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第二の変態=翼を生やしたナニか



 いきなり始まってしまった、想定外×想定外の殴り合い。

 状況をただ見ている訳にはいかない。

 ここで彼らに潰しあ……いえ、見ているといよいよ状況は一方的な惨劇に発展しそうになってきました。こんな場所で魔族に勇者一行を潰されるのは国際問題を芽生えさせます。


「やはり、これしか……!」

「陛下、お気を確かに! そんな、タイツを被ろうだなんて……!」

「……? ハコベ、貴女は何を言っているの?」

「え?」


 気を確かに持てと言われても、今の私が取れる手段はそう多くはない。

 魔法なんて使おうものなら、周囲に与える被害込みでとんでもないことになりそうだ。

 何しろ魔王に即位して以来、確実にこの身の魔力は日々増えている。

 まだまだまだまだあの父に勝てる程じゃないのが癪だけど。

 でも着々と増えている自分の魔力量に、まだ慣れていない。

 魔力の増加が落ち着かないと、自分の力を正確に把握することも出来ない。

 使い慣れた生来の魔力量と、今の私の魔力量は違う。

 その誤差が、確実に魔法を使う感覚にも影響するはずだ。

 加減を誤って制御が狂うのが関の山。

 となれば、物理的に何とかするしかない訳で――


 私はただ、彼らの牽制になれば、と。


「……彼らの動きを一瞬でも止めたいの。彼らが冷静になる、そのきっかけに。だから、なるべく殺傷能力の低い手段で彼らの思考を止めたいのだけれど……前に、誰かが猛り狂う動物の気勢を削ぐのに、目の前を横切る形で何かを投げる、という手段を使っていなかったかしらと」


 だからなるべく、彼らの意識を引きやすいように目を引く色をしたものを選んだのだけど。

 結果的に、手持ちの物で、投げつけやすくて、一番目立つ色だったのは辛子色のカラータイツだったのだけど。


「なるほど、つまり彼らの目の前を横切らせることでカラータイツへ注意を逸らすんですね」

「ええ。だけどタイツだけでは投げつけるのが難しいですわね。何か重しをつけないと……何が良いかしら」

 ここは森の中。

 見渡せば木切れか石ころでも……

「それでしたら、おやつに準備していた小玉西瓜がありますよ。どうぞお使いください」

「おやつなのでしょう? 良いのですか?」

「大丈夫ですわ。小玉西瓜はあと3つありますから」

「では遠慮なく」


 私はそっと、ハコベに渡された小玉西瓜をカラータイツの中に放り込んだ。

  

 あとは、そう、ぐるぐると振り回す。

 振り回して、手を放すだけ。

 それだけで良い……人はそれを遠心力と呼ぶ。

 彼らの目の前を横切って飛んでいくように、軌道には気を付けて……


  ▶ 魔王 は カラータイツ を なげつけた!


 風を切り裂く音を鋭く後に残して、辛子色のカラータイツは真っすぐに……

 ……放物線を描くことなく、まっすぐに飛んだ。

 だけど慣れないことは、いきなりぶっつけ本番でやるものではありませんでした。

 いきなりやっても、加減というものを把握していないのに。

 ぶつかり合うラッカ・セイと勇者の間を遮るように過ぎ行きていくように狙ったはずなのに……。


「あ」

 ……しまった。

 狙いを外してしまいまし、た……。


 まっすぐシパッと飛んで。

 辛子色のカラータイツ(含む小玉西瓜)は、勇者の頭に直撃した。


   ばごぉっ


 横合いから衝撃を与えられたためか、勇者の体がよろける。

 そのまま、吹っ飛ばされるように勇者の体は地に伏した。

 

 丁度、勇者に横凪の一撃を加えようとしていたラッカ・セイ元将軍の体が硬直する。

 思わぬ事態に遭遇して、何が起きたのかと慎重さの垣間見える目で勇者を見ている。

 勇者の仲間達もまた、誰もがいきなり辛子色の直撃を食らって倒れ伏した勇者を見ていた。

 勇者よ、貴方は無事ですか……?


「ま、まさか当たるなんて……」

「陛下、お気を確かに!」


 勇者は大丈夫だろうか。

 直撃の瞬間、確かに何か(※小玉西瓜)の砕ける音がしたのだけれど。


 誰もが勇者の無事を疑う中。

 彼は不死鳥の如く蘇った。勢いよく、元気に明るく飛び起きた。


「い、いったぁ……! なんだ、何が起きた!?」


 彼の上半身は、見事に頭から真っ赤な液体(※小玉西瓜)に染まっていた。

 血液程の濃さはないけれど、辺りは陽が落ちて真っ暗。

 この暗がりで、更に『赤い』という印象が先行する状況で。


 結果、この場のほとんどの者が『赤』を『血』と見誤った。


 ちなみにそれは、『赤』に染まった本人含む。


「お、おおぉぉぉおおい、俺ぇぇええ!? ち、血ぃぃぃいいいいいいい!?」

「ちょ、落ち着け馬鹿! 回復魔法かけるから落ち着け! 暴れるな、余計に出血するだろう!?」

「あらあら、冷静になってくださいまし、そこのお馬鹿さん2人」

「殿下はともかく、誰が馬鹿だと!?」

「よく御覧なさい。血臭がしない血などありませんわ」

「……ん? あれ? これは……植物の汁、か?」

「果汁のようなモノ、のようですわね」

「果汁!? え、じゃあ俺の頭がぱっくり割れた訳じゃないってことか!?」

「なんで汁まみれになってる当人が気付いてないんだよ……」

 予想もしなかった事態を前に、おろおろ、おろおろと真っ赤な液体を頭から滴らせつつ右往左往する殿下。小玉西瓜の汁が目に入ったのか、きつく目を瞑っている。どう考えても前が見えるはずもない。おろおろするうちに、近くに生えていた木に額を打ち付けた。

「あいたっ」

 直前まで殴り合い、斬り合っていた敵を前に呑気なものである。

 普通に考えて、ここまで気を緩ませるのは異常事態だ。

 油断ならない敵(見た目は変態)が目の前にいるというのに、どうして油断ができるのか。

 それはもう、王子様が温室育ちだから仕方ないよね☆としか言いようがないのだが。

 敵対する相手がここまで油断した姿を見せれば、一刀両断! 真っ二つにされてもおかしくないというのに。

 だがしかし、魔法少女(爆)きゃらめる☆ぴ~なっつは動かなかった。

 ぶるぶると肩を震わせながら、直立不動のその姿。

 一体なぜ? こんな赤子の手をひねるような容易さで消せそうな男(西瓜)を前に、どうして攻撃をしないのか。

 答えは、3秒後にやって来た。


 ざぱーっ!!


 水が飛沫を上げるような、大きな音がする。

 それは、山奥、森の中で聞こえてくるには不自然な音。

 近場に水辺がないとなれば、尚更に。

 だけどそんな、水の派手に跳ねる音が聞こえてきた。

 何事か!? 背後から聞こえてきた音に振り返り、西瓜の汁で真っ赤に染まった視界の中……見えてしまったものに、王子様は硬直した。


「ぷみーぷまー!」


 ……なんか、聞こえた。

 それは鳴き声なのか、雄叫びなのか、よくわからないがとりあえず言えることは一点。

 野太い、オッサンの声だった。

 いきなり、王子の背後、茂みの奥で水柱が立ち上がる。

 まるで間欠泉のような脈絡のなさ。

 のっそりと、影は動く。

 のっしのっし、ずんずん。

 迷いのない足取りで、噴き上がる水の向こうから姿を現したもの。

 それは屈強な……


「な、なんだ、この不審人物は……!!」


 ……第二の変態だった。

 噴きあがる水しぶきの奥に、威風堂々とした誰かの影が浮かぶ。

 その姿を、間近にいる王子だけが見ていた。

 望まないまま、網膜に焼けつくような強さで。


「ぷみーぷまー!」


 目測になるが、体長はおおよそ2mオーバー。

 腕も足も、胸も首もタイヤのようにぱんぱんに膨れ上がり、みっちりと筋肉が詰まっている。

 肉厚な体が、まさに筋肉こそ天然の鎧とばかりに存在を主張している。

 その筋肉にはびこるものは、いわゆるムダ毛。

 全身という全身で、ムダ毛と呼ぶべき体毛がまんべんなく繁茂していた。

 腕にも、足にもムダ毛。脇には腋毛。そして胸には胸毛がもっさりだ。

 そして屈強なその肩に、茶色い毛玉の小動物(マスコット)

 全体的にふさふさしている変態は、お供の者までふさふさしていた。

 だが男の筋肉が育った体は、いってしまえばただ体格が良いだけだ。

 そこに加えて、男の恰好が酷かった。


 男の装備は、布一枚だけだった。


 真っ白な一枚布を体に巻き付け、腰のところを皮紐で固定している。

 まるでギリシア神話の某愛の神の如き格好だといえば、想像しやすいだろうか。

 そう、男の恰好は……太腿が、ほとんど出ていた。

 裾が、膝よりも足の付け根に近い長さしかない。

 膝蹴りで鉄板をへし折れそうな膝小僧が元気に露出している。

 そして背中には小さな白い翼を生やし、頭上には黄色い輪っかが浮いていた。

 よく見ると、腰に楽器をつっている。

 素朴な素焼きのオカリナだ。

 ……楽器を持つにしても、他に選択肢はなかったのだろうか。

 

 毛深く、筋肉の分厚い天然鎧をすくすくと育んできたことが窺える、その男。

 金色に近い明るい茶色の毛がもしゃもしゃと生えている。

 顔面も濃い眉にもみあげに繋がって生える顎髭・口髭と体毛が栄えている為、顔面から男の正確な年齢を測ることはできない。

 ただ眉の下には鋭い眼光が宿り、その目は見る者に潜り抜けてきた修羅場を想像させる。


 服装だけを見れば、ギリシア神話の愛の神。

 兜と鎧を装備させれば、誰もが「バイキング!!」と叫びそうな人相。

 そして水柱の向こうから飛び出して来るや否や、その両手にそれぞれ構えたチューリップの花束。


 紛うことなき、怪人物だ。


 色々と見た目にもきつく、痛い外見をしていらっしゃる。

 ラッカ・セイ元将軍と並べば、まさに双璧という感じだ。

 何故いまここにあって、見た目のおかしい人物が更に乱入してくるのかと。

 茂みの奥に身を隠したまま、ネモフィラは頭を抱えた。

 そして左右から挟み込むように見た目からして変態な二人に挟まれた勇者一行は、混迷を極めていた。


「ぷみーぷまー!」

 

 あごひげをもごもごと動かし、変態その2が鳴く。否、吠える。

 相対するのは、魔法少女(壮年)な元将軍。

 もはや勇者たちなど眼中にないのでは?

 そう思わせる真剣な顔つきで、元将軍はひたと変態その2を見据える。


「ほう……天使か。このような場所に出没するとは。これは、何かあるな……?」


 何があるっていうんですか。

 というかそれっぽい格好してるなとは思いましたが、天使ですか。天使なんですか。

 口を挟みたい。でも飛び出していく勇気もない。いや、立場的に飛び出せない。

 状況がツッコミを許さない中、ネモフィラは思わず叫びそうになる口を押えた。

 しかし彼女が口を挟まずとも、この場には代わりに声を上げてくれる人物がいた。


「天使ってアレがかよ!!」


 王子のお目付け役、ロニウス公子。

 王子のお馬鹿に長年忍耐強く向き合い続けた、希代のツッコミ青年だった。




 

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[一言] こっちでも天界に不安しか感じない…
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