所になってるから、かな。


 それと、喧騒が凄い。

 ガヤガヤとした空気で満ちてる。


「ユウト、あっちで美人のねーちゃんが呼んでくれてるからそこ行くぞ」

「あ、うん。うん?」

「同じ話すんなら、脂ぎったオヤジより綺麗なねーちゃんの方がいいだろが」

「……うん、そうだね?」


 いやうん、確かにヤクザみたいな人だとしり込みしちゃうけどさ。


 モクさん、妊娠したっていうのに、そんな事言っていいのかなぁ。

 お仕事だからいいのか。

 後、呼んでくれてるわけじゃなくて空いてるだけだからね。


「商業ギルドへようこそ。本日はどのような用件でしょうか?」


 カウンターに着くなり、そう聞いてきた受付のお姉さんは、確かにゼシンが“美人のねーちゃん”というだけあって綺麗な人だけど、リリみたいに表情が薄い。


「えっと、すみません。商会長のプジョリさんにお話なんですけど」

「お約束は御座いますか?」

「いえ、ありません。やっぱりないとダメですか?」

「商会長はご多忙でいらっしゃいますから。お約束をしてからいらして下さい」

「約束はここで出来ますか?」

「こちらでは承っておりません」

「……えっと、じゃあ、どこなら……?」

「存じ上げません」


 あ……

 これ、アレだ。

 多分、バカにされてる……?


 目の奥が、深くて、澱んでるのが分かる。


 お前みたいな冒険者してるガキに商会長が会うわけないでしょ?


 って、そんな声が聞こえそうなくらい。


 昔ならそれで縮こまってたかもしれないけど、今の僕は少しだけ偉いのです。


「では、ユウト・フタワ子爵が話があると伺った事を伝言お願い出来ますか?」


 だから、あまり自覚はないけど、それでも使えるものは使っていかないといけないなら使うよ。


()()()()()()()()書簡でのご連絡をお願いします。ご用件は以上でしょうか?」

「この……っ」

「ゼシン!」

「……チッ」

「分かりました。では、失礼します」

「またのご用件をお待ちしております」


 拳を握るゼシンの手を抑えて席を立つ。

 言っても仕方ないんだ、こういう人には。


 それにプジョリさんによくして貰ってるからって、商会長の下の人全てが友好的だなんて有り得ない。


 だから、こんなのはなんでもないんだよ。


 それよりもお仕事紹介してあげるだなんて言っておいてこんな形になっちゃったのが申し訳ないです。


 貴族の身分も持ち出したのに、役に立たなかったなぁ。


 子爵ってそんなに偉くないのか、それともボクが子供だから子爵だと判断されなかったか、フタワ子爵の名が知られてないからか、どれかなぁ。


「……あれ? フタワ卿ではないですか」

「ん?」


 耳慣れないけど、さっき自分でも声に出したからか、その声はとてもよく聞こえた。


 席を立ったタイミングが良かったのか、それでこちらに目を向けたらしい男の人がボクを見てた。


「……あ、プジョリさんの送迎に来てた方ですか?」

「! よく覚えておいてで」


 そう言い驚いた顔になるも僕のところに来てくれた。


「本日はどうされたので? 商会長に何か用がおありでしたか?」

「えぇ、そうなんですけど……約束はしてなくて、忙しそうですし出直そうかと」

「……うん? ……あぁ、分かりました。商会長には私から伝えますので、どうぞこちらへ」

「いいんですか?」

「ええ、むしろフタワ卿に来ていただけたことを喜ばれると思いますよ」

「!?」


 そこで初めて愕然とした顔になった受付のお姉さんを置いて、僕たちは奥に通された。




前回の不穏な感じは先々にお任せして、近づいてるお披露目までわちゃわちゃして行きます。


そろそろお姫さまも復活させないと忘れちゃうよねっ!

脳内お花畑のお姫様の名前はマナリス、です。

ちなみにゴージャスな王妃様の名前はシャロハナです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 上からフタワ子爵について聞かされてなさそうだし、子爵と名乗っただけで何か証を見せられたわけでもないのにホイホイ通してたらそっちのほうが問題ありそうな気はします だからといって応対の様子はフ…
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