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「頭領戦」

洞穴を出る頃には、すでにアジト内の山賊たちに衝撃が走っていた。

親分 vs 親分代理。頭領戦が開催される。

耳が早いのはさすがの盗賊と言うべきだろう。

空気が先程までとは大違いに騒がしさを含んでおり、二人並んで歩く姿を盗み見る者も多い。


「もしかしなくとも、物凄く重大なイベントなのか、頭領戦って」

「まあな。そもそもは、野心ある馬鹿が現頭領に喧嘩を売って新しい頭領を決める大一番だからな」

「……頭領になるのか?」

「んなわけあるか。言ったろ、オレは山賊を抜けるんだよ」


宣戦布告をした以上、もうこそこそと話す必要はない。

そう言ってガルグは様々なことを話してくれた。森からここまでの道中で話したことも含め、改めて全てをだ。


頭領戦とは新頭領の座を巡って現頭領ギルゲンゲ(ガルグの父でもある)と戦うということ。

この山賊団……ギルゲンゲ山賊団は魔獣を狩り、場合によっては人から物を巻き上げて生計を立てているということ。

ガルグは幼い頃から山賊という生き方に不満を抱いていたが、ギルゲンゲがガルグが離れるのを許さなかったこと。

無理に抜ければ裏で手を回され、すぐに身分証を巡るいざこざで自由を奪われヒトガタ落ちするだろうということ。

だが、ガルグが新頭領になれば頭領の権限でガルグを退団させることが出来、諸々の手続きも簡潔になり、大手を振って山賊をやめられるということ。


しかしここで問題になる点がある。頭領戦の形式だ。


「つまり、それを解決するためにミハルを連れてきたってこった!」

「俺、って言っても、俺は何をすれば……」

「かーんたん! 頭領戦はオレ vs 親父率いる残りの山賊団メンバーだから、その補佐をやってくれりゃあいい」

「は?」

「ん? だから、オレ vs 親父率いる―――」

「ちょっと待って! 何対何の戦い!?」

「うちは大所帯だからなぁ、だいたい30人くらいか?」


30対2。

目がくらむような戦力差だ。

ユイと二人で冒険をしていた時でも、せいぜい同時に相手したのは三体までで、四体以上が近づいてきた場合は無条件で逃げていた。

それの十倍とくると、もう、想像すら出来ない。


「まあ、普通にぶつかるならちょっと無理がある。

 流石のオレも、親父筆頭に手の内が知れた相手30人相手じゃあ分が悪い」

「だったら、俺が居たって……」

「いいや。ミハルが居れば、話が変わる」


風呂上がりのためかまだ少し濡れている髪を振り、大きな体躯を少し屈め、ミハルと目線を合わせながらガルグは続ける。


「なぜなら、頭領戦はせーので始める殴り合いじゃない。山賊の頭領を決める戦いだからだ」

「どう違うんだ?」

「頭領戦は、「山賊の証」っていう小汚い玉を取り合って戦う。

 アジトと定めた場所にその玉を置き、相手を全員ぶちのめすか相手の山賊の証を取った方が勝ち、新頭領になる」


話だけを聞くと、いつか聞いた騎士訓練所の模擬戦を思い出す。


「その上頭領戦は森の中で行う。無数のアジト候補から互いに一箇所を選び、相手のアジトを探す必要がある。

 30人と言やぁ、確かに指はよく折れる。だが、森の中をウロウロしてる30人を闇討ちするなら、どうだ?」


指がよく折れる、の意味はわからないが、伝えたいことは理解できた。

成程、たしかに、アジトの玉を盗まれたら終わりという条件がつくならばガルグ一人では持て余す。

しかし、ミハルがそこに加われば。


「超広域からオレたち六人を見つけ出した索敵能力に加えて、罠を使った無傷での制圧。

 一目惚れだ。感動した。運命の出会いだよ。これ以上ないパートナー、だろ、なあ?」


そこまで褒められると、なかなか照れる。

慣れない居心地の悪さから頬を掻いていると、ガルグがその手を取り、続けた。


「今更嫌とは、言いっこなしだぜ」


手を握る力がじわりと強くなる。断れば握りつぶすという脅しか、それとも単なる緊張か。

だが、脅されずとも、断る理由はどこにもない。


「新頭領になったら……」

「あン?」

「町のことは辞める前に伝えてくれよ」

「ははは、お安い御用だ!」


朗らかな表情で応えるガルグに、ミハルの胸の不安も消える。

直感は上手く働いていた。ガルグはやっぱり、信頼してもいい人物だった。


そのまま二人でガルグの居家に帰り、頭領戦の流れを確認したあとで休息に移る。

頭領戦の開始は日が沈んでから。それまでは英気を養い、そして策を練る時間だ。

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