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愛の分岐点

想定外の方向からの衝撃に、無様に転がってしまう。

それでもなんとか体を起こし、衝撃を放った相手を見据える。

『宵ノ口』を振り抜いた形で止まっているムーシャの顔に変化はない。

まるで、そうすることが当たり前というように、一切の曇りのない表情でユイの方を見つめている。


「ふぅ、間一髪ってやつですね」

「ムーシャ、いきなりなにを……ッ!」

「いやぁ、悪いかなぁーとは思ったんですけど。ミハルさんの命には変えられないじゃないですか」


ミハルの命と言う単語がムーシャの口から飛び出す。

ユイは今、レジィを斬りミハルを救おうとした。そしてムーシャはそんなユイを力で止めた。

繋がらない二つの点に、ムーシャはいつになく張り詰めた声で口にする。


「皆さん、あれこれ言ってるけどドークさんの狙いはたぶん『体を殺させること』です!

 ドークさんは外側の体を殺されても無事だし、その上そばにいる生き物の体を乗っ取れちゃうんですよ!」


その言葉が放たれた瞬間に、レジィ以外の全員の動きが止まり。

そして、それを見計らっていたかのように、レジィが動く。


「全砲門、展開!! 構え!!」


レジィの体を中心に縦横無尽に展開された爆撃の筒ががりがりごりごりと音を立てながら、ユイを除く全員に向けられる。

『閻魔』が輝き、雷が煌めき、土が蠢き、光が溢れ。


「てぇッ!!


全てを飲み込むほどの暴虐の炎が降り注ぐ。

光も、音も、先程の流れ星の比ではない。

まるで洪水だ。視覚、聴覚を埋め尽くし、空気を押し流し、それでもとどまることのない恐るべき衝撃の暴風雨だ。


「あははははは!! ははははははははははは!!」


そんな衝撃の向こうからでも聞こえてくる、狂ったような笑い声。

爆煙と粉塵が渦を巻き、周囲を隠すその彼方、空の向こうで魔族が笑う。

空の向こうで覗く狂気と、視線が交わる。

ユイの視線に気づいたレジィは、よりいっそうの笑顔を浮かべた。


「なんにも言わずにこの体を捨てて、『ミハル』としてユイ様と幸せに暮らす……私はそれでも良かったんですけど。

 ああ、これも愛の悪戯……ばれてしまったことを悔いるより、『私』が『私』としてユイ様のお傍に居れることを喜ぶべきですよね」


『砲門』と呼ばれたレジィの装備が、彼女の周囲を埋め尽くす。

手を休めずに、ガルグに、ニイルに、ランドリューに、サバラに、光熱の恐怖をばら撒きながら、レジィは変わらず愛を囁く。


「私も譲歩します。ユイ様がどうしてもミハルがいいっていうんなら、私がミハルになりますから」


レジィの狙いは変わっていない。

レジィの願いも変わっていない。

ひたすらにユイ。どこまでもユイ。ユイの隣を手に入れる、ということ。

美しい理想に覆われた、はじまりも終わりもわからないひたすらの狂気。

その狂気に、ありきたりな名前をつけるのであれば。

執念か。

独占欲か。

それともやはり、愛、なのか。


「ミハルを助けて、私とともに過ごす。

 私を殺して、ミハルになった私とともに過ごす。

 あるいは、私を殺し、ミハルになった私も殺し、私のために貴女も死に、永遠の繋がりを手にする。

 私はどれでもでも構いませんよ? お好きな道を選んでください! 私はユイ様の選んだ道を尊重します!!」


歪む世界。

潰える希望。

ユイ一人では届かぬ未来。

口の内側に広がる血の味と、『暁星』に溢れていく願いの力。

どれだけ苦しもうと、どれだけ怒ろうと、立ちはだかる魔族の選択肢を斬り捨てる力が見えない。


「――――」


声。

聞き取れないほどの微かな声。

影。

闇に侵され爆煙に燻られる月に、人影が映る。

上空のレジィが更に上を見上げ、舌打ちを刻む。

砲門の全てが一時的に空中に向き、月に目掛けて狂った愛を撃ちまくる。


だが、影はその愛をすり抜けながら、レジィ目掛けて突き刺さる。

レジィの意思に従い守りに回された無数の砲門が、その影の脚撃を受けてまるで枝切れのようにへし折られていく。

砲門の壁を蹴りで穿ち抜いた人影がミハルに向けて手を伸ばし、レジィが空中で身を躱す。

あとわずかが届かなかった人影は、轟音を立てて地面に落ち。

そして、爆煙を霧散させながら立ち上がる。


「迷いは捨てた」


闇に溶け込むような黒髪が、着地の衝撃で生まれた風を受けて揺れている。


「それをお前が選ぶなら……私も、乗ってやる。

 それが仲間……なんだろう、ミハル」


緩やかに拳を構える後ろ姿に、闇すら飲み込む威圧感が宿っている。

魔獣も、魔物も、並の魔族ですらたどり着けない……それこそゼットやギラン・ミルジットと相対した時に感じたほどの鮮烈な強さが、空気を伝い肌を刺激する。

空から舞い降りた武闘家・コマチは、かつての仲間のユイに目を向けず、ただミハルのみを見つめ、レジィに牙を剥こうとしていた。

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