第三十八空路 4 出撃
目に映る全てが、圧巻だった。陸戦の集団戦を見たのが久しぶりだったということもあるが、このワイルドハントから発艦するあまりにも小さな陸戦も、それを撃ち落とそうとする陸戦も、まるで見たことがない機体であった。そしてその全てが、もれなく飛行能力を有していた。
鬼丸とクリスタは、オーマの言葉を理解した。今の自分たちに、出る幕はないのだと。
「あの、敵と思われる機体は」
「なんか、天使みたいだな……それに両方真っ白。目が眩む」
そう零した二人に、オーマが口を開く。
「ユートピア。あの機体に殺されたパイロットが皆、最後にこう残したことから我々はそう呼んでいる」
ユートピア。白光するボディに翼が生えており、そこから見えるジェットの勢いは、人知の域を超えていた。
「あれだけのエネルギー、一体どうやって」
「いくら無人だからって、ある程度の装甲を確保しようとするなら相応の重さが発生するはず」
陸戦が基本的に空を飛べない理由は、そこにある。既存の科学や物理学では、陸戦を飛ばすことは出来ても、そのまま戦闘に移れるほど安定したエネルギーを供給し続けることは不可能に近い。そんな不安定な機能にリソースを割くくらいなら、地上戦に特化させた方が有益であるからだ。制空権はジェットにでもとらせればいい。とられたのなら陸戦で叩き落とせばいい。そんな技術者の怠慢が、ここには存在しない。
「てか、この戦場に一体何機の陸戦があるんだ?」
画面占有率は、ヴァルハラ側の機体とユートピアが三対七と言った所。そしてその比率は、ユートピア側に傾きつつある。ユートピアの名前を認識した後から黙り込んでいるクリスタは、眉毛一つ動かさないで画面を凝視する。
「……お味方劣勢ですね。何なら手伝いましょうか?」
「これくらいで劣勢と判断するか。地上の人間は随分余裕のない戦いを強いられていたのだな」
「まさか。エコなだけですよ」
ユートピアの機体が真っ赤に染まっていく様を見せられた上の沈黙に耐えかねた鬼丸は、普段クリスタがしているような皮肉を言ってみたが、あっさり返されてしまった。
返答からにじみ出る、人を人と思わない発言。そしてこの状況になれている落ち着き具合。大局を見据えた言動と捉えれば、戦場において優れた指揮官と評価されるだろう。
「こんだけ消耗しながらも、余裕綽々。勝算があっての事でしょう。下手に噛みつかないほうがいいわよ。狂犬病を移すといけないし」
「口を開いたと思ったら人を野良犬扱いかよ」
「銃口が自分たちに向いている中でその言動をする君達も、私は大概だと思うのだがね。ところで新井君は黙り込んで、一体何をしているのかね?」
『この状況、貴方方は下手に手出ししない限りは彼らを殺さない。かと言って交渉の余地もないと見ただけです。間違っていますか』
「……賢い犬も居たものだ。君の言う通り、今はここに居てくれるだけでいい。リラックスしてくれ。そろそろ、面白いものが見れるだろう」
そう言いつつも、オーマは彼らの背後にいる乗組員に銃を降ろす指示は出さない。その様子に内心舌打ちをした鬼丸であったが、自分の行動一つで、クリスタ含めた仲間達が危険な目にあうことを思い出し、その感情を押し殺した。
『我ら七ツ、出撃準備完了した』
画面から、聞いたことのない声が聞こえてくる。気付くと、画面は先ほどのコックピット内に戻っており、色とりどりの陸戦が関節を動かし、出撃前の最終確認を行っていた。
「見ろ、彼らこそこのワイルドハントが誇る精鋭。その名を七将、チェック・メイツ」
そう告げるとオーマは立ち上がり、胸元のポケットからインカムを取り出し、装着した。
「チェック・メイツ、出撃。ゲーム開始だ」
チェック・メイツ。そう呼ばれた五機の精鋭は、一瞬にして戦況をひっくり返した。一見バラバラに動いているように見えるが、驚くほどに行動の全てがかみ合っている。まるで、意識でも共有しているような。
彼らが戦場に現れてから、それまで戦っていた小さな陸戦達はゆっくりと後退し、ワイルドハントや周囲に待機していた随伴艦へと格納されていく。
戦場となった空域に残ったのは、数百の数のユートピアとワイルドハント艦隊、そしてそれを護衛する、チェック・メイツの面々。しかしその様子は護衛というよりも狩りに近く、撃ち落とされたユートピアがワイルドハントへなだれ込む。
その姿、正に一騎当千。
「……」
「わかって頂けたかな? これが、我らワイルドハントの力だ」
立ち上がり、その部屋を後にしたオーマは、
「彼らを艦内房へ連れて行け」
と言い残し消えた。鬼丸が噛みつく隙さえ見せないほど、あっさりと。
ーーー
「暇、寒い、眠い、お腹空いた」
「我慢しなってキル。すっぽんぽんにされなかっただけマシさ」
「すまん紅蓮。奴ら従わなければ殺すとか言ってきて」
鬼丸達がガラス張りの監禁室へと連れて行かれると、そこには先客が居た。二つの部屋にそれぞれ、キルとコルセア、大将と隼人が収容されている。
「ほら、お前たちも早く入れ」
銃口を背中に押し当て、空の部屋へ入室を促す職員に、二人は怪訝そうな顔で告げる。
「「部屋替え(チェンジ)希望で」」




