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身体中から刃を出したタイニーテラーへ、シヴィルは恐れることなく飛び込んでいった。
先ほどの局長室での戦闘のようにスピードで翻弄しようと、その機械の拳を振るう。
「たしかに速いが、もうお前の動きは覚えた」
だがその放たれた弾丸のような動きを読まれ、シヴィルの胴体が斬り裂かれてしまう。
ギリギリで躱していたシヴィルだったが、そこからタイニーテラー両腕の仕込み刀が回転。
獣が唸るような機械音を立てて、シヴィルに襲い掛かって来る。
「下がれシヴィッ!」
メディスンはバヨネット·スローターを撃ちながら二人へと接近。
タイニーテラーはその弾丸をものともせずに、メディスンのほうへと攻撃を切り替える。
「バカが、お前がどうにかできるとでも思ったのかッ!? このままミンチにしてやるよッ!」
「危ない!」
だが、タイニーテラーの刃が届く前に、シヴィルがメディスンを蹴り飛ばした。
メディスンは吹き飛んだことによって、タイニーテラーの刃からなんとか逃れる。
「ごめん、班長。蹴り飛ばす以外に助ける方法がなかった」
「き、気にするな、シヴィル。むしろ感謝している」
シヴィルは吹き飛んだメディスンのもとへと後退。
メディスンは彼女の行動に礼を言うと、どうしてタイニーテラーがシヴィルのスピードに対応できたのかを予測する。
タイニーテラーの身体は全身義体。
当然その両目も機械である。
その両目には、おそらく敵の行動パターンを分析して対処できる機能が備わっているため、一度戦ったシヴィルの速度に対応できたのだと言う。
「さらに攻撃パターンも読まれているだろうな。戦えば戦うほど強くなる……。こんなもの、誰が造ったんだまったく……」
「それ、最近ネットの動画で似たようなヤツを見た」
「ネットの動画? どこの製品だ、そいつは?」
「なんか、絶対に……絶対に絶対に絶っ……~対に! 負けなあああああああいィィィ! って叫んでいる犬の顔をしたヤツ」
「……そいつはたぶん……私が知りたいヤツではなさそうだ……」
キュイィィィン! と回転する刃が鳴り、タイニーテラーが向かって来る。
メディスンはバヨネット·スローターを構えながら、シヴィルに言う。
「シヴィル、こういうときにどうすればいいかわかるか?」
「知ってる。最近ネットの動画で見た」
「またネットか……。それで、その策ってのはなんだ?」
「どんなときでも使える、たった一つだけ残った策。とっておきのヤツ」
「どんなときもだと? 一体その策というのはなんだ?」
「それは……」
シヴィルは突然メディスンを担いで、傍にいたニコの身体を小脇に抱えた。
「逃げる」
そして、階段へと駆け出した。
担がれたメディスンとニコはいきなりのことに慌てて声を漏らす。
だが、彼ら以上にタイニーテラーが驚いていた。
そして、走り出したシヴィルの姿を見て立ち尽くしていた彼だったが、その場で高笑い始めた。
「ワッハハハ! してやられたな! いやいや、案外こいつは正解かもしれん。シヴィル·エレクトロハーモニー、ますます気に入ったぁぁぁッ!」




