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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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最終海域 1 海上神秘

「凄い、凄い凄い凄いです! 続々と小型船が集まってきます!」


「ヴァルハラの。ここはワシらに任せてあの親玉を!」


 ヴリュンヒルド八型改は、波を立てながら敵陣へと単騎で突撃をする。数で圧倒している今、八型改を挟み撃ちにする為に陸戦を背後に回らせた所で、それは小型船たちの餌食になるだけであった。


「動きが止まればこっちのモンだ! ちっちゃい奴らはこっちでバラすぞ!」


 アンカーを集中させ、敵の陸戦の動きを封じる。その間に他の船が接近し、ガスバーナーやカナヅチなどを使い敵陸戦を解体。数が命のダーヴィンなどは、この戦術を我が物とした度胸自慢の島民たちによって次々破壊される。


「弾幕、弾幕だ! 最後の祭りだ。てめぇの玉でも何でもぶち込め!」


 ジャックマークⅡとの間に入り、自分の体で八型改を足止めしようとする大型陸戦達は、初めは綺麗な陣形で守りを固めていた。しかしアルタ達の必死の砲撃によってその守りに穴が空き始めた。


「よくやったアルタ! さあ、突っ込むよ!」


「……ちょっと待って!」


 不必要な戦闘を、可能な限り避けることに成功した八型改。しかし、それらも全てがゴッドアップルの罠であったことに気付く。

 周囲は呂布、コハク、アレッサンドロに包囲されていた。単騎突撃に警戒していたゴッドアップルは、自身の周りに手駒を伏せていたのだ。


「戦の天才とか言ったな鬼丸。これくらいの罠すら見抜けないとは、笑止!」


 ジャックマークⅡの前に立ったアレッサンドロを飛び越えながら、八型改へ向けて鎌を振るう。


「上昇回避! この程度の罠、警戒する必要がなかったのよ!」


 急上昇を行い、攻撃を躱す八型改。


「また急上昇回避か。芸のない!」


 しかしゴッドアップルはすぐさま飛び上がり、八型改に追いすがる。敵がこちらと同等の機動力を持つ以上、躱す事は難しく、八型改の腕部は鎌の一撃を防ぐたびに傷が付く。しかしそれら全ては幸いなことに、致命傷とまでは至らない。


「でもこれじゃあ……」


「反撃の機会が狙えねぇ! 巻き添え覚悟で誘導弾行くか⁉」


「これ以上のダメージはキツイ! ナシの方向で」


「好奇! 貴様ら、一斉攻撃だ!」


「不味い、引くぞクリスタ!」


 ジャックマークⅡが目を赤く光らせる。直後、島中の敵陸戦達は目の前の戦いを放棄しジャックマークⅡの援護へと向かう。

 飛び道具があるものたちはそれらを使い、無いものたちは彼らの護衛へと回るため、島民たちからの援護も効果が薄くなっている。


「邪魔だ! オイデカブツ、俺達と勝負しやがれ!!」


「アルタ、何鉄に向かって話しかけてるんだよ!」


「今!」


 ゴッドアップルは、一斉攻撃の命令と共に、自らも八型改へと襲い掛かる。


「全方向から! 防御も回避も間に合いません! 皆さん対ショック防御!」


 対ショック姿勢をとるものが、この機体に乗っていないことを知りながらも、八型改は可能な限りの警告を行う。いくら計算をし直しても、これだけの銃弾とワイヤー、そしてアレッサンドロが投げる大盾を防ぐ手段は、見つからなかった。


「ッ!」


 その瞬間、クリスタが操縦桿を手放した。機体全体の姿勢制御を行っていた彼女だが、目の前に迫る無数の死の恐怖に、臆してしまった。

 ヴァルハラ本部にいた頃も、そしてカイナ島に来てからも、彼女はここまでの危機に出合ったことが無かった。事前に手を打ち、危機的状況にそもそも遭遇しない。それがクリスタ・リヒテンシュタインであり、彼女が遭遇する対処不能な危機的状況とは、今現在と、演習時の鬼丸のみであった。

 すぐに理性が彼女の体を支配し直し、操縦桿を握りなおそうとした。しかし理性とは裏腹に筋肉は硬直し、体が動かない。

 しかしどのみち関係のないこと。既に、死はそこまで迫っているのだから。コルセアがクリスタの代わりにバランスを保とうが、ヘルがどれだけ上昇しようが、それすらも追い越して、死がやってくる。


「来るなら来やがれブリキ野郎共! 全部叩き落してやる!」


 一斉攻撃から逃げながらも、鬼丸は誘導弾を乱射する。しかし当てずっぽうもいい所。攻撃を撃ち落とすことすらせず、それらは海中へと沈んでいく。

(畜生、畜生畜生! 俺は天才なんだ。クリスタが動けない今、俺がコイツを守らなきゃならねぇ。だけど……)


『俺を……使え……』


 鬼丸が覚悟を決め、自分以外の全員を突き飛ばす算段を練り始めようとした瞬間、脳裏に言葉が響く。

 次の瞬間、自身の時間がとてもゆっくりと流れている感覚に襲われた鬼丸は、再びその声を聞く。


『俺を……俺を使え! 鬼丸紅蓮!!』


 その声の主が、この戦争の被害者だと気付いた瞬間、彼の青い髪は真っ赤に燃え上がる。鬼丸は瞬時に立ち上がると、狼のような唸り声をあげながら硬直したクリスタの席に、無理やり座る。


「ちょ、いきなり……」


「ウウウウ……」


 クリスタの肩を抱き、一言。


「ア、アキラメル、ナ! マモル」


 直後、飛び移るように自身の操縦席に戻った鬼丸に、面を喰らい、一瞬停止せざるを得なかったクリスタだが、すぐに意識を復活させる。脳裏に彼の言葉が蘇った時、彼女は自然と操縦桿を握れていた。


「ダメです! 一斉射、来ます!」


「アレ、ウバウ! オレタチノ、タテ!」


 再び唸り声をあげた鬼丸だったが、それらは八型改の警報にかき消され、一番離れているコルセアには届いていない。

 彼の視線の先には、攻撃の密集地帯で先陣を切る、アレッサンドロの堅牢な盾。


「……わかった。任せなさい! 酒田、ちょっと足貰うわよ。休んでて!」


 コルセアから操縦権を即座に奪ったクリスタは、機体を前のめりにさせ、盾へと手を伸ばす。

 

「届けッ、届きなさい!」


 クリスタの叫びは事を成し、八型改の右手には、真っ黒なアレッサンドロの盾が握られていた。


「イマ!」


 鬼丸の咆哮と共に、アレッサンドロの盾は敵の矢面へとその顔を晒す。コハクのガトリング、呂布の投げられた槍、そしてアレッサンドロの盾を一手に引きうけたそれは、八型改が致命傷を負う未来から、彼らを守り切った。


「何ッ!」


「各部損傷でも生きてます! バンザーイ!」


 攻撃手段を失った海上のアレッサンドロと呂布は、コハクの護衛に回り、そのコハクはガトリング砲のリロードを一斉に行う。


「突っ込むわよ。捕まって!」


『引け! 来るぞ相棒!』


「ダメ、クリスタ!」


 その期を逃さんと、ジャックマークⅡへ接近するクリスタ。しかし、別人のような髪色と口調をし、脳裏に響く声に従い行動をする鬼丸に、噛みつかれる。


「痛ッ、何すんのよアンタ!」


 その直後、目の前にはコハクのガトリング砲の弾が、一斉に降り注ぐ。もしあのまま接近をしていれば、今頃この機体はハチの巣であっただろう。


「……今のって……コハクのリロード偽装!」


 極限状態とは言え、一度見た攻撃、特に騙しの技に引っかかりそうになった自分を責める暇もなく、背筋が凍る。あそこでアイツが噛みついていなければ、操縦桿を倒しっぱなしにしていれば……。


「ヨ、ヨカッタ。マモレタ、オレタチニモ。ミンナ、アリガト……」


 鬼丸は、その一言を残しその場に倒れこむ。


「ちょ、ちょっと鬼丸……鬼丸?」


「まさか、兄上、今のは……」


 ヘルの歓喜に近い呟きは、クリスタの悲鳴にかき消された。しかし彼女は操縦桿を離さない、離せない。


「目醒ましなさいバカ!」


 操縦桿に手をかけたまま体を使い、クリスタが頭突きを行う。


「痛! ……ヤバい寝てたすまんクリスタ!」


 即座に操縦桿を握りなおした鬼丸に安心したクリスタは、足の権限を、親指をあげて回復をアピールするコルセアへと戻す。

 攻撃を認識し、その軌道を先読みし防御を行う。本部で散々行ってきたこの行動だが、両腕を一人で担っている鬼丸にとってそれは、とても大きな負担であった。


「ッ、右腕貰うわ!」


 強制的に右腕の操作を奪ったクリスタ。彼女の目に映る鬼丸の目と鼻からは、先程の反動だろうか、出血が確認出来た。


「フ、甘い!」


 ジャックマークⅡが伸ばした鎌の柄に、八型改の右わき腹が捉えられた。


「チッ、流石に単騎は無謀か?」


 ヘルはあえて衝撃が加わる方に機体を倒し、吹き飛ばされることで機体自体への衝撃を軽減する。


「フ、驚かせやがって。先ほどよりも動きに統一性がないぞ。どうした⁉ もっと私を、楽しませろ!!」


 右腕をクリスタが担ったことにより、両腕の連合防御が取りづらくなっており、ジャックマークⅡはここぞとばかりに猛攻を仕掛けてくる。


「オイクリスタ! 声出して行くぞ! 俺に合わせろ!」


「わ、わかった!」


 急に大声で語り掛けられ、驚き体を跳ね上がらせたクリスタだったが、すぐにその提案に同意した。


「十時、三時、五時六時!」


 攻撃方向を認識した鬼丸が、腕を操作しながら声をあげる。人間離れした速度でそれに合わせるクリスタのそれは、もはや未来予知の領域と言ってよいレベルの反応速度であった。


「ク、先程よりも……精度が上がっただと! 一体何が!」


 上段受け、諸手受け、下段払いに中段払い。接近戦に特化したAチームで培ったクリスタのマニュアル通りの陸戦武術と、鬼丸が数多の敗北で培ってきた直感的判断力。危機的状況にて融合を果たしたそれらは、八型改という陸戦の戦闘力を指数関数的に増加させていった。

 先ほどまで刃をギリギリで止める事が精いっぱいだった八型改は、装甲の厚い部分で受け止めるように先回りしたり、柄の部分で止めるなどを行い、機体へのダメージを減らしていく。


「邪魔だ! こんなもの!!」


 距離を詰められ、自身の大振りの獲物が邪魔になったゴッドアップルは、それを海中に向け放り投げる。それは奇跡的に真下にいた焔三式に刺さり、機体を真っ二つにした。


「武器を捨てるとはずいぶん余裕だな! ダンスでもどうだ!」


 自らを奮い立たせるように、相手を挑発してみせるコルセアの顔は、限界を超えていた。足元には血の水たまりが出来ているが、彼女は一切の弱音を吐かない。

 ジャックマークⅡが繰り出した右正拳突きを、腕受けでガードするクリスタは、違和感を覚えた。

(今の……行けるかも)

「鬼丸、アンタの判断でちょっかい出していいわよ! 合わせる」


「何だと? ずいぶん舐めた事言ってくれるじゃねぇか。ついてこれるのか?」


 視線は相変わらず交わさない。これまで数々の死地を乗り越えた二人に、そんなものはもう必要なかった。


「天才よ、アタシ。アンタと同じね!」


 その瞬間、ジャックマークⅡが放った鋭いアッパーを下段払いで払いのけた八型改は、この空中戦が始まって初めて、反撃の一手を加えた。


「な……なんだと」


 見事なまでにまっすぐ放たれた右中段突きは、ジャックマークⅡの細く芸術的な腹部を大きく凹ませた。

 この時、ジャックマークⅡの時が、一瞬にして止まった。形勢逆転。今まで防戦一方だったヴリュンヒルド八型改は、その一突きを、クリスタが見つけ出したその一瞬を、好機へと変える。


「オラ、オラッ!」


 八型改の鋭い突きに吹き飛ばされ、空中をあちこち舞うジャックマークⅡ。それを直線的な動きで追いかけ追撃を行い、起動を変える。八型改が描き出す蒼き軌跡が、その戦いの人間離れしたスピードを物語る。

 腕の関節から、火花を散らしだすジャックマークⅡの機体は、既に使い物にはならない。


「オ、オオオオオオオおのれェ!」


「トドメだ! 俺が奴を終わらせる!」


「わかった! 死なない程度に死んできなさい!」


 ジャックマークⅡの頭上へと瞬間移動をした八型改は、大きく右足をあげる。


「オラ、そういえば本部の時から、お前のこといけ好かなくて嫌いだったんだよ! コイツは私怨だ取っておけ!」


 コルセアによって海面へと叩きつけられたジャックマークⅡの周りには、小型船が集まっていた。


「今だぁ! 撃てェ!」


「コイツら、いつの間に! 護衛はどうした⁉」


 アルタの号令で、アンカーを一斉に放つ島民たち。それらはジャックマークⅡの各関節をしっかりと掴み、離さない。


「小賢しい……グ、体が!」


 一斉に放たれたアンカーのプラズマによって、動きが封じられるジャックマークⅡ目掛けて、陸からの一斉攻撃が襲い掛かる。


「せぇのッス!」


 鋼材をイナバ百式で投げ飛ばすユナ達。的が一切動かない上に巨大なため、それら全ては機体に命中する。


「先端を尖らせた特注性ッスよ!」


 それらはジャックマークⅡの四肢を切断し、海中へと沈める。しかし本体は、島民たちが踏ん張り、海面に維持させている。


「じゃ、行ってくる!」


 ハッチを開き、大空へと躍り出す鬼丸はそのまま、自身の右手を前に突き出し、ジャックマークⅡを突き動かすゴッドアップルの破壊へと向かう。


「お、鬼丸⁉ き、貴様一体!」


 彼の左手には、以前新井からくすねた観賞用の槍が握られていた。それをジャックマークⅡの傷痕に突き刺し支えとし、頭部へと手を突く。


「往生しやがれ! ゴッドアップル!!」


 鬼丸の叫びは、鉄クズ共が沈む海に轟いた。


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