未来の話
とうとう、レオとアルスの帰国の日がやってきた。
羽田空港の滑走路に、豪勢なプライベートジェットが存在している。それが、二人が今回母国へと帰るための手段だった。
プライベートジェットに乗り込むために階段を上っていたアルスは、階段の中段辺りで、一度足を止めて背後を振り返った。その視線の先には、アルスが上がるのを階段の下で待っているレオと、そんな二人を見つめている海馬の姿があった。
アルスは、階段の中段から海馬を見下ろしながら、海馬に向かって言った。
「本当に色々とありがとうございました。元はと言えば、私が日本に味方を作りに来たのが全ての発端ですから、私はあなた達に凄く迷惑をおかけしたかもしれません。そのことについては、本当に申し訳ありませんでした」
そう言ったアルスは、深々と頭を下げると、彼女の長いお淑やかで神聖な髪の毛がさっと地面に向かった降りた。
ポケットから手を出した海馬は、そんなアルスに向かって言った。
「いや、俺としては感謝しかない。元はと言えばレオの存在のせいではあるものの、レオが日本に来て、そして俺達の仲間になってくれたおかげで、結果として〈ReGion〉を壊滅させることができたんだからな。それもこれも、全て運命だと思う。だから、貴女のその作戦に参加できることを、嬉しく思う」
「私の方こそ、まさかまさかこんな形で味方ができるとは思ってもいませんでした。それもこれも、全てレオのおかげですし、運命ですね」
頭を上げながらそう言ったアルスは、プライベートジェットの階段の一番下にいるレオに微笑みかけた。
その微笑みに、レオは恥ずかしくなって、アルスから視線を外して頬をポリポリと掻きはじめた。
そうして、アルスは海馬に一瞥すると、中段で止まっていた足を進めプライベートジェットの中へと入っていった。
海馬と二人だけになり、急に〝別れ〟を意識しはじめたレオは、中段ほどまで階段を上った後、立ち止まって海馬の方を振り返った。すると海馬は、目の合ったレオのそんな心情を察してか、言うのだった。
「じゃあな、また共闘できることを、楽しみにしているぞ」
その言葉に、レオは思わず笑みを浮かべた。そしてレオは、元気よく言うのだった。
「はいっ!」
その言葉を最後に、そうしてレオが機内に入ると、レオはプライベートジェット内の四人掛けのボックス席のうち、窓際の、アルスの目の前の席に座った。
フライトの準備が整うと、二人はシートベルトを締める。そして、プライベートジェットのエンジンが吹かされると、それから飛び立つまでにはそう時間はかからなかった。
プライベートジェットが完全に飛び立ち、巡航高度まで到達すると、ポーンという音と共に、シートベルト着用サインが消えた。その音を合図に、二人は同じタイミングでシートベルトを外した。
四人掛けのボックス席に挟まれて存在しているテーブルの上には、様々な飲食物のメニュー表があった。アルスはそのメニュー表を手に取ると、レオに言う。
「あなたも何か飲みますか?」
「いいんですか?」
「私がダメって言ったことありますか?」
「いいや、ないですね」
「沢山戦って頑張ったのでしょう? 私の奢りです。飲んでください」
アルスは手を挙げて女の乗務員を呼んだ。
アルスはその女の乗務員に、カクテルを注文した。そしてレオはと言うと、乗務員が来るまでにメニューを決められず、乗務員が来てからも少し悩んだ末に、アルスと同じカクテルを注文した。
二人の元にカクテルが届けられると、二人はふと目を合わせ、乾杯をした。
カランッ。
グラスのぶつかる音が、とても心地良かった。
二人はカクテルを一気飲みすると、お互いに窓の外を眺める。プライベートジェットの、ゴーッというエンジン音だけが二人の鼓膜に届く。そんな、静寂と安寧に包まれた時間が、ふと続く。
すると、ふとしたタイミングで、アルスが窓の外からレオの方へと視線を移して口を開いた。
「日本での生活はどうでしたか?」
突然の言葉に、ぼーっとしていたレオは思わずアルスの顔に視線を合わせると、逆にまじまじと見過ぎたことから、少し視線を外しながら言った。
「楽しかったですね。色々とありましたけど、最後には〝楽しかった〟そんな気持ちしかありません」
「でも、不思議ですよね。沢山戦って、傷ついて、嫌なことも沢山あったでしょうに。でも、最終的にはそういう感想を抱くというのは、すごくレオらしい」
するとレオは、その言葉に冗談混じりに反論する。
「褒めてます? それ」
するとアルスも、冗談混じりに言うのだ。
「褒めてますよ、すごーく」
するとアルスは「ふふふ」と軽やかに笑った。アルコールが入っているからか、それとも久しぶりに二人でじっくりと会話をするからか、どっちかは分からないが、とても和やかで心地の良い時間が二人の間には流れていた。
そして数時間後――。モルドヴィス王国の陸地が窓の外に見えてきた。
モルドヴィス王国の陸地が見えると、二人は掠れていた意識をはっと取り戻した。
窓の外に見える、母国の大地を二人は互いに見ながら、アルスが口を開く。
「前にも訊いたことがあるかもしれませんが……ねぇ、本当に成功すると思います? この国をひっくり返すという、私の計画」
するとレオは、窓の外の母国の大地を見続けながら、まるで独り言の延長線上のように言う。
「さぁ、どうでしょうね。でも、個人的には成功するしないはあまり興味ないというか……。ただ、あなたのその思想や価値観や計画に俺は共鳴していて、ただ乗っかるだけ。それ以上でもそれ以下でもないですね」
まるで他人事のように言ったレオの言葉に、アルスは少しムスッとしながら言う。
「答えになっていません」
だがレオは、そんなアルスの顔をまじまじと見ながら、微笑みを浮かべながら、言うのだった。
「いいえ、これが俺なりの答えです。……つまり、〝アルス、君は自分のやりたいようにやればいい。俺はそれにただ着いていくだけ〟ってことです」
その言葉をアルスがレオから言われたことは、今回が初めてではなかった。何回も、何回も、事あるごとにレオにそのようなことを訊いては、同じようなレオの返答が胸に浸る。アルスは、そんな予定調和の返答が返ってくることが分かっていてもなお訊いてしまう自分が馬鹿だと思いながらも、その言葉が自分の不安を確かに和らげてくれることを自覚せずにはいられなかった。
「……ありがとう。私は、あなたのその言葉を待っていたのかもしれません」
するとそのとき。ポーンという音と共にシートベルト着用サインが点灯した。
二人はシートベルトを締めて、着陸への準備を整える。
二人は、これからの母国に帰還してからの展開を、頭の中で色々と想像する。普通であれば、母国へ帰るというのはポジティブなことであるが、今二人が抱えている感情はどちらかと言えばネガティブなものだった。
そのことに、二人は〝あぁ、やはり自分はこの国が好きではないのだな〟と嫌でも思わされた。
プライベートジェットはゆっくりと下降していく。モルドヴィス王国の陸地に着陸するまであと少し。
レオとアルスは、お互いに胸中に様々な感情が渦巻く中、今まさに、着陸しようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また、別の作品でお会いしましょう。




