学芸員の夢
5年前
アムステルダム国立美術館に、フェルメールの新発見作品が一挙に11点も持ち込まれて、真贋鑑定中である。と云う噂はまたたく間に世界中の美術関係者に拡散した。
通例ではこうした情報は、作品の真贋がはっきりするまで秘匿されるものなのだ。
しかし今回に限っては作品のオーナーはそうしたことに無頓着であり、真正であることは当然である。と考えているのは明らかであり、その様子はまるで運転免許証の更新手続きに来ているドライバーのようであった。
中国の南京市に新たに建設されようとしている美術館の学芸員であるルオ・リュウは、この情報に烈しく揺さぶられた。
ルオは今年37歳で、苦労の末にダラス美術館に東洋人でありながらも17世紀の西洋絵画の専門家として正式に雇われたばかりでだった。
それにも関わらず、故郷の親類からの連絡で,地元に作られることになった新しい美術館の学芸員として呼び戻されてしまったのだ。
世界中に目を向けると都市の中心には図書館とコンサートホールが存在し、さらに富める街には美術館があった。
第十二次五カ年計画で2012年、1年だけでも400もの美術館が開館した中国はその後の経済的躍進を背景に美術館ラッシュが続いていた。
当然、学芸員不足となり、ルオのように海外の美術館での勤務経験のある者は好待遇で迎えらえることになった。
それまでルオ・リュウの勤務していたダラス美術館にはフェルメールの「ヴァージナルの前に座る若い女」が所蔵されていた。
永年に亘って真贋の決着がついていなかった、この作品はサザビーズがオークションに掛けるにあたって科学的調査が行われ、キャンバス生地が決め手となって真筆とされた。
この作品はオークションではラスベガスのカジノ王スティーブ・ウィンが3000万ドル(約32億円)で落札するのだが、しばらくしてダラス美術館に所蔵された。
「ヴァージナルの前に座る若い女」は傑作ではないが、それでも世界に30数点しか存在しない本物のフェルメールなのだ。
ダラスの美術関係者はこの名誉に酔いしれた。
作品が搬入されて展示された夜には、ルオ・リュウも同僚たちと祝杯をあげて幸運を祝った。
しかし、今、ルオ・リュウがいる美術館には誇るべき傑作が無い。
この新発見のフェルメールをなんとしても、中国に持って来たい。
その為には、オーナーであるジョン・リガルディーについての情報を集めなくてならない。




