38.真心斗のアドバイス
こうして5月3日までの数日間、私はとにかく仕事に打ち込んだ。仕事終わらせないと、デートに行けないもんね。綿貫さんに会うためなら頑張れる!
『佐藤さんが好きだと言っていたシーン、予告に出てきましたね!』
『おすすめされた本に、僕もハマっちゃいました笑』
『当日楽しみにしてます』
ちなみに以上が、綿貫さんが私の心を鷲掴みにしてきたメッセージトップ3がこちらです。
すでに瀕死状態です。
そしてここまで辿り着きました!明日はいよいよデート、夢にまで見たデートですよ、みなさん!
今日さえ乗り越えれば、この書類の山さえ片付ければ……待っててください!
「なぁ、明日お前デートだろ?」
「うん!今日は頑張って早く帰るんだー」
「そいつ歳いくつなの?」
「それ聞いちゃう?あのね、私の1つ上」
「じゃあ俺の2つ下か、俺と近いな」
「そうだね。それが何?」
「男が初デートで最初に言われたいこと知ってる?」
「え?何それ、知らない」
「教えてやるよ、あのな……」
待って!?そんなこと言えるわけないじゃん!そもそもそれ、本当の話?真心斗のことだし、どうせからかってきただけで嘘だよ……多分。
でもなあ、サラッと言ってきたし普通の恋愛ってそういうものかもしれない。確かに漫画にはそういうシーンが、あったりなかったり……。あれって現実でも起こり得る話かな。
「お前顔真っ赤じゃん」
「待って待って!今のは本当?それとも冗談?え、ねえねえ」
「さ、仕事仕事ー」
どうする?絶対嘘とは断言できないし、それでうまくいくなら頑張って言った方がいいかな?でも実際そうなっちゃったら困るんですけど。え、綿貫さんの反応を見て、やっぱり冗談でしたとかできる気がしないよ。
「おはよう、ってどうした椿」
「佑樹さん聞いて!真心斗がいじめる!」
「親切なアドバイスだろ」
「なんだなんだ、朝から喧嘩か?」
「違うよ!ねえ、……って言われたら嬉しいって本当?本当に会って最初に言うべき?」
「いやー、その感じだとちょっと早いかな?椿、今回はまだそれは言わないでおこう、な?」
「今回はって何!?」
「真心斗……会議室行こうか」
ちょっと早いって何!?あとどれくらいしたら言えばいいの?というかいつかは言うセリフなの?
佑樹さんと真心斗は何を知ってるの?え、私がおかしいのかな?
「ねえ……」
1人虚しく置いていかれた私。
デートの始まりに「お待たせ、待った?」「全然待ってないよ」以外にテンプレートなセリフないよね?
男が言われたら嬉しいって、綿貫さんも嬉しいの?いや、そうだとしてもとても言えるセリフじゃないよ!
「えー……仕事できないよ……」
2人が戻ってきたのは5分後、一生懸命質問したけど、本当のことは何も教えてもらえかった。ただ忘れてくれただけ言われ、気がつけば2人とも外出し、1人残された静かなオフィス。
「あ、向日葵ちゃんは?」
保全部の今日の予定は、こないだ私が殺った殺し屋の子どもたちの経過観察で外出中か。
なら仕方ない。
じゃあ私のこの気持ちはどこにぶつけたらいいの!?




