突き出す拳の意味
「まさかと思って探してみたら、大正解でござったぜ。
居たんでござるよ、遠く離れた森の奥に」
爆煙を切り抜け現れたのは、先程爆撃を受けたはずのランドリューだった。
いや、出方や話しぶりから考えるに、彼が人知れず放っていた分身の一人なのだろう。
「御館様曰く……強きが並べば波乱起こり思わぬ海路が顔を見せる、でござったか。
とはいえ、知らんうちにすでに海路は大荒れっぽいでござるな」
見上げる者、コマチ。見下す者、レジィ。
沈黙は長く続かない。まず土煙が立ち、その後に音が続く。
コマチが居た場所には爆撃が降り注ぎ、当のコマチは村を覆うように張り巡らせている防壁を足場に再び空に飛び上がっている。
「……もっと賢いと思っていたわ。
ユイ様を差し出せば貴女にミハルを渡すって言ってるのに」
「勝手に言ってろ。私の心は既に決まった」
選択を迫られ手をこまねいているユイを置き去りにするように、場面が切り替わっていく。
襲い来る爆撃を受け流しながらコマチが宙を舞いレジィに肉薄し。
そんなコマチを嘲笑うように、レジィは空中で爆撃を放ちながら踊るようにコマチの追撃を避け、爆撃でコマチを迎撃していく。
どんなからくりがあるのか、爆撃を足場にコマチが更に飛び上がって近接戦に持ち込み。
そんなコマチから逃れようと、レジィが遮二無二砲門から爆撃を放つ。
受け流し、踏み逃れ、闇を裂くような拳と脚で的確にレジィの左腕を……ミハルを抱きかかえている左腕を狙い続けている。
『暁星』を握る手が汗ばみ、震える。
今、あの左腕を斬り離せばミハルを救えるか。
わからない。
それでも試す価値はある。
最善良の力を『暁星』に注ぎ込み、構え直す。
レジィがコマチ相手に防戦を強いられている今なら、『唯牙』を当てることだって、出来るはずだ。
「『唯牙』!!」
振り抜いた最善良の牙がコマチもミハルもすり抜けて、ただ一点、レジィの左腕を斬り捨てる。
ミハルの体が一瞬ふわりと宙を舞い、その体にコマチが手を伸ばす。
だが、切り捨てたはずのレジィの腕がその場で爆ぜ、すぐそこまで迫っていた救済を否定する。
「ミハルを取り戻せば万事解決……
この状況でそんな結末、万に一つも許すと思います?」
吹き飛んだミハルは、再度レジィが抱きとめる。当然のように生えている切り落としたはずの左腕を使って、だ。
破損箇所の爆撃利用に再生。こちらの希望を丁寧に踏み潰すみたいに、レジィは少しずつ隠された手の内を明かしていく。
辿り着かない。辿り着けない。
レジィとコマチを遮るように一切の隙間なく展開された砲門が溶けて混ざり、巨大な砲門へと変貌する。
同時に展開された無数の砲門がユイに向き、ユイの周りに爆撃を浴びせる。
決してユイには当たらないように、だが、ユイの視界を制限するように、丁寧に張り巡らされた狂気的な愛で、『唯牙』の行く先を見失ってしまう。
迷うな。
歯を食いしばり、漲る最善良の力を爆煙に向ける。
「駄目だ、コマチちゃん! それじゃあ、ミハルが、死んじまう!!」
爆撃の向こうで聞こえる、ニイルの叫び声。
「だからだッ!!」
叫び返す、コマチの声。
唯牙を振り抜き、爆煙を斬り裂く。
耳の裏側を叩くみたいに、鼓動の音が煩かった。
見上げた空がひときわ激しく光ったのは、あの巨大な砲門が爆撃を放ったせいだ。
「つまり『これ』は、そういうことなんだろう、ミハル!!」
「そうだ……迷わずやってくれ、コマチ!」
ずっと聞きたかった声が、空の向こうから聞こえてくる。
切り裂いた爆煙の向こうに見えるのは。
空中で構えたまま爆撃に向かい合うコマチ。
嘲笑うように砲を構えるレジィ。
そして、ユイの方を見つめている、ミハル。
「ユイちゃん、―――」
確かに、ミハルの口がそう動いた。
続く言葉は、聞こえない。
「『流転』―――崩拳ッ!」
ひときわ大きな爆撃音。空中で振り抜かれるコマチの拳。
不安定な状況で打ち出された弩級迎撃術・崩拳は、爆撃すらも撃ち返し。
緊急回避を取ったレジィとミハルの脚を、揃って吹き飛ばした。




