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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第二十二海路 1 新井の目論み

 カイナ島最終防衛ライン目前に、沈む影があった。鮫島が乗り込んだダイシャーク零号機は機関を最低限まで落とし、巡行形態で待ち伏せをする。


「まだ来ない……。海賊どもと一戦交えているとみて間違いないだろう」


 自身の腕に巻かれた腕時計で時間を確認する鮫島。


「一号機、二号機は?」


「連絡はありません。作戦通り潜航しながら待機しています」


 カイナ島から見て逆三角を描くような陣形で佇むシャークフォースの三機。それぞれが巡行形態の状態のまま、潜航し待機している。

 水中にいる以上機動力はこちらの方が上である。いくら汎用性の高い最新鋭の期待だとしても、海中を専門とする海戦に勝てるわけはない。


(本部長、本当に悪い顔をしていたよなぁ。そういえば)


 この潜航待ち伏せ作戦は新井の差し金であった。


 

 時を戻すこと数時間前。


「シャークフォース、少しいいか?」


 演習の準備に向かうシャークフォースの面々を、新井が呼び止める。


「今回、演習という形で君達に声をかけたが……」


 新井が少しだけ溜める。彼は自身の眼鏡を上にあげた。光を反射しているため鮫島達はその瞬間の新井の顔を見ることは出来なかった。


「あれは嘘だ」


「ハァ?」


 以前より鮫島は、新井はどこか他の人とは違う。何かが違うと思っていた。きっと本土で生まれ育った人間はそうなのだろう。むしろ現代に取り残されたこのカイナ島の島民が、イレギュラーであるのだと思っていた。

 しかしそうわかっていても、新井の発言を理解することは不可能である。


「まあ聞け。君達シャークフォースの中には、本土から来た二人を快く思っていない者がいることは知っている」


 私を含めてな。と小さな声で自嘲気味に言い放たれたその言葉は、鮫島達の心を一気に冷え込ませた。


「待ってくれ新井さん。俺達の中に、そんな不義理な奴がいるとは思えない」


 鮫島にとっては、鬼丸とクリスタはともにこの島を守る同士に違いはない。それは以前の戦いで鮫島なりに彼らを理解したからだった。

 しかしその鮫島の言葉の後ろで、俯き続けるシャークフォースの数人。思うところがあるのだろう。


「無理をしなくてもいい。バカな島民の中には、アイツらが来たから戦争が起きるなんて言っている奴もいるらしいしな。それに何より……」


そこで新井は言葉を止め、背中を向ける。その後彼から発せられた言葉に、シャークフォースは再び困惑する。


「それに何より、生意気なアイツらが私は気に食わん。天才だか何だか知らないが、もう少し上司に対しての身のふるまい、立場、置かれている状況その他もろもろわからせる必要がある」


「ハァ!」


「大体さも死闘を繰り広げたような顔をして帰ってくるが、ログを見返せば自業自得もいい所だ! 船酔いや羞恥、自身のスペックを把握していない等言語同断!」


 新井の背中は時折大きく揺れる。その口の速さと言葉の圧。そして尽きない怒り。どれをとってもマシンガンと言っていいだろう。


「ま、マシンガン新井……」


 鮫島の後ろで青い顔をしていた隊員がぽつりと呟く。


「大体あの機体あっての……何か言ったか?」


 背中越しに振り向く新井。首から不快な金属音が、鮫島には聞こえるようであった。


「い、いえなんでも……」


 すぐさまその隊員は新井の背後に隠れた。


「すまない。少し熱くなり過ぎたようだ。ともかく、私としても彼らを追いつめて欲しい」


 咳払いをし、意識的に冷静さを取り戻した新井が告げる。


「でもよ~、アイツらメッチャ強いじゃん。しかも最新鋭なんだろ、あのなんたらって陸戦。勝てるのか?」


 先ほどとは別の隊員が質問をする。新井は新井達に視線で促し、円陣を組む形で机を囲む。


「これが現在八型改が使用可能な兵器だ。奴らは飛行能力に過信し、空中から奇襲をかけるだろう。そこで君達シャークフォースには、海中からの攻撃を行ってもらいたい。この兵器なら奴らも、海中では効果的に戦えないだろう」


「ソウ! そうしたら最後!」


 鮫島は背後に気配を感じ取り、後ろを振り向く。そこには鼻の高い男性、トマスが立っていた。


「きっと彼らはあの機体は自分たちには扱えないと降りることに違いありまセーン」


 その後シャークフォースは、新井とトマスから、八型改の詳しい説明、そして海中奇襲の説明を受けた。


「別に彼らにあの機体を降りて欲しいワケではない。私はただ、立場を今一度はっきりさせておきたいだけなのだよ、トマス博士?」


 終盤、加熱したトマスを新井がなだめた時には、言葉に出来ない恐怖が部屋の中に蔓延した。



 そして現在。新井たちは件の最新鋭陸戦、ヴリュンヒルド八型改を待ちわびている。勝利条件が防衛ラインへの到達である以上、彼らがここを通るほかはない。事前の決まりで、八型改の到達ポイント範囲は狭く指定してあった。


(これも新井さんの差し金なのか?)


 鮫島はそんなことを思いながら、先程と変わらないソナー画面に目をやる。


これからも、応援よろしくお願いします。

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