お祝いすぺしゃる お花見編
2話連投の2話目になります、注意!
はい、ということで誰に言われることも無く先走って100話到達を自分でお祝いしつつ、記念の100話があんな形になってしまったので、
どうしてこうなったー!?
という理不尽なツッコミを跳ね除けての……
閑話になります。
お正月すぺしゃる、エイプリルフールすぺしゃると同じく本編とは関係がありません!
久々の閑話なので、改めて。
本編とは関係がない別時空の話になりますので、キャラの性格が多少違ったりすることがあります。
概ね欲望に忠実になる傾向があるので、テンションが全体的に高めになります。
などなど諸々含めてご理解の上、お楽しみください。
ご主人様の考える事は時折突飛でよく分からない事がありますが、これもその一環、なのでしょうか?
「お花見しよう」
今日はそんな一言から始まった宴を開催する為に朝からご馳走の仕込みに奔走してます。
何やらご主人様の故郷では花見なる酒宴が毎年恒例なのだそうで、しーずんだからせっかくだしやろうと相成りました。
主にサクラなる桃色の花の木の季節に合わせて開催するらしいのですが、サクラなる木はここらへんにはなく、メイド長が樹精のお力でそれっぽい花の群生地に案内して下さるそうです。
まぁご主人様の言うところに寄ると、ウメの花の季節にやってもいいし、コウヨウの季節にやってもいいし、何なら月を見ながらしてもいいそうで、ご主人様の世界は酒飲みが多いんだなとわたしは思いました。
とはいえ
前の嘘をついてもいい日などと違って、こちらは少し分かりますが、ご主人様の故郷は催しが多すぎではないでしょうか?
ともあれ、ご主人様のなさりたい事なら叶えて差し上げたいと思い、エニュハとも協力して用意をしております。
が
「カノン。こうやって鶏肉に衣つけて、後は油で揚げるだけだから」
「はい、わかりまして」
キツネ色なる茶色になったら美味しくなったさいんだそうで、コーリーの色になったら良いと言う事ですね。
コーリー揚げなどとエニュハが面白がって揶揄ったら涙目になってました。
から揚げ〜、こり揚げ〜、コーリー揚げ〜
と歌いながらでとてもご機嫌ですが、ご主人様も苦笑されてますね。
ところで
何故かご主人様も料理に参加されてます。
ご主人様がやる事ではない気がしますが、ご主人様は料理がお好きだそうなので、趣味の一つなのだという事で屋敷の皆様は納得されてます。
新しい商売のタネにもなりますし。
このから揚げも油を贅沢に使ってますので、見た目はさほどでもないですが、中々庶民には手が出ないかもしれません。
匂いなども暴力的で、美味しそうです。
ジュワジュワと気泡を上げて油に浮かぶから揚げからいい匂いがして思わず顔が綻びます。
「ご主人様! これくらいでしょうか?」
「ん……色は良さそうだね。油から出そうか。それでから揚げを切ってみて、中まで火が通ってたら大丈夫」
流石に熱いので、フォークで抑えながらナイフで二つに切り分けてみれば、生っぽい赤みもなくて、大変良さげです。
という事で、更に切り分けてご主人様と私たち三人で味見です。
「はふ、はふ! ふぁ……お、美味しい! ご主人様、美味しいでありんす!」
「あ、コーリーさん、ズルい! わ、わたしも」
「んむ……これはお酒が欲しくなる味ですね。あぁ、サクサク衣の中にジュワッと鶏肉の甘みが広がってから揚げこれがから揚げですかしかし揚げ時間が少し長かったかもしれませんねもう少し早くすれば更にお肉が柔らかく感じられそうです油じゃなければもっと研究出来るのにいくら何でも贅沢過ぎますとりあえずは残りでちゃんと覚えないといけませんねこれは」
「ん、まぁまぁ、かな。衣ちょっと変えようか」
な、なんですって……
そ、そうか、衣も薄くしたり厚くしたりで揚げた時の色味にも違いが出るんですね!?
と思っていた私は浅はかでした!
料理人の風上にもおけません!
衣の中に唐辛子を混ぜる……!?
香辛料までも贅沢に使うご主人様に驚愕します。
更に次は最近ご主人様がよく購入される海の野菜、海藻です。
ワカメなる黒い海藻は美容にもいいと言う事で、最近はよくメニューに取り入れられますが、こちらはノリというチリチリしたワカメのようなものです。
それをまさか衣に!?
あぁ……海藻だから、ほのかに香る海藻特有の海の匂いに、海藻に含まれる塩が程よい味わいで、あぁ……ご主人様はお菓子作りじゃなくてもかように料理がお出来になられるのですね!
などと次々に揚がるから揚げに味見を繰り返していたわたし達は、唇が油でテカテカになっていました。
奴隷の身の上でなんて浅ましいっ!
……後一個だけですよ?
と
紆余曲折あったものの、おべんとうという名の持ち運び専用の重なる箱に詰め込んでいざ出発です。
出発です……?
何やらエニュハがメイド長に訴えていますね。
「……え、しかし、流石にそれは……」
「で、でも……」
「分かりました。仕方ありませんね……」
何か問題でしょうか。
メイド長がボラ様に話をすると、ベンド様が馬車から蹴り落とされました。
そして抗議するベンド様が、やけくそで走り去っていくのを見送りつつ馬車が出発です。
「エニュハ? 先程は何をしていたのでありんす?」
「アフォス様も、から揚げ、食べたい、から、場所を、指定、するって……」
「えぇ……」
「それで、メイド長が、カーテン、閉めて、おきなさいって」
「「…………」」
コーリーと目で示し合わせてカーテンを引きます。
これでわたし達がどこに連れて行かれるかは分かりません。
神様の顕現される場所なんて限られている以上、どこに向かうのかは想像出来ますが、見えない以上は分かりませんたら分かりません。
ベンド様は途中で合流される予定のアイリス様にお知らせに走ったのだろう。
本来ならわたし達が行くべきなのかもしれませんが、奴隷の身で貴族のお嬢様のところに行くのは難易度が高いですし、きっとベンド様が適任だったのでしょう。
程なく、街の外には出てなさそうな感じから、想像通りの場所だと当たりがつけられます。
馬車の下が石畳から何かこう砂利の上を走っている感じになって、それはもう場所が恐れ多いと思いましたが、残念ながらカーテンで目隠ししてる以上、どこなのかわたしには分かりません。
よく分かってなさそうなエニュハが羨ましいです。
コーリーなど耳どころかしっぽまでピンとさせて顔が強ばってます。
というか、わたしには聞こえませんが、耳の良いコーリーの事、きっと外の音もよく聞こえているのでしょう。
ご愁傷さまです。
それから更にしばらく、ようやく辿り着いたらしい場所は樹木の香りのする小さな森の中でした。
あぁ、本来なら先に降りてご主人様をお待ちすべきわたし達ですが、申し訳ありません。
先に拝謁するわけにも参りませんので、後で降りさせて頂く不遜をお許し下さい。
「ゆうちゃーん! 待ってたわよー! さぁ、おねえさんとイイコトしましょうねー!」
「わ、わ、わ、フェゼット様引っ張ったら危ないからっ!」
「だーいじょーぶ! おねえさんがちゃんと受け止めてあげるからっ!」
馬車の扉から伸びてきた手がご主人様を捕まえるや否や外に引っ張り出して行きました。
ご主人様の悲鳴が聞こえますが、相手は神、わたし達ではどうすることも出来ません。
「神ババアからユウト様を救ってくる」
「リュリュ!? 相手は神様ですよ!?」
「関係ない。ユウト様の方が大事」
「私もユウト様取り返してくるっ!」
「あ、テリアまで何をするつもりですか!?」
「あーぁ、メノの気持ちってその程度だったんだねー。相手が神さまなくらいで尻込みするんだー。まぁいいけどね」
「……言わせておけば……ほら、あなた達も行きますよ!」
こっちに来た!?
いくら奴隷の身とはいえ無理なものは無理だと……。
「はぁ、カノン、エニュハ、大丈夫でありんす。フェゼット様なら酒宴で無礼討ちなどは致しません」
「ほ、本当?」
「えぇ、問題ありんせん」
「アフォス様も、居るけど、大丈夫、かな?」
「……そっちはわかりんせん」
「アフォス様て言えば、気分屋で有名ですよ……?」
「…………エニュハ?」
「海の、天気、だから……」
「「………………」」
それは、なんの保証にもなってません、よね。
コーリーと二人、顔を見合わせてもおべんとうは私達の手元にあるわけで、降りざるを得ないんですよね。
そんなわけで渋々ながら森神フェゼット様の神域に足をつければ、清涼な空気がとても清々しいです。
「エニュハ、コーリーが降りられませんから横に」
「あわわわわわわ……」
ガクガク震えるエニュハの視線の先に目を向けたわたしは、神をも恐れぬ所業に目眩がしました。
「ユウト様にちょっかい出さないで! オバサン!」
「神でもしていい事と悪い事がある」
「あーあー! そ〜んなこと言っていいんだ? いいんだ? このおねえさんに対して不敬じゃないかなー!?」
「あら、フェゼット様の酒宴は無礼講とお聞きしましたが、まさか二枚舌をお使いに? いやですよね、歳をとると物忘れが激しくなって」
「え、ちょ、みんなまって……」
「あたしの姿はゆうちゃんのイメージ通りでーす! ちょっと年上のおねえさんだからー! 後20年もしたらシワシワになる貴女たちとは違いますー!」
「ユウト様、今すぐババアにはババアらしい姿をさせるべき」
「そうだよ! フェゼット様って今何歳ですっけ? 5000歳とか? まさか10000歳超えてるとか?」
「神に年齢とかありませーん! 人の子はほんとばっかねー」
「バカって言った方がバカ」
「はい! 二回言ったー! ばーかばーか!」
「では、今のでフェゼット様が三回で一番ですわね」
「ちょっと貴女! 仮にも樹精のくせに敬意が足りてないー!」
「神様ってだけで偉いなら楽チンだよね」
「はぁー? 言うに事欠いて───」
「ガウッ!」
「え? サヌカ? ちょ、なんで私だけ!?」
「ガルゥガル!」
「喧嘩両成敗でしょー!? やるならみんなにすべきでしょー!?」
「グガゥ!」
「え、何その聞くからに不穏な刑は!? や、やだ! 人型くりぬ木の刑やだ! 絶っっ対痛いでしょ!」
「ガッフゥ♪」
「なんでアンタはそんな嬉しそうに、アッーー!」
ただただ恐ろしくて震えているしか出来ない無力なわたし達をお許しくださいー!!
結論からいうと、フェゼット様で木に穴を開けました。
カエルが張り付くようなポーズで叩きつけられたフェゼット様の型で綺麗にくり抜かれた樹木が痛々しいです。
「まったくもー! 私じゃなかったら怒ってるところだよー!」
そのフェゼット様はプリプリ怒りながらワインを煽ってるわけですが、さすがは神様、でいいんでしょうか?
そんな形でフェゼット様には神罰のような何かが下ったわけですが、メイド様方にはご主人様からのお叱りが飛んでいます。
「みんななんでそんな汚い言葉使うのかな!? 言葉にはね、力が宿るんだよ! 僕からしたらみんなだって年上なのに、僕からそんな言葉聞いたら嫌な気持ちになるでしょ!」
「「「ごめんなさい」」」
「謝るのは僕にじゃなくてフェゼット様だよ」
「「「フェゼット様申し訳ありませんでした!」」」
「大体ね、フェゼット様は、見た目は綺麗なお姉さんだけど、酒盛り大好きで、イタズラ大好きで、中身はちっちゃい子供みたいな感じなんだから、フェゼット様のやることに一々目くじら立てないの!」
「ゆ、ゆうちゃん……?」
「「「分かりました!」」」
「ちょぉっ!?」
す、凄い……
ご主人様凄い。
そして、そんな事には目もくれずにアフォス様のところに挨拶に行くエニュハも凄い。
「アフォス様、から揚げ、もって、来ました」
「おう! 悪ぃな! どれ、一つくれ」
「ま、まだ、ダメ、です。みんな、揃って、ないから」
「かてぇこと言うなよ。と、言いてえところだが、まぁ、宴会は人が多い方がいいからな」
「です」
ふんす、と鼻息荒く私たちに言いたいことちゃんと言えました! と自慢げにしてるところアレですが、相手は神様ですからね!?
いいんですよ!?
一個くらい差し上げて!
神を神とも思わぬ所業の数々に思わずふらりとよろめきましたが、コーリーがしっかりとわたしを支えてくれました。
いっそ、このまま気を失わせてください。
「無心でありんす」
「じゃあ、コーリーお願いします」
「カノンは仲間でありんす。独りにしないでくりゃれ?」
「くりゃれ?」
「い、いいでありんす!」
ぶわっと広がったしっぽをピンと立てたコーリーに手を引かれて宴会場の中心近くにおべんとうを持ち込み、広げる。
あ、今はこのから揚げの香りがわたし達の心の拠り所です。
「あー! これがから揚げね!」
「「あ」」
「んん〜〜! おいしーい!」
「あ、フェゼットてめぇ、この俺様が我慢してやったってのに何抜け駆けしてやがる!?」
「はぁ? バカじゃないのー? 美味しいものは、早い者勝ちに決まってるでしょ!?」
「ぐぎぎ……! おら、エニュハ! もういいだろう!?」
「はい、です」
「っしゃー!」
「はは、では、私共も」
「ええ、頂きましょう」
「まずは酒酒〜」
気づけば、酒臭い息を吐きながら、フェゼット様の信者の方もぞろぞろと集まってきて、わたし達は危険を感じて逃げ出しました。
ここにいたら、ダメだ!
幸い、持ちきれていないおべんとうがまだ馬車の中にありますから、あちらは生贄……いえいえ、奉納だと思って諦めましょう。
イッキ! イッキ! イッキ! イッキ!
すでに混沌と化した宴会場は車座になった中心で仁王立ちしながらワインをボトルから直接飲み干し、喝采を受けるフェゼット様と、それをやんややんやと囃し立てる信者、ご主人様を守りつつ煽られてワインのボトルに手を出すリュリュ様、アフォス様と額を突き合わせて火酒の飲み比べ対決など、もはやわたし達には近づけない空間になっています。
早過ぎないでしょうか!?
そこに、馬車が一台やって来ました。
アイリス様のものです。
ここに、これからアイリス様達が加わるのですか?
その後ろからベンド様もヘロヘロになりながら追いついてきました。
「ゼハー、ゼハー! み、みず……くれ……っ」
「只今お持ちするでありんす!」
とりあえずと髪をまとめていた手巾を広げてハタハタと扇ぎつつベンド様を休ませていると、珍しくスボンを履いたアイリス様が降りてこられました。
「ベンド、ごめんなさいね、貴方を乗せる場所がなくて」
「ほ、ホントのこと言っていいっすよ……? はぁ〜みずうまー」
「汗だくの男性と同乗するとか淑女として有り得なくて」
「デ ス ヨ ネ ー !?」
「殿方のくせに鍛え方が足りないのでは無いですか?」
「イシュカ様と比べたらみんな足りないんすよ!」
「は? 女性よりも弱い男児に発言権はありませんよ?」
「じゃあ若旦那は!?」
「いいですか? ユウト殿は女性に対して「貴女はマッチョゴリラですね!」などと言ったりしません」
「俺も言ってねぇっすけど!?」
「異訳すると似たようなものでしょう」
「理不尽っ!」
ゴリラって何でしょうか?
分かりません……が、分かりませんが、巻き添えは食らいたくありませんので、そっとベンド様から距離を取ります。
「……あれ? カノン、さん?」
「…………(に、にこっ)」
働く男性の汗とか、カッコイイですけどね。
衛生的にどうか? と言われると料理人の端くれとしては何とも言えないところです。
キッチンは熱いですから、汗はどうしても出ますし。
かと言って、汗ダラダラで料理していいかと言われると当然ながらダメですしね。
わたし、手汗凄いので、ほんとに、ほんとに、気をつけてますけど、暑期になったらまさか料理が汗臭いとか言われたりしないでしょうか!?
もしくは、皿がヌメヌメするとか!?
考えただけでお腹痛くなってきます。
大丈夫、清潔にしてます。
わたし、気をつけてるから、大丈夫。
あ、でも、気をつけてたら問題なくなるんだったら、わたし失敗しないんじゃ……?
じゃあ、気をつけててもダメなんじゃ……?
というか、気をつけてて失敗するってそれは気をつけてないんじゃ……計量だって、よく失敗するもの!
あぁ、もう目分量ってどうしたら出来るようになるんでしょうか?
わたしの経験から勘案して、この料理なら目分量はこのくらいと考えても、それが合ってるか間違ってるか、いつも不安で不安で仕方ないんですよね!?
そう、味見しても、わたしが美味しいと思う事と食べる人が美味しいと思う事は同じでいいのかとか、同じでない時は薄味にしたらいいのか濃い味にしたらいいのか、それならさっきの目分量は間違ってるんじゃないかとか。
エニュハはどうして目分量を迷わず入れられるんでしょうか?
今度聞いてみましょうか?
いやでも、仮にも屋敷の料理長はわたしですし、それなのにまだ半人前のエニュハに教えを乞うのは、失格のような、そう考えることが驕りのような───
「カノン?」
「ひゃわぁっ!」
いつの間にかご主人様が目の前にいらっしゃって、わたしを見上げていました。
その手にはおべんとうが抱えられてて、慌てて手を差し出した。
「わ、わてしが!」
「あ、いーよいーよ。気にしないで。今日はせっかく僕も作ったから、僕からって振る舞ってみたいし」
「そ、そうですか……」
「いいよねー。自分が作ったものをみんなが美味しいって食べてくれるのは」
「あ……」
そう、そうでした。
それが、嬉しいから、料理が好きなんです。
とことこと前を歩くご主人様に並んで、半分持たせてもらいます。
「あ!」
「わたしも、みんなに美味しいって言って貰いたいです」
「うん、じゃあみんなに食べてもらおうか」
「はいっ!」
お花見どこいった……
お花見編とか言いながら花も見てないし、宴会シーンとかもほぼほぼないとゆー。
ちょっとどうしてこうなったのか作者である私にも分かりませんが、花より団子だったとそういうことにしました。
後、人を木に投げつけるというぼーりょくひょーげんがありましたが、危険ですのでおやめ下さい。
人型に穴が空いたりしませんし、ぷりぷり怒る程度の被害では済みません!