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愛故に

勇者。

その肩書はユイからいろいろなものを奪い、いろいろなものを歪めた。

レジィの差し伸べた手は、きっと本心からの……彼女の言葉を借りるなら、純粋なる愛からの行動だ。

勇者を捨てることができれば、ユイはただのユイとして生きることが出来る。

だから、『ユイが勇者である理由全てを打ち砕く』。

単純で、だからこそ絶対の救いの形だ。


レジィがユイに向ける純粋なる愛の根源が、ユイにはまだわからない。

だが、表情から、声色から、何よりかつてのユイに寄り添った言葉から、その思いの深さと真摯さが本物であると理解できる。理解できてしまう。


「理由も用意しました」


踵を縫い付けてしまうような深くて仄暗い『愛』に、色が添えられる。


「ユイ様。貴女が私に降らなければ、私はミハルを殺します。

 ミハルを助けるために、勇者をやめてください」


周囲を覆う闇の色が、一層濃くなった気がした。

ミハル。ユイがここまで来れた理由。レジィの手の内に落ち、そして今なお命の危機にあるユイにとって最も大切な存在。

ユイがレジィの申し出を蹴れば、その場で彼は殺されてしまう。

勇者どうこうを抜きにしても、絶対的で絶望的な取引だった。ミハルを人質に取られたこの状況でユイの選べる道は限られている。


「レジィ、私は……」

「はい!」


だが。


「勇者だからじゃない。とっくにただのユイだから、ミぃくんを追って、ここまで来れた。

 もう、勇者なんてどうでもいい。私は、ミぃくんと、ミハルと一緒じゃなきゃいられない。

 ただのユイとして、レジィ、お願いだ。ミハルを返してくれないか」


心の底からの願いを口にする。

ユイは、勇者をやめることを願い続けていた。でも、その根本にはミハルが居た。

ユイが勇者をやめられたとしても、そこにミハルが居なければ意味がない。

我儘さに身を任せ、喉奥から願いを口にした。レジィの手を払い除け、その上で自身の願う未来へと到れる唯一の道を口にした。


「……そんなに、こいつが大事ですか」

「私の夜明けは、他の誰でもない、ミぃくんの隣にしかない。

 レジィがミぃくんを殺すなら、私は私じゃ居られなくなる。だったらその場で死ぬ。それだけだ」


レジィの顔が歪む。暗闇の向こうでも分かる、あれは悲しみを湛えた表情だ。

頭を何度もガリガリと掻き毟り、そして、煮詰めたような濃度の憎悪を込めて口にした。


「……こんな、こんな男……ッ!!

 ユイ様と先に出会ってただけの、こんな男のために……ッ!!」


どろりどろりと空間が歪む。レジィの体から溢れ出る闇が、禍々しく蠢きそこにないはずの形を作っていく。

それは、遠目に見れば筒だった。だが、ぎらつくその筒の意味はその後すぐに理解できた。


「動くなぁ!!」


筒が輝き、空間が爆ぜる。同時に防壁を無数の爆発が襲う。

敵意を持った流れ星の正体は、あの筒から放たれる爆撃なのだ。

そして、爆撃が放たれた理由は、動き出した影達にある。


「いいじゃねえか! オマエの言う愛が本物なら本物なほど、オマエはミハルを殺せないってわけだ!!」


願いに従い拡張された『閻魔』の斬撃が空中のレジィを掠める。

空中でレジィが身を翻せば、その先にはランドリューを足場代わりに飛び上がったニイルが居る。


「フラれた所申し訳ないけど、追い打ちかけさせてもらうよ!」

「慰めの言葉は墓前に添えてやるでござるぜぇ」


煌めくような槍の一薙ぎがレジィの髪の毛を斬り飛ばす。

空中で踊るようにレジィが回れば、その場に無数の筒が現れ、爆撃を撒き散らす。


「お前たちは、関係ない!! さっさと弾けて死になさい!!」


無茶苦茶にばらまかれた爆撃たちは、ガルグを、ランドリューを、ニイルを襲う。


「正体が見えてしまえばこちらのものですよ!!」


だが、すでにサバラの詠唱が終わっている。三者の前に新たに貼られた防御壁が爆撃からその身を守り抜く。

ガルグがブーメランを投げ、ブーメランに乗ったランドリューがクナイを投げ、避けた先ではサバラが空中に展開した防御陣を足場代わりにニイルが槍を手に待ち構えている。

レジィは、防戦一方だ。ミハルを抱きかかえたまま、出来の悪い舞踏でも刻むように空中でくるくるふらふらと動いている。

時折例の爆撃で迎撃に出ることがあったが、それでも戦いの流れを変えることは出来ない。

逃げようとすれば退路を塞がれ、攻めようとしても手を退けられ。圧倒的な勢いで、レジィは追い詰められていった。


彼女が劣勢になった理由は唯一つ。ミハルを殺せばユイが死ぬ。つまり、ユイへの愛の深さ故、だ。

その事実に心が傷まないわけではない。なぜなら、彼女の口にした愛が本物だったと分かるからだ。

だが、その愛が本当だったとしても、ユイにその愛を受け止める事はできない。ユイの願いと彼女の愛は、絶対に相容れないのだから。

ならばせめて、彼女が愛したというただのユイとして、彼女の愛に立ち向かう以外ない。


『暁星』を握り、ユイも駆け出す。

体中に漲る最善良の力を『暁星』に渡し、『唯牙』を抜き放つ。

狙いは一点、レジィ本体だ。


「唯牙……ッ!!」


構えた最善良の牙が輝き、世界に蔓延る闇を食い千切る。

最善良のもたらした光に照らされたレジィの顔は、なぜか笑っているように見えた。


その表情の意味についてユイが考えるよりも速く、ユイの体が衝撃で吹き飛ばされる。


「……な、んで……」


ユイの体を叩いた衝撃。その攻撃には覚えがある。

マナの鉄槌だ。かつてギランが用いた攻撃だ。

何故今そんな攻撃が、と、地面を転がりながら目を凝らす。

ユイの視線の先には、かつてのギランがそうしたように、『宵ノ口』を振り抜いた姿のムーシャが居た。

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