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修理師リエイのほのぼのクラフト生活  作者: 弌黑流人
第一章 修理師

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repair.84 『陽光のリゾットと深層の余韻』

工房へと戻った一行を待っていたのは、地下深層の冷気とは対照的な、窓から差し込む柔らかな午後の陽光だった。

時計の針は既にお昼過ぎを回っている。リエイは使い込まれた鉄のフライパンを火にかけ、今朝方、探索に出る直前にノエルが手際よく準備してくれていた星滴麦のリゾットを深鍋へと移した。


「……ふぅ。一時はどうなることかと思ったが、なんとかなったな」


弱火でゆっくりと温め直されるリゾットから、星滴麦特有の香ばしい香りと、隠し味の燻製肉の旨味がふわりと立ち上る。リエイは多機能ゴーグルを外して机に置くと、凝り固まった首を大きく回した。


「リエイさん、本当にお疲れ様でした。はい、どうぞ。少し熱いですよ」


ノエルが差し出したのは、月夜草をベースにしたハーブティーだ。魔力の過負荷による頭痛を和らげるその香りに、リエイの表情も自然と緩む。


「ああ、助かる。……今回の件で確信したよ。道具も迷宮も、そして魔導炉も、必要なのは修理という名の外科手術だけじゃない。それを健やかに保つための栄養と環境なんだな」


『ふむ、小僧もようやくその域に達したか。壊れた箇所を継ぎ接ぎするだけなら、そこらの三流職人でもできよう。だが、因果の流れを汲み取り、欠けたマナを補うことで生き長らえさせるのは、門番の加護を持つお主ならではの業じゃな』


アルス・マグナが結晶体を揺らしながら、温められたリゾットを物欲しそうに眺めている。


「明日には、マイルズとベネディクトに報告書を届けに行く。地下水域の変質が止まれば、迷宮都市の給水塔の魔術回路も安定するはずだ。そうなれば、街の職人たちも余計な故障に悩まされずに済む」


「街の皆さんも、きっとリエイさんに感謝しますよ! ……あ、そろそろリゾット、いい感じに温まりました」


ノエルの弾んだ声と共に、黄金色に輝くリゾットが皿に盛り付けられた。

一口運べば、プチプチとした麦の食感と共に、ノエルの優しい魔力が身体の芯まで染み渡っていく。


「……美味いな。今朝から何も食べてなかったから、体に染みるよ」


「えへへ、良かったです……っ!」


頬を赤らめるノエルと、それをニヤニヤと眺めながら燻製肉をつまみ食いするニーリル。

深淵の毒を浄化した後の工房には、ただ穏やかで温かな、いつもの日常が戻っていた。

しかし、リエイの視線の先、机に置かれた手帳の隅には、新たな懸念事項が記されていた。


(……魔導炉の栄養失調。それを引き起こしたマナの枯渇の出所はどこだ? 今回の修理はあくまで応急処置に過ぎないかもしれない……)


職人の休息は短い。

リエイは次なる調査の準備を脳内で進めながら、温かいリゾットをもう一口、ゆっくりと口に運んだ。


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