表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209/209

仲間としての唯一つ

音が響いた。

ごつんという痛々しい音。

涙に濡れた視界の向こう、誰かが誰かを殴っている。


「答えろ」


叫んでいるのは、きっとガルグだ。

殴られたのはコマチで。


「答えによっちゃあ、あの頭のおかしい魔族の前にオマエを殺す。

 なんでミハル諸共攻撃した。テメェの出す技が、どんくらいのもんかも分からなかったか。

 それとも、ミハルごとあの魔族をぶち殺せば終わりとでも思ったか」


更に激しい音が響き、ガルグの体が吹き飛ばされる。


「黙れ」


返す言葉は、たった一言。

コマチの視線は揺るがない。

ただ真っ直ぐに、遠い空を、レジィの飛んでいった空の向こうを見つめている。

そして、誰でもない、コマチ自信に言い聞かせるように、口にした。


「私はミハルの仲間だ。

 ミハルは私の仲間だ。

 だから、私は……私が、ミハルを助ける」

「口先だけは立派だなぁ。テメェは、ミハルを、殺そうとしたんだろうが!!」

「そうだ」


悪びれる様子もなく、再度掴みかかったガルグにそう答える。

再び響く殴打音。返して響く殴打音。

ガルグがコマチを殴り、コマチがガルグを殴り返す。

怒りに煮え滾るガルグと、ただ請い願うように空を見つめるコマチ。


「……仲間だから、殺そうとしたのかい」


次に言葉を紡いだのはニイルだった。手を震わせ、脚を震わせ、それでもコマチに向かっていく。


「物分かりが悪いな、さっきからそう言ってるだろう」

「君は、ミハルのことだけは、特別だったんじゃないのか!!」

「同じことを何度も言わせるな」


掴みかかろうとするニイルを一瞥もせずに蹴り飛ばし、空を見続ける。

まるで、何かを待つように、ただひたすらに見つめ続ける。


ユイも釣られて空を見る。

空には闇が広がるばかりで、星すら見えない。

ただ、それでも見えるはずの何かを、コマチは待っている。そう感じた。


「コマチ」

「なんだ」

「何を、待ってるの」


ユイの問いに、ようやくコマチの視線が動く。

交わした視線に浮かぶのは、憎悪でも、憤怒でもない。きっと、それは、悲痛と呼ぶべき色だった。

そしてきっとその色は、この場にいる誰もが抱いている色のはずだ。


「……あの女、レジィと言ったか。

 あれが言ったんだ。『私を殺せばミハルの心を塗り潰し、私がミハルになる』『ここでミハルを殺したくなければ私を見逃せ』と。

 私は、何も出来なかった。伸ばした腕でミハルを守ることもあの女を殺すことも出来なかった。私が、崩拳コマチが、何も出来ずにただ立ち尽くしてしまった」


握りしめた拳からは血が滴っている。

どれだけの力が、どれだけの悔しさが、あの拳の中に込められているのか。

本当のコマチを深く知らないユイでもその思いの深さだけは感じ取れた。


「ミハルの無事は到底望めず、最悪の場合心を塗りつぶされる。

 それでも、もし、ミハルの無事が一時的に確保でき、その上で心が消えない方法があるとしたらと考えた。

 きっとそれはミハルも一緒だったんだろうな」


拳をほどき、胸元から一つのガラス玉を取り出す。

夜の闇を吸い込むみたいにまったく輝いていないそのガラス玉は、きっとかつてはほんのり光っていたのだろう。付き合いの長いユイだから、それがなんとなくわかった。


「この『仲間の証』を通じて、ミハルが私に語ったんだよ。

 心を塗り潰すという攻撃への対策と、魔族の手に落ちてそれでもなお一時的な無事を確保する方法を」


コマチの視線が再び空に向く。


「ニイル、ランドリュー、お前らには分かるだろう。

 私は全力でミハルを殺そうとした。そしてその結果、ミハルの脚を、夜明けに向かう脚を消し飛ばした。

 ミハルは息も絶え絶えで、このままだったらもう夜明けに向かうことは出来ない……そうなれば、ミハルがどうなるか」

「ま、まさか、コマチ殿……」

「それっていうと、つまり……」


どくんと、心臓が跳ねる。

背筋を悪寒が駆け上がり、体中の毛という毛が産毛に至るまで泡立つ。

感じたのは新たな闇の産声。

コマチが見つめていたその先で、闇が蠢き始めている。


「これを私に渡す時、ミハルは言った。この仲間の証から光が消えたなら、その時私がやることは迷うことなく唯一つ―――」


吹き荒れる闇の嵐。

巻き起こる闇の奔流。

視界の端で天を衝くのは、レジィが放ったものと同等の強大な『魔族』のもたらす闇。


「―――バルテロを、倒せ……と」


ゼットとの修行の際に知った、ミハルの背負った大きな枷。

魔族に宿られ、一時は魔族に身を落としたという事実。

曰く、魔王の影・バルテロ。ミハルを狙い付き纏っていた魔族が、遠い何処かで、今、ミハルの体を奪い上げた。


「ミハルがバルテロになることで、魔族すら喰らい殺す魔族になることで、ミハルはレジィの侵食に対抗できる……いや、対抗する必要がなくなる。

 結果として魔族はが二体に増えるとしても、こうなればもうあの女を生かしておく必要はなくなる」


コマチの呟きが、闇夜に向けて飛んでいく。

掴みかかろうとしていたガルグとニイル。

肉片からミハルの脚の修復を行っていたサバラとムーシャ。

分身と一緒に何事かを話し合い図を引いていたランドリュー。

そして衝撃に浮かされ途方に暮れていたユイ。

全員が、空の向こうの闇を見つめ、コマチの呟きを反芻していた。

年内再開を目指します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ