85. 覚悟
色々やらかしすぎたシルバーウィーク初日。
綿貫さんにすぐに謝罪の連絡を入れ、メッセージ上では許してもらった。しかし私の心は晴れない。
体温計で攻撃したことと、気持ちがバレたかもしれないことの2つで、どうしたらいいのかわからなくなっちゃったからだ。
特に攻撃したことへの落ち込みは半端ない。いや、やられた綿貫さんの方が怖かったと思うけど、私も怖くて体温計を見ることができなくなった。
「椿、今日は早上がりで帰んな」
「そうするー」
綿貫さんとは週に2.3回連絡はしてる。でも1ヶ月会ってない。気まずかったのもあるけど、本当に忙しかった。定時で上がれた日なんて僅かで、帰ってからも仕事。
「ちゃんと向き合わなきゃだよね。よし、ちゃんと謝ろう!」
土曜日の16時、菓子折りを買って本屋さんの入り口に。
「ここで待ってたら退勤後通るかな」
「通りますよ」
「え、あ、わ、綿貫さん!?」
「だからなんで驚くんですか。今日は元気なんですか?」
「あ、はい……」
「えっと、なんか見覚えのあるシチュエーションなんですけど」
「……謝りに来ました」
1ヶ月間色々ちゃんと考えた。
好きって気持ちがバレてたら、もう会えないって言われちゃうかも。気のない人に勘違いをさせたまま、関係を続けるような人じゃないと思うから。優しい綿貫さんは、きちっと私のことを振るだろう。
でも、もう会えなくなるとしてもちゃんと謝らなきゃいけない。無意識とはいえ、暴力を振るおうとしちゃったんだもん。
「本当にすみませんでした」
向かいあったカフェのテーブル。90度のお辞儀で丁寧に謝罪。
けれど綿貫さんは黙ったまま。いっそ怒ってくれていいから、返事してくれたりしないかな。怖くて顔、あげられないよ。
「佐藤さん、僕怒ってないですよ」
「……嘘だ」
「僕の目を見てください」
「……はい」
恐る恐る綿貫さんの顔を見ると、いつもの柔らかい顔をしている。でも……。
「あんな醜態を晒して本当にすみませんでした。体温計も……あんなこと絶対にしちゃいけなかったです」
「んー、そうですね。まず、あんな体調崩す日に佐藤さんが1人じゃなくてよかったです」
「……へ?」
本当に怒ってないの?いつもの優しい声、聞きたかった声。
「あの日勉強会をしてよかったです。あれを1人の時に起こしてたら危ないじゃないですか。佐藤さんのことだから、叔父さんに連絡しなかったと思いますし」
「でも」
「体温計だって本当に気にしてないですよ。それに僕も男です、あれぐらい防げます」
綿貫さんじゃ防げないって。私はボールペン1本で人を殺せるんたよ?絶対怪我させちゃうって。
「でも」
「じゃあ次のお休みの日、ちょっと付き合ってくれませんか?」
「えっと……病院ですか?」
「いえ、佐藤さんと行ってみたいところがあるんですよ」
行きたいところは保険会社?佑樹さんが怪我してなかったって言ってたから、それは本当だと思う。でも精神的に苦痛を浴びたなら、損害賠償を払わないと。というか私の気が済まない。
「佐藤さん、僕とデートをしましょう」




