27.作戦
速返してしまった『お願いします』に返事が来たのは、私の心が死んだかと思われた電車の中。握りしめていた携帯のバイブ音で危うく落としそうになったが、脇を閉めグッとこらえスワイプ。そこには予約の完了メールのスクショと『楽しみです』の一言。
やばい、本当にデートできるんだ!綿貫さんも楽しみなの?本当に?5日のためなら、私本当に何でもできそうだよ。
とはいえ、帰宅できたのは22時過ぎ。時計に一瞬殺意が湧きかけたが、クラゲのアイコンを見て冷静さを保つ。
「綿貫さんに見られてるかも……と思えば頑張れるかも!そうだ、そんなことを言っていた女の子が2人いたじゃん」
いつか同棲するかもしれない。そんなときにずぼらな女だってばれたら、失望されちゃうかもしれないもんね。
私は服を脱ぎ捨てずに、ちゃんとハンガーにかけた。シャツはクリーニング屋さんのバッグに入れ、アクセサリーはケースにきちんとしまう。しっかりとメイクを落としていざお風呂。
のぼせかけたけど、無事生還。パックしながらチンするご飯を出して、戸棚を足でバタン。
「あ、さすがにこれはダメだよね」
1回棚を開け、手でやり直す。
「これで許されたかな?」
レンチンしている間に髪を乾かし、オイルをつけてパックを外す。本当は気分に合わせて香りを変えてみたりもしたいけど、仕事柄すべて無香料。まあいいでしょう。
「適当に結ばない方がいい?一応クリップにしようか」
特に可愛くはない茶色いヘアクリップ。今度可愛いの買わないとだな、なんて言い訳をしながらスキンケアを終え、納豆を混ぜ混ぜ。
「すみません、お皿に出さないことは許してもらえませんか?」
洗い物をする元気はない。最大限の努力として、佑樹さんにもらったお箸と、折り鶴の箸置きを出し天に祈る。
ちなみに食事中はアニメを1本見て勉強も欠かさない私は、ちゃんと乙女だよね!
きちんとごちそうさまをしたら、明日の準備。現場で着るは支給されるけど、インナーは準備しなきゃいけないし、出勤はいつも通りスーツ。
「可愛いポーチも買えばよかったな」
イギリスに行く前は佑樹さんの家に住んでたから、帰ってきて一人暮らしするしと全部捨ててしまった。いつ何をどこで見られるかわからないし、やっぱり可愛いもの揃えとかなきゃだな。
部屋も寂しいし、花瓶も買いたいな。あ、カレンダーないじゃん。
「あとは薬を入れてっと……あ、病院行ってない」
今日苦しくなったのも、動く前に吸入してないからじゃない?明日はめっちゃ動く予定だし、喘息の吸入持ってこうと思ってたけど、朝晩使ってゴールデンウィーク明けまで持つ?
「やばいやばい!」
慌てて洗面所の棚を開けると、奇跡的に1つ未開封の吸入があった。
「危なかった。こんなところ絶対っに綿貫さんには見せられない!」
イギリスでもらったやつが無くなるってことが、頭からすっぽ抜けていた。言い訳をしておくと、かかりつけが総合病院で、佑樹さんの住んでるところまでいかなきゃだからめんどくさかった……んです。
ブーブーブーブー
「はい、もしもし!?なんだ、大輝さんか……別に。うん、今ちょうど慌ててたところ。いやあるよ。2週間分は残ってる。あ、ほんと?はいはーい」
自称兄は、時々飛躍的な活躍を見せてくれる。特に私の体調が絡むときの勘はすごい。あの佑樹さんにも隠せた不調さえも、大輝さんは一瞬で見抜いてくる。ムカつくことに告げ口まで完璧だ。
例えば今日のような時も必ず連絡をくれるし、なんならペアじゃなくても電話が来る。なぜメッセージじゃないのかというと、私が無視するからだ。
「焦った焦った。でもこの見られてるかもしれない作戦いいかもしれない」
今後もこの作戦を採用!
さすがに寝相まではコントロールできないので、そこは神様よろしくお願いいたします。




