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第七話 カップル


 付き合っていると宣言したカップルが、同じ方向から腕を組んで登校してきたらどう思うだろうか。


 朝から腕を組んで登校している時点で、物凄い視線で睨まれるのだが、それ以上に『同じ方向から』というのがギルティなのだ。


 ちなみに僕は別々に登校することを提案した。

 ……提案したものの、すぐに拒否されたのは言うまでもないけど。


 ……でもこれじゃ、僕の噂がどんどん悪い方へと進んでいくんじゃないのか?


 考えると、朝なのに憂鬱な気分に飲み込まれる。

 そんな僕には目もくれず、姫匙は笑顔を絶やさず、ずっと僕の腕を抱きしめている。

 甘々モードの姫匙である。

 このままだったら文句なしで可愛いのに――。


「殺すわよ♡」


 甘い声で恐ろしいことを口にした。

 僕はまだ、姫匙がエスパーなのではないかと疑わないといけないらしい。




 姫匙に腕を抱き付かれたまま、教室の扉を開けた。


 その瞬間、クラスメイトの視線が全てこちらへ集まった。

 人間の適応能力っていうのは思っている以上にすごいみたいで、僕はこんな憎悪と軽蔑の視線に慣れつつある。

 ……慣れたくはなかったけれど。


 そんな視線を必死で無視して、窓際の一番後ろの席に座る。

 そして、前の席に姫匙が座る。そしてそのまま、椅子を反転させて微笑みながら僕を見る。



……じっと見る。


…………ただひたすら。


…………………眺めるように。



 何が嬉しいのか、足を揺らして、純度一〇〇%の笑顔のまま――。

 しかし、僕は知っている。この笑顔は五〇%の嘘と三〇%の嫌味、更には二〇%の嘲笑でできていると。


 周りからは本当にカップルに見えているのだろうか?


 これじゃあ、姫匙が一方的に僕に尽くしてくれているみたいじゃないか。

 このままじゃ、僕が姫匙を騙しているサイテークズヤリチン陰キャという噂は晴れそうにない。


 きっと原因は僕にある。僕に恋愛経験がないばかりに……これは姫匙に相談しなければ。




 昼休み。


 礼音が作ってくれたお弁当を、あたかも自分が作ったように僕に「あーん」をする姫匙。

 お弁当の中身が一緒でクラスメイト達が騒いでいたので姫匙が朝早く起きて僕の為に作ったお弁当だと信じているみたいだった。


 けれど、それじゃ意味がない。

 僕が姫匙に何かしないと……一方的に尽くされているだけじゃカップルとは言えないっ!


「あの、さ……姫匙。あ、あーん」


 僕は震えそうになる箸を堪えて、玉子焼きを掴み、姫匙に差し出す。

 姫匙は一瞬だけ戸惑った表情をするが、すぐに察して優しく微笑んだ。


「あーん」


 優しい匂いが漂う黒く長い髪を耳に掛け、ゆっくりと潤んだ唇で玉子をくわえた。

 色っぽくて、綺麗だった。「うちの彼女かわいいだろ?」と自慢したくなるくらいに……偽物だけど。

 姫匙は笑顔で「水斗くんのたまご、おいひい」と蕩けたような顔で言い放った。




 …………あれ?





「…………………………」



 僕の背中には再び、鋭い視線が突き刺さる。


「うっわw まじかよw 俺のたまごは二個あるんだぜってかww」

 そんな声を筆頭に、笑いや憎悪の言葉が次々と襲ってくる。嫉妬の視線までもが僕を突き刺す。


 僕は姫匙の腕を掴んで、教室を飛び出した。


「ホンモノのたまご食わせにいったぞw」

 なんて声が聞こえた気がした。




「わ、私、あなたのたまごなんて食べないからっ!」


 人目が無さそうな場所に移動すると、姫匙が絞り出すような声でそう言った。


「食べさせるわけないだろっ!?」


 姫匙はハッとした表情を浮かべ、「そ、それもそうね」と、クルクルと髪を弄っていた。


「それはそうと、あれはないだろ……姫匙は僕を追い詰めたいのか?」


 なんだよ「水斗くんのたまご、おいひい」って。

 水斗くんのたまごってスゴイ破壊力のパワーワードだよ! なんでこんな言葉思いつくんだよ!

 ……せめておいひいじゃなくて美味しいって言ってくれ! 誤魔化せなくなるんだよっ!


「何よ、私が悪いって言いたいのかしら?」

「ああ、今回の件に関しては完全に姫匙が悪いね」


「人を誤解させてしまうことなんてよくある話でしょう!?」

「姫匙はそれが多すぎるんだ!」


「それをカバーするのがあなたの役目でしょう!?」

「『水斗くんのたまご、おいひい』なんて言われたらどうやってカバーすればいいんだよ!?」


「私、そんなえっちなこと言ってないわ!」

「嘘をつくな! 言ってたんだよ! それも超色っぽく! 僕がカバーできないくらいにはなっ!」


「じゃ、じゃあ……『憐香ちゃんのたまごも、おいしいよ(キラン)』とか……」

「そんな変態こと言えるかっ!」


「言いなさい!」

「口が裂けても言わない!」


 僕が必死にプライドを死守していると、ふふっ、と姫匙が笑ったような気がした。


「――教育が必要みたいね」


《次回・デート》

 偽カップルによるイチャイチャデート!

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