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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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祭りの後にはサイレンが響かない

「少しは寝たらどうだ」


 新井は、目を閉じたままの鬼丸に付きっ切りとなっているクリスタに声をかける。向かい側では鬼丸の手を握り、キルが寝ている。


「寝ている間に手を離したら、このバカが迷子になりますから」


 そうかと呟き、新井は窓の外へと目をやる。その窓から、新井は様々なものと見てきた。白波が立つカイナの海。今は戻ることの出来ない本土。そして赤と青の髪に挟まれた空、八型を名乗る巨大な七型のような何か。

 そして今は、大きな脅威を退けた島民たちによって、盛大な祭りが開かれている。


「呑気なものだな、相変わらず」


 その祭りは三日三晩続き、島の平和と団結を祝った。つまり鬼丸は、もう三日も目を覚ましていないのである。

 新井にはああいったが、クリスタも就寝はしている。ただそれはキルが目を覚ましている昼間の間であり、自身の手が鬼丸から離れないように彼女に監視を頼んでいる。


「また後で、食事を持ってくる」


 そう言うと新井は、部屋を後にした。その物音に反応し、キルが体を起こす。その髪は一瞬にして赤く染まったため、彼女がキルではなくヘルであることを、クリスタは理解した。


「ダメだ。まだ奴の所のようだ」


「そう……」


 ヘルから視線を逸らし、哀愁の目で鬼丸の髪を見る。あの時、敵の一斉攻撃を捌き切った鬼丸の髪の毛が、ヘルのように赤かったことを、クリスタははっきりと見ていた。


「そろそろ無理があるんじゃないの?」


「知らないものは知らない。正確に言えば、回路への損傷で想起が出来ないと言った所だが」


 ジャックマークⅡに一人飛び乗った鬼丸は、その回路の破壊を試みた。いつも通り、数時間立てば目を覚ますだろうと思っていた一同だが、彼は一向に目を覚まさなかった。

 すぐさま彼女はヘルに問い詰めたが、あの返答以外、彼女は返さない。


「……流石に無理があるな。そうだ」


 そう呟くと、ヘルはおもむろに立ち上がる。そうして鬼丸の体に身を乗り出し、クリスタへ顔を近づける。


「赤毛よ。罪を抱いて未来を変えることを、望むか? 潔白のまま真実に飲まれるのを望むか?」


「何が言いたいの?」


 力強くヘルを睨み返す。


「兄上は、即答だったぞ」


 そう言い、右手でクリスタの前髪をかき上げると、自身の額を彼女のそれと合わせる。瞬間、クリスタの頭に激痛が走る。


「グッ……」


 顔を歪めた彼女にはそれが、電気的な何かに感じられた。直後、彼女の脳裏に不思議な光景が映し出される。


「耐えてくれよ、赤毛」


 その風景は、地獄と言って差し支えないだろう。人々が逃げ惑い、八型改のように空中を縦横無尽に移動する陸戦が、彼らを追い回し……。


「これは……記憶? 違う、アタシはこんな風景見たこと無い」


「導き出された真実。未来。筋書き通りのシナリオ」


 その未来の中での彼女の隣には、自身を仇のように睨む鬼丸。背後には、一切傷のついていない、まっさらなヴリュンヒルド八型改があった。


「ッ……」


「どうした? 未来に臆したか? それともそれを受け入れるのか」


 ヘルは、彼女に右手を差し出した。


「その未来を選択すれば、貴様が手を握らなくとも兄上は助かる。向こう五十年、彼が死ぬこともないだろう。我が安全な未来を約束しよう」


 彼女の手を取るためには、鬼丸の手を握っている左手を離さなくてはならない。ヘルの手を凝視していたクリスタは、決断をする。




「う……ッ」


 鬼丸は、自身の額に冷たい何かが垂らされていることに気付き、目を覚ます。目の前には、天井から吊るされた穴の開いたペットボトル。定期的に水滴が垂れる仕組みだ。


「ここは……」


 鬼丸は、自身の右を見る。そこにはやはり、クリスタがいた。


「……今回はどれだけ寝てたか?」


「三日。あと少しで四日よ」


「そうか。助かる」


「別に。暇だったから」


 互いに視線を逸らす。


「……もう手を離しても、大丈夫だと思う……」


「そ、そう、ね」


 ぎこちなく、互いに手を離す。直後、クリスタは再び彼の手をとる。


「ちょ、お前」


「ねえ鬼丸? アタシ達、凄い所まで来ちゃったわよね」


 始めは困惑した鬼丸だが、目を瞑り苦笑する。


「地獄だなんだ言ってた本部が、まだマシに思えるとはな」


 クリスタも目を瞑る。


「朝起きて、作業して、警報が鳴ったらアンタの顔見ながら陸戦と戦って……やってることは変わらないのに、場所が変わるだけでこうも変わるとは思ってもなかったわ」


 いつもは、言葉の影に皮肉や嫌味を隠す彼女も、祭囃子につられたのか、それらを今日は休業させる。


「爆発して、人が死んで、八型が喋り出してここまで飛んできて……」


「空から人が降って来て、アンタの妹名乗りだして、また人が降って来て。理解が追い付かないわ」


「正直、俺も流されている感が強い。考えたら負けだ」


「否定できない辺り、アタシも相当ね」


「かもな」


 視界に光を入れる鬼丸。その光は、クリスタの顔に反射された夕日であった。


「外が騒がしいな」


 鬼丸は立ち上がり、窓の外を見る。クリスタも、合わせて立ち上がり彼の隣に移動する。窓の外では、陽気な音色につられて飲めや騒げやの大騒ぎ。


「祭りか……なあクリスタ」


 何かを思った鬼丸は横を向き、クリスタに声をかける。


「散歩、しないか?」


―――


「その未来を選択すれば、貴様が手を握らなくとも兄上は助かる。向こう五十年、彼が死ぬこともないだろう。我が安全な未来を約束しよう」


 クリスタは、自身の手をヘルの右手に伸ばした。そしてそれを握り、人差し指と中指を突き出した。

 彼女が出した手は、右手だった。睨むような視線をヘルに送りながら、強めの口調で宣言する。


「天才を、舐めないでもらえるかしら。もしアタシが選ぶ未来が罪だと言うのなら、法律から何まで正規の手続きでひっくり返すだけ。それに……」


 一呼吸し、ヘルの顔を見せる。丁度彼女の顔は影に隠れ、表情ははっきりとしない。

 クリスタは、いつものように挑発的な笑みを浮かべながら、自身の髪をなびかせる。


「鬼丸がアタシと並ぶ未来なんて来ないわよ。コイツがどれだけ成長しようが、アタシがそれを上回る。当たり前でしょ」



「と、言う訳なのだよ隻眼。強めのアルコールを頼む」


「へ~。クリスタがそんなことをね~。兄貴に振られ、挙句正妻に釘刺されたとは言えガキに出せるのはミルクだけだよ」


 机に突っ伏し、嘘なきをするヘルに、同じく机に突っ伏し酒臭い息をばらまくコルセア。

 数時間後。此度の英雄的青年、鬼丸紅蓮の目覚めをきっかけに、祭りは更なる狂乱に包まれた。

 現在港に横づけされたパイレーツスパイトではちょっとしたバルが経営されており、島民たちは海賊が給仕を行う珍しさにつられ、次々と注文を飛ばす。


「アルタ、酒足りねぇぞ! さっさと用意しろ!」

「アルタ~。ハルカスのおっちゃんが倒れた!」

「てめぇらも手ぇ動かせよ! 船長命令だぞ!」


 ミナ島では、ジャックマークⅡの沈黙と共に活動を停止した陸戦が次々と水揚げされる。


「ああ、勿体ないデス。バラシてしまうなんて」


「仕方ねぇだろ新井の旦那の指示なんだから。やるぞ隼人!」


「合点」


 一々回路を破壊していたのでは鬼丸の体に負担が大きすぎると判断した新井は、彼らが一切動かないことを利用し、ばらして機体そのものをなくしてしまえという指示を出した。

 ばらされた陸戦の一部は、ダイシャークに牽引され日之出島の格納庫へと運ばれた。


「鮫島さん! 搬入終わりました。次行ってきます」


「ああ頼む……二号機はそっちだ!」


 新井が作った帳簿を睨みながら、鮫島は指示を出す。彼の後ろから、隊員の一人が質問をする。


「所で、ヴァルキリア・シャークとは一体、何だったのでしょうか……」


 彼は振り返り、両掌を表にする。


「俺にもさっぱり」


 日の入り島の温泉では、黛小隊総出で入浴をしている。


「おうユナ! お前意外と甘えん坊だな」

「どこまで行ってもガキはガキなんだよ」

「どうだ? パパって呼んでもいいんだぜ?」


 一同が大笑いすると、露わになったその筋肉たちも伸縮を繰り返し、湯に荒波を立てる。


「嫌、嫌ッス! 圧が凄いッス! 助けて、紅蓮さーん」

「こらこらダメだぞユナ。肩まで使って一那由他まで数えなきゃ」


 キノ島では、畑の中を子供たちが駆け巡る。その中には、マリンと相助の姿もあった。


「ばあちゃん、行ってきます! 行こう、マリンちゃん」


「うん!」


「おうおう。楽しんで来いよ~」


 マリンの手を引き、婆やに手を振る相助。マリンは笑顔で答え、婆やも珍しく、まじりっけのない笑顔を見せた。


 そして中心、カイナ島中央広場では……。


「そこでバーン! ウチが颯爽と立ち上がり、その姿に鬼丸クンも涙を流したというもんですよ」


「八型の姉ちゃんスゲー! 鬼丸よりも強いじゃん!」

「彼女はワシらの女神さまじゃ。ありがたやありがたや」


 島に降り立った八型改。彼女の周りには大勢の島民が集まり、それに気を良くした彼女が鬼丸達との出会いや、ここに来てからのあることないことを、止まることなく話し続けている。

 彼女の足元に、手をブンブンと振りながら、興奮隠しきれない少年がやってくる。彼らの英雄譚を聞いて、テンションが上がったのだろう。


「なあ、今鬼丸ってどうしてるんだ? 俺も「往生しやがれ」って言われたい!」


「あ~、今頃彼は……」


「ワシも、あの少年には感謝したいなぁ」

「私も!」

「僕も!」


 羨望の眼差しを向けられた八型改は飛び上がり、


「た、多分日の入島の温泉で、疲れをとってると思いますよ。さあ行きましょう!」

「走れ~! 八型の姉ちゃんに続けー」


 老若男女を引き連れ、ドタバタとした一団がその場を去る。しかし、彼らの向かう先に、二人はいない。

 彼らが居たすぐ近くの桟橋に肩を並べて、足を垂らす二人の男女の影。彼らの影は重なることはないが、片方が消えるまで、もう片方もそこにあり続けた。

 やがて月が顔を出し、その影は闇に解けた。

 全てが終わったわけではない。まだまだ彼らに災難は降りかかるであろう。しかし、今は、今だけは、星空を見上げる二人の世界に、サイレンは響かない。


これにて長く続いた海上編も完結です! まだまだ作品は終わりませんが、ここで一区切りということで。次章も現在鋭意制作中ですが、進行状況によっては少しのお休みを頂くかもしれません。詳しい日程など決まりましたらTwitterの方で告知致します。

最後に、ここまで読んでくださりありがとうございました!

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