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低速機動エレベーターババア  作者: 猫渕珠子
first-run 封切り
15/18

▼糞みてェなDVDの冒頭映像

▼糞みてェなDVDの冒頭映像



 出だしは、ブラックアウトしているただただ真っ暗な画面だ。


 若い男性二人が会話している音声のみが聞こえる。


「……僕はやっぱり階段で降りよっかな」

「エレベーターがどうかしたか?」

「病院から帰るときのエレベーターって、危ないって言うでしょ?」

「危ない?」

「こういう話聞いたことない?」


 会話音声が途切れ、ホラーじみた仰々(ぎょうぎょう)しいSEとともに、白い文字が浮かび上がる。



      乗り込んでくるもの



 と、デカデカとした横書きの文字だ。白半紙にすみで毛筆書きしたものを、白黒反転させたような静止画だった。まるで古い映画のタイトルのような印象である。


 そして、これからが本編だ、というように映像が切り替わる。


 細い通路が映った。四方をコンクリートで固めた屋内通路だ。左右に病室が並ぶ、古い病院の入院病棟のようである。通路の突き当りにはエレベーターがあり、そこまでは十数メートルほどの距離があるように見えている。


 撮影しているカメラの位置は、通常の大人の目線より低い。小学生の頭くらいの高さだ。


 エレベーター待ちをしている男性が二人いた。出だしの会話音声は彼らのものなのだろう。おそろいの高校の夏服を着用しており、何やら言い争いもしているようだが、遠巻きのため会話声はよく聞こえない。


 ドアが開かれると、そのうちの一人はなぜか階段へと走り去り、乗り込んだのは残った一人だけだった。搭乗とうじょうした男子高校生は、かがみが据え付けられた奥壁へ歩いて行くと、カメラ側に背を向けたまま、スロープに両手をつき、辟易へきえきするように頭を垂れる。


『俺はそんな馬鹿げたオカルトなんて、これっぽちも信じてないからな』


 という、音声の挿入。エレベーターに乗った男子高校生が、心でつぶやいているモノローグのように加工されたものだ。録音状態が悪いのか、ゴソゴソとノイズが混じった音でもある。


 そのモノローグが流れた直後、カメラが動く。


 閉じ始めたエレベーターのドアに向かって、全力で走っているのだろう。画面が激しくブレる。ぐんぐん近づいていくが、左右から閉まっていく鋼鉄の扉も、まったなしでぐんぐんと入り口をせばめていく。


 ダーーーンッ!


 衝撃音とともに画面全体が暗転して、真っ暗になった。


 扉板にカメラレンズが押し付けられているのだ。


「うおッ! な、なんだァ!?」と、くぐもった男性の声。


 すこしの間をおいて、


「もしも~し、中に誰かいるんですか?」と、快活な若い女性の声。


「は、はい! い、います!」返答する裏返った男性の声。


「あっ、よかった、よかった。すみませ~ん、私も乗りたいんで、ドアの『開く』ボタンを押してくれませんか? なんかここからビクとも動かなくなっちゃって~」


 真っ暗になっていた画面に光が戻る。


 中央から左右に幕が引かれるように映像がよみがえっていく。


 まっさきに見えてきたのは、中学生ほどの少女だった。長く伸びた黒髪。微笑びしょうを浮かべる整った顔立ち。着用しているのは、ピンク地に白い水玉模様のパジャマ。


 その姿は、エレベーターの奥壁にある鏡に映り込んでいるものだ。


「ありがとうございま~す」


 と、少女がエレベーターの内部に入る。鏡に近づいたため、姿がすこし大きくなった。


 ……しかし奇妙だ。映像を撮影しているはずのカメラが見当たらない。


 ……いや、カメラは存在しているのだ。


 少女の胸元に下げられていた、黒猫の顔をあしらったポーチ。その中にマイクロカメラが仕込まれているのだろう。カメラの目線になっているのは、黒猫の瞳だった。


「指、大丈夫? はさまれなかった?」と、画面外から男性の声。


 すると画面が横に回転して、見切れていた操作パネルと男子高校生の姿を、鏡の反射映像ではなく、カメラそのものでとらえた映像にかわる。少女が体の向きを変えたのだ。


 男子高校生は、『開く』ボタンを押し続けていた。画面上方に頭部がギリギリおさまって映っている。顔は少女へ向けられているようだ。「うん。平気平気」と、少女の両手が、その彼に向かって差し出される。白白とした細い指を開いたり閉じたりして見せている。


「ていうかさ~、人が挟まれそうになったらふつう感知して自動で開いたりするよね、不親切なドアだな。古いせい? ――ねえねえ、他に誰もいないけど? ドア、閉めないの?」


「いっけね」と、ボタンから人差し指を離され、ドアが動き出す音。


「お兄さん、私の美貌びぼう見惚みとれちゃった?」


「……違うって」


 少女に向けられていた男子高校生の顔が、気まずそうに操作パネルへとそむけられる。


 と、カメラ位置が上にあがった。黒猫のポーチが持ち上げられたのだ。


「2階までお願い。コンビニまでプリンを買いに行くんだ」


 画面が小刻みに振られ、小銭がこすれる音が聞こえる。


 顔をほんのり赤らめている男子高校生が、操作パネルの『2』のボタンを押す。

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