表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/42

灰の国境町と白旗の少女

世界が滅びるとき、空は青いらしい。


少なくとも、アリア・フェルンがその話を聞いたのは、まだ母が生きていた頃だった。


「変なの」

十歳のアリアは、宿の裏庭で洗った皿を拭きながら首をかしげた。

「滅びるなら、黒い空のほうがそれっぽいのに」


母は笑った。

柔らかな金の髪を風に揺らし、白い布を物干し竿にかける。


「黒い空なら、誰だって怖がるでしょう?」


「うん」


「でも青い空の下でも、人は間違えるの。今日くらい大丈夫だろう、まだ平気だろう、相手もそこまで悪くないだろうって。そうやって気づくのが遅れる」


アリアは皿を抱えたまま、じっと母を見上げた。


「じゃあ、どうしたらいいの?」


母は物干し竿にかけた真っ白な布を見つめ、それから娘の額を指でつついた。


「ちゃんと見ること。怖いものだけじゃなくて、怖がってる誰かのほうも」


「……むずかしい」


「そうね。だから、できる人は少ない」


その白い布は、洗濯物なんかじゃなかった。

宿の奥にしまわれている古い旗だった。

傷ひとつないのに、なぜか古びて見える、不思議な白。


「これ、なんの旗?」

アリアが聞くと、母は少しだけ黙ってから言った。


「約束の旗よ」


「誰との?」


「それを決めるのは、いつかのあなた」


意味が分からなかった。

だからアリアは、いつものように適当にうなずいて、こう返した。


「じゃあ、その時はもっと分かりやすい説明にして」


母は、声を上げて笑った。


その笑い声を、アリアはずっと覚えている。

火の中に消えたあとも。

灰になった町を歩く夜も。

ひとりで眠れなかった朝も。


ずっと。


だからたぶん、世界が滅びる前に空が青いのだとしても、

アリアはもう二度と騙されない。


青い空の下で始まる最悪を、見逃さない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ