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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第十八海路 2 類は友を呼ぶ

「放せ。俺が一体なにをしたってんだ」


 新井の前で身動きを奪われた少年、黛ユナは正座をさせられながら声を上げる。


「あくまでしらを切るつもりか。全く、自身の状況がわかっていないようだな」


 新井は眼鏡の位置を直し、太陽の熱を帯びた港にしゃがみユナの顔を覗き込む。その顔は体同様幼さが残っていた。


「しらなんて切ってねえ。さっきも言った通りだ」


「本部長、彼は?」


 港に到着したクリスタは、その様子をうかがっていた。


「先ほど沖合に着水した不審人物だ。警戒中の鮫島によると突如として空から降ってきたそうだ」


 警戒任務中の鮫島の前に突如降ってきたユナ。着水の衝撃で意識を失った所を保護されたが、目が覚めた時に放った一言により拘束をされた。


「さっきも言った通り、所属は日本海軍電子空戦科。三等海将の黛ユナだ。これは不当な拘束だぞ!」


 その少年は噛みつくような勢いで声を荒げる。


「冗談も休み休み言え。貴様のようなガキが正規軍人な訳があるか。そもそも電子空戦科など聞いたことが無いぞ!」


 はじめは穏やかな、もとい呆れた口調で語り掛けていたが、次第にそれはヒートアップし、怒りを帯び始めた。


「それは電子空戦科が俺一人だったからとか秘匿されてたからとか色々あんだよ! 自分の物差しだけで判断するなよオッサン!」


「私は二十五だ!」


 二人の口論はより激しくなる。それを見ていることしか出来ないクリスタの後ろで、コルセアがアルタ達に指示を出し、シャークフォースとともに周囲に海上包囲網を敷いていた。


「兄さん……キル、疲れた……」


 一触即発なその空気を知らない二人がクリスタの背後からやってきた。


「ほら、帰ったらアイス食わしてやるから我慢しろ」


 そこには力無くうなだれるキルとそれを背中に背負っている鬼丸の姿があった。


「鬼丸紅蓮、鬼丸キル。到着しました。すいません本部長。キルが暑さにやられたみたいで」


 よくよく見るとキルは所々解けるような勢いで力が抜けている。


「熱い……」


「だったら少し離れたらどうなの?」


 クリスタのその一言で、真顔になる鬼丸兄妹。顔を見合わせた二人はその後、右手を受け皿に左握り拳を叩き、目を見開く。


「今アンタ達、『クリスタ頭いいな』とか思ってないでしょうね?」


 呆れた口調で聞いたクリスタに対し、鬼丸はわざとらしく笑い飛ばす。


「自惚れるなエリート様。いまのは『そういえばそうだったな』だ!」


 鬼丸の背中から降りたキルも首を激しく縦に振る。


「やっぱアンタ達バカだわ」


―――


「んで、この子供が不審者なのか?」


「ああそうだ。おまけに虚言癖の疑いもある。気をつけろ」


 鬼丸はユナの前に歩み寄り、その顔を覗き込む。

 その鬼丸に対しユナは、敵意をこれでもかとむき出している。


「……海軍所属って話は嘘じゃないみたいですよ、彼」


 鬼丸は振り返り、煙草に火をつけている新井に説明する。


「これって第一種平常服ですよ。手作りだったらアレですが、市販はされていないので一般人が入手するのはまず無理かと」


「成程な」


 新井はうなずき、白煙をたなびかせた。


「それと……」


 鬼丸は目つきを鋭くし、新井に詰め寄る。


「キルの前で煙草とか吸わないでください副流煙とかヤバいんですよわかっているんですか」


 鬼丸は陸戦について語るクリスタのような早口でまくし立てる。するとポケットの中の通信端末が突如鳴る。

 バツが悪そうな顔をしたまま新井は視線で促し、携帯灰皿で煙草の火を消す。それを確認した鬼丸は、携帯端末を耳に当てた。


「もしもし、八型改か?」


 その声は少し怒りを蓄えていたが、一部始終を知っている彼女はさほど驚かない。


「それって本当にキルちゃんだけのためですか?」


 単刀直入一刀両断。抜き身の言葉の刀が鬼丸を襲う。


「……」


「もしかして図星でしたか? わかりやすすぎですよ鬼丸君! なんでそんなに可愛いんですか?」


「切るぞ」


 先ほどよりはっきりと怒りを込めた声に、八型改は慌てる。


「ごめんなさい調子乗りました話は別にあるんです切らないでください」


「で、何だ」


 先ほどの一件で警戒を強めた鬼丸は、クリスタの位置を確認する。彼女は桟橋に足を掛け、隣でヒトデを突っついているキルを不思議そうに眺めている。


(聞かれていない、か)


 安心した鬼丸は八型改に話をさせる。


「ちょっと気になって調べたんです。彼の発言。空母赤城というのは日本海軍の保有する空中母艦のようです。ただ電子空戦科という記録はなく……」


「それなら心配いらない。俺に考えがある」


 そう言うと鬼丸は耳から端末を離し、ユナの元へと向かう。


「お前はペンギンか?」


 その一言で、ユナはより一層怒りに顔を染める。ペンギンとは一般的にパイロット以外の空軍兵士を指すものである。稀に空中母艦でもこの用語は使われる。

 厄介なのがこの用語、パイロットもペンギンもそれぞれプライドが高すぎるためしばしば侮辱として使われる。


「お前、俺をバカにしているのか? ああそうだ。俺はしょせんペンギンだよ! 文句あるかこのメッシュ野郎」


 メッシュ野郎という罵倒に心当たりがあるはずの鬼丸であったが、クリスタの時報が止んだため忘れていた。そしてその鬼丸は何かを考えた後、いくつか質問を続けた。ユナは不満そうに一つずつその質問に答えていく。しかし意外にもその顔は次第に晴れやかなものとなり、尋問は順調に進んだ。


「……やってることは海軍電子戦科とそう変わんないんだな。ジャミングやらクラッキングやらハッキングやら。場所が水上艦か空母かの違いってだけみたいだ」


「ならそうと先に言いたまえ」


 新井は眼鏡を拭きながらユナにぼやく。


「言ってもオッサン信じないだろ」


「貴様ァ」


 ユナはそんな新井を無視し、鬼丸に好意的な視線を送る。


「ところでお兄さん、話が分かるじゃん」


 先ほど尋問の最中に、なぜか二人は意気投合していた。

 現役軍人のユナと、民間軍事企業ヴァルハラの若きエース鬼丸。お互い思うところがあるようで、鬼丸の発言にユナが大きく頷き、ユナの愚痴に鬼丸が大笑いをする奇妙なキャッチボールが続いた。


「いやお前こそ! 民官の違いはあれど、通ずるものはあるんだな」


 そこに、キルの面倒を一通り見終えたクリスタが戻ってきた。そして熱く語り合う二人の姿を見て一言。


「類友って、知ってる?」


ここまで読んでくださりありがとうございました。この作品が面白ければ、高評価や感想、レビューなんかをお願いします。ファンアートも随時募集中です。

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