頭領戦開幕
○ミハル
太陽が闇に沈み、夕暮れを飛ばして夜が始まる。
ドォン……と大きく太鼓が打たれる。
それが頭領戦開幕の合図だ。
ミハルは合図と同時に索敵に集中した。
脳内の感覚が自然と溶け合い、ぐんと広がる。
数秒で森全体を包み込んだ感覚の内側で、動くものの位置全てが感じ取れる。
その中から不要な存在に割いた意識を捨てていき、残った「頭領戦に関係あるもの」の位置を追う。
「見えたか」
「ああ」
「親父は?」
「あっちの方……凄いな、さっきの洞穴の前で堂々と待ってる」
「なんともまぁ、自信家な親父らしい。他のは?」
「森の中を移動してるけど……34人居るぞ」
「ああ、そうなのか? まぁ、4人なんてもう誤差だろ」
「言いやがる」
だが、確かに。
頭領ギルゲンゲはともかく、ギルゲンゲ山賊団の子分たちはガルグの子分五人とどっこいどっこいくらいの戦闘能力しかない。
それが、ガルグのようなリーダーに付き従うでもなく、個々別々に森の中をうろついている状況。各個撃破は容易い。
さらに視界の効かない夜の森が罠での奇襲にうってつけなのは言うまでもない。
ミハルだって、腐ってもここまで昼夜の最前線を渡り歩いてきた斥候兵だ。ここまでこちらに有利な状況なら、油断しなければまず不覚は取らない。
「じゃあ、手はず通りに頼む」
ガルグは斧を大地に刺し、アジトの前に陣取る。
背を預け、成り行きに任せて駆け出す。
こうなればもう、やるしかない。
二つの練技を同時に纏う。
一つは罠設置の速度を極限まで上げる「罠師の腕」。
もう一つは足への負担を極限まで下げつつ進軍のサポートを行う「走破の脚」。
息を殺し、夜の闇に気配を溶かし、感覚に従い敵の待つ場所へ駆ける。
まずは、三十四人を各個撃破で無力化していく。




