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第37話 助けに行く理由は、正しさじゃ足りない

工房の中は、まだ静まり返っていた。


外では南区の封鎖が続いている。

遠くで、誰かの叫びと命令の声が混ざる。


アリアは座り込んだまま、ずっと動かなかった。


視線の先には、あの写し。


そして頭の中には、ヴィグの顔。


笑っていた。

あの状況で、あんな顔で。


「……助けたい」


ぽつりと漏れた。


誰もすぐには返さない。


分かっているからだ。

その言葉の重さも、危うさも。


グレンがやっと口を開く。


「場所は分からねえ」


「……うん」


「監査官が関わってるなら、軍務院か内政庁の拘束施設だ」


「……うん」


「行けば死ぬ可能性の方が高い」


アリアはゆっくり顔を上げる。


「それでも、行く理由にはならない?」


グレンは少しだけ目を細めた。


「理由にはなる。

成功する理由にはならねえ」


痛いくらい正しい。


でも、それでも。


「……あの人、私たちを逃がした」


「分かってる」


「私が話させた。

だから捕まった」


「それも分かってる」


グレンの声は、ずっと低いままだった。


「でもな、それで“全員助けに行く”は違う」


アリアの手が震える。


「じゃあ、見捨てるの?」


「そうじゃねえ」


グレンは一歩近づく。


「選べって言ってる」


その言葉で、空気がまた重くなる。


モグが頭をかきながら言う。


「現実的な話するぞ」


アリアが顔を向ける。


「ヴィグを助けるなら、場所の特定が必要だ。

それと侵入ルート、脱出ルート、最低でも三人以上の動員」


リオが続ける。


「しかも今は封鎖中。

通常より警備が増えてる」


ルシェも静かに言う。


「つまり、成功率はかなり低い」


エリオットが補足する。


「さらに言えば、

“白塔関連の証拠を持っている集団”が動くこと自体が危険です」


「……分かってる」


アリアが小さく言う。


「でも、それでも」


「その“でも”に何を乗せるかよ」

モグが言う。


「助けたいだけじゃ足りねえ。

何を捨てるか決めろ」


その言葉が刺さる。


アリアは黙る。


捨てる。


何を?


安全。

仲間。

証拠。


全部だ。


ミナがアリアの袖を引く。


「……アリア」


「うん」


「いくの?」


その問いは、純粋だった。


だからこそ重い。


アリアは少し考えてから答える。


「……一人で行く」


全員が一斉に反応する。


「は?」

モグが言う。


「無理だ」

グレンが即答する。


「成功率ゼロよ」

ルシェも言う。


「分かってる」


アリアは立ち上がる。


「でも、全員巻き込むよりはいい」


グレンの目が鋭くなる。


「ふざけんな」


「ふざけてない」


「一人で行って死ぬだけだろうが」


「それでも、行かないよりはいい!」


声がぶつかる。


静かな工房に響く。


アリアの呼吸が荒い。


「私が原因で捕まったのに、

私が何もしないって、そんなの……」


言葉が詰まる。


悔しさと、怖さと、責任が混ざっている。


その時、ルシェが一歩前に出た。


「それ、自己満足よ」


空気が凍る。


アリアが固まる。


「え……」


「助けたい気持ちは分かる。

でも“自分だけ行く”は、責任放棄と同じ」


「違う!」


「違わない」

ルシェは静かに言う。

「あなたが死んだら、それで終わり。

ヴィグも助からない。

私たちも動けなくなる」


アリアの目が揺れる。


「……でも」


「でもじゃない」

ルシェの声は鋭い。

「選ぶなら、“生きて助ける方法”を選びなさい」


その言葉は、優しさじゃない。

でも、逃げ場を潰す言葉だった。


沈黙のあと。


アリアはゆっくり息を吐いた。


そして、言う。


「……じゃあ、作戦立てる」


モグが少しだけ笑う。


「やっとそっち来たか」


「でも時間ないよね?」


「ないな」

リオが答える。

「拘束された人間は、長くて一日」


エリオットが頷く。


「早ければ、朝には移送されます」


「……じゃあ今夜」


アリアの目が変わる。


「今夜、やる」


グレンが短く言う。


「内容次第だ」


「ヴィグだけじゃない」


全員がアリアを見る。


「……あの通りにいた人たちも」


空気が重くなる。


「無理だ」

モグが即答する。


「分かってる」

アリアも頷く。


「でも、できるだけ巻き込まれてる人を減らす」


リオが考え込む。


「規模が大きすぎる……が、

混乱を起こせば“選別前”の人間は逃がせるかもしれない」


エリオットが言う。


「内政庁側の拘束施設なら、

“分類前の一時収容区画”があります」


「そこだ」

グレンが決める。


「全員救出は無理。

だが“混乱を起こして逃がす”なら現実的だ」


ルシェが頷く。


「陽動と切り分けね」


モグがニヤッとする。


「ようやく俺の出番だな」


セブンが補足する。


『煙幕、光学撹乱、音響干渉。

短時間の混乱生成は可能』


アリアは全員を見た。


「……お願い」


誰も断らない。


もうこの段階に来てる。


準備が始まる。


急ぎで。

静かに。

確実に。


アリアは短剣を握る。


手が震える。


怖い。

また失敗したらどうなるか分かってる。


でも、今回は違う。


「……次は、間違えない」


小さく呟く。


その言葉を、グレンが聞いていた。


「間違える前提で動け」


「え?」


「全部うまくいくと思うな。

だからこそ、崩れた時の動きも考えとけ」


アリアは少しだけ笑った。


「……厳しいなあ」


「今さらだろ」


「うん」


でも、その厳しさが今はありがたい。

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