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外道の呪い=キャラメル♡ぴ~なっつ

ちょっとラッカ・セイ元将軍の描写をしているだけで随分と文章が濃くなってしまいまして。

他の話をしても印象が薄くなるかな? と懸念した結果、ラッカ・セイ元将軍の描写だけしか今回はしていません。

読まなくても良いな! と思われた方は飛ばしても大丈夫です!

ラッカ・セイ元将軍の哀れな窮状と言動が気になる方はお読みください。

 

 暴虐の化身は、目にも眩しく痛い、鮮やかなパッションピンクの衣を身に纏っていた。

 頭にも髭にも白いものが混じっていたが、その威風堂々たる姿に老いを感じさせるものは他になく。

 むしろ顔に刻まれた皺ひとつとっても深い経験と威厳を感じさせるばかりだ。

 年齢の分かりにくい魔族にあって、壮年と一目でわかる年輪の刻まれた姿。

 だが衰えたところは少しもなく、年数を重ねることによって培われた深みが男の器を底知れないほどに強くしている。


 そんな、単品で見れば武人として理想的な年の取り方をした姿も。

 今は無惨なパッションピンクの衣装に包まれている訳だが。

 威風堂々たる立ち姿も、火の粉と灰が混じる風に煽られてぴらぴら揺れるミニ過ぎスカートが全てを台無しにしていた。ちらちらちらちら、スカートの下から覗く白いレースのペチコートが人目を誘おうと必死に努力しているように見えて、逆に人々はそっと目を逸らす。


 男の名は、ラッカ・セイ。

 先々代の王……つまりはネモフィラの祖父の御代において、四天王の一人に名を連ねた漢である。

 そんな過去の偉業が、一瞬で台無しになる姿をしてはいたが。

 元はネモフィラの祖父に任されて軍部を掌握し、武人として愚直なまでにまっすぐ主に仕えたという。

 それも先々代の王と世継ぎの君たる第一王子が不慮の死を遂げ、ふらふら無責任に放蕩していた第二王子……ネモフィラの父がうっかり即位してしまうまでの話だったが。

 王の代替わりによって四天王の任は解かれたものの、彼は責任感の強い男だった。

 そんな彼に、嗚呼……なんと残酷な仕打ちだろうか。


 魔王としての教育も不十分な状態で、いきなり即位した魔王を彼は気にかけたのだ。

 それは全くの、余計なお世話だったようだが。

 無軌道に自分勝手に、己の欲望のまま好きに振る舞う魔王にとっては、特に。


 度々口煩く小言を重ねてくる男のことが、煩わしかったのだという。

 また進言される内容が、これまた見事に正論ばかりで。


 魔王が正しき王道を進むようにと心を砕いたかつての四天王は、尽くそうとした魔王当人によって罠に嵌められ貶められた。

 何があったのか正確なところは、ネモフィラも知らない。

 だけどくだらない賭け事に巻き込んで、ネモフィラの父がラッカ・セイの身包みを剥いだのだということだけは知っている。

 その上で、人前に到底出られないような姿(※ピンクのミニドレス:フリル過多)しか着るものがないという状況に追い込んだのだと。

 それを人づてに聞いた時、ネモフィラは自身の父に対して思った。

 ――鬼か、と。


 しかもラッカ・セイの不幸はそこで終わらなかった。

 ほぼ強制的にパッションピンクのミニドレス(※逞しい成人男性サイズ)を着用させられた後で、そのパッションピンクのミニドレス(※屈強な成人男性サイズ)に悍ましい呪いが二つもかけられていたことを知ったのだ。

 呪いの一つは、呪われた装備にありがちなモノ。


 脱げないんだ。


 脱げなくなってしまったのだ。

 腐っても魔王のかけた呪い、そんじょそこらの術者には手も足も出ない。

 呪いをかけた当人(※当時の魔王)が呪いを解くか、死ぬかしない限りラッカ・セイは未来永劫パッションピンクのミニドレス(※歴戦の荒武者サイズ)を脱ぐことは出来ないのである。

 ピンクのドレスから解放されることも、叶わず。

 ラッカ・セイは魔王国から姿を消した。

 親しい友人知人、家族親族その他に変わり果ててしまった己が姿を見られることを苦にしての失踪であった。

 そうして脱げなくなっただけでなく、もう一つ呪いが潜んでいたことをラッカ・セイはさほど時間をかけずに知ることとなる。

 クズの化身と謳われた、当時の魔王がかけた最低な呪いを……。


「こ、この惨状は一体……あ、怪しすぎる奴め、お前は何者だ!? イヤほんと、マジで何者なんだよ!?」

 王子の、取り乱しきった誰何の声が聞こえる。

 それに応じる、ラッカ・セイの渋くて低い苦み走った声も……


(それがし)はマジカル☆フェアリー……魔法の国よりこの世の善を保つため遣わされた、愛と希望の使者マジカル☆フェアリィ……!!」

「……えっ」

 謎の文言を呟き始めた、ラッカ・セイ。

 何を言っているのか、ネモフィラ達と同一の言語を使っている筈なのに……何故だろう、不思議なことに言葉が耳を滑ってよくわからない。理解不能と、脳が言語の受信を拒んでいる気がする。

 しかしながら残念なことに、表現はアレだが言っていることは間違っていない。

 魔族の中でも妖精に分類される種に該当するラッカ・セイ元将軍は間違いなく、正真正銘、妖精さんだ。ちょーーーーっとばかりすくすく元気に育ちすぎて、おまけにちょーーーーーーっとばかり屈強ムキムキな筋肉を身に着けてしまっただけで。

 彼は間違いなく、魔(族)の国からきたマジカルなフェアリーさんなのである。

 そんな素性とはかけ離れすぎたごつくでデカくて人を五~六百人殲滅していそうな鋭すぎる眼光と顔面を縦横無尽に走る傷跡の効果で、とてもそうは見えないのだが。

 怪訝な顔で混乱する者どもの戸惑いなど、意にも留めず。

 ラッカ・セイはカッと目をかっぴろげて力強く宣言した。

 今の己の、名と信条を。

「我が名は魔法少女キャラメル☆ぴ~なっつ!! …………世界の子供たちの夢と希望を守る使命を果たす為、いま、悪の化身の命脈を絶たん!」


 異様な恰好をした壮年のマッチョが宣言した言葉に、世界の時が止まった気がした。


 レースとハートのチャームがこれでもかとくっついた桃色リボンが巻かれた、数々の戦場での逸話を感じさせる使い込まれたクレイモア。

 それを掲げ、構えを取る堂に入った自称『魔法少女』。

 少女と呼ぶにはとうが経ちすぎている上、性別も外見も程遠い。

 だというのにはっきりと己を魔法少女だと断言する白髪交じりの屈強な壮年男性。

 異様過ぎて、いっそ畏怖すらしてしまいそうだ。


「ゆ、ゆめときぼうをまもるって……むしろ破壊してゴリッゴリに粉砕しそうな恰好で訳の分からないことを……ハッ まさかこの山に出る妖怪って!? お前だな!!」

 

 思考停止の果てに勇者が何やら断言しているけれど、違います。

 彼はただの被害者。

 言動がどれだけ怪しく不気味でも、彼は先代魔王の被害者なのです。


 ……先代魔王が、王国の忠実な武人ラッカ・セイにかけた第二の呪い。

 それは……それは、一種の精神汚染だった。


 呪いをかけられた者は、己を『魔法少女』だと思うようになる、らしい。


 記憶や人格に齟齬をきたすことなく、ごく自然に『自分は魔法少女』だと思い込むようになるのだ。そんな高度で繊細な技術をつぎ込まれたくだらない呪い、ネモフィラも他には知らない。

 彼女はその呪いの存在を知って、自分の父は血も涙もない真性の外道だと確信した。



魔法少女キャラメル☆ぴ~なっつ

 本名:ラッカ・セイ

 先々代魔王の忠臣、元四天王。

 外見年齢五十歳前後、実年齢不詳の武人。

 小言を煩わしがった先代魔王(ネモフィラの父)によって呪いの『魔法少女なりきりドレス』を着ざるを得ない状況に追い込まれる。

 以来、脱げなくなったドレス姿を身内に見られたくないが為に国を出奔。

 自分のドレス姿を唯一どうにかできる先代魔王を打倒する為、修行行脚している。

 本来の性格は生真面目で誠実、責任感が強い。

 

 ちなみに種族はコロポックル。

 本来は手のひらサイズの一族だが、突然変異で育ちすぎたらしい。

 先々代魔王の紹介で他の一族から嫁を貰い、本人は知らないが最近玄孫に子供が生まれたらしい。

 ※妖精の多くは妖精国に住んでいるが、邪悪な妖精の一部と東洋の妖精は魔族に分類される。


『魔法少女なりきりドレス』

 先代魔王(ネモフィラ父)の無駄な魔法技術の粋がつぎ込まれた傑作:呪いのアイテム。

 着用した者には1.脱げなくなる。2.自分を魔法少女だと思い込むようになる。というえげつない呪いがかかっている。

 破損して結果的に脱げた、ということがないようにドレスには以下の機能が備わっている。

 1.一日に二回自動で着用者ごと汚れが全落ちする洗浄魔法が発動する。

 2.破損は自動修復する。

 3.着用者がポーズを取ったり戦闘行為を行うと自動でラブリー☆ピンクなエフェクトがかかる。

 4.ドレスを無理やり脱がそうとした者にはラブリーな呪いの使者がハートを五日間ほど振りまきに来る。そして脱がそうとしてもドレスは脱げない。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「某はマジカル☆フェアリー……魔法の国よりこの世の善を保つため遣わされた、愛と希望の使者マジカル☆フェアリィ……!!」 お、俺の目には“マジカル”に『本気狩る』と悪の化身を打倒せんが為に…
[気になる点] なんとなく、この勇者達に「魔王がこんなふざけた呪いかけまくって、無関係な女の子に責任全部押し付けてバックレたんです!」って言って、前魔王に賞金かけたら、討伐してくれないだろうか……(^…
[気になる点] らぶりーなのろいのししゃ…(白目)
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