バングル典雅文明王国の使節団
俺はひと月ぶりに、不死鳥騎士団城の団長執務室でリューイと机を並べて書類整理に追われていた。
リューイが「団長決裁待ちの書類が沢山ありますからね、頑張ってやっつけて下さいね」ニッコリ笑いながら書類の束を抱えて持ってくる。
俺はしぶ~い顔して「そんなもん、お前がやりゃいいじゃねぇか。」
リューイは「規則を守らせる立場の人間の発言とは思えませんね」と言い返してくる。
俺が言い返そうとしていると
コンコン
来客を告げる、扉をたたく音が二人の会話を遮った。
リューイが扉を開けて「いらっしゃい、男爵」と笑顔で迎える。
扉の向こう側に立っていたのは、ツヴァイス・カーゼナル男爵だった。
俺が大きな声で「おお、よく来たな入れよ。」
ツヴァイスは遠慮がちに
「いえ、お忙しそうなので、顔見せに立ち寄っただけです。」
机の上に載っている書類の束を見て言ったのだろう、、、
「そうか、今日から登庁か!いよいよ本格的に動き出すんだな領主適用試験課。」俺が書類の束の合間から顔を出して微笑み語り掛ける。
男爵は「はい、先日アグシス国務長官とお話しさせていた内容だと、いずれは領主に限らず、上級文官試験なども行っていくとの事です。」
「そうか、お前もアースウェイグ帝国の要となる人間になったんだな」
書類の束が乗った机をひと回りして身長195センチ細身赤髪の武神将らしくない俺が、黒色の襟の着いた上下の正装を着た、ツヴァイス・カーゼナル男爵に近づき胸を拳で軽く叩いて力いっぱい抱き寄せる。
「ランガードさん、いたい、いたいですよ~」
リューイが笑いながら「遅刻すると、長官に怒られますから、その辺にしてあげて下さいよランガードさん」
俺はツヴァイス・カーゼナル男爵のお尻を叩いて「行って来い!!」と励ます。
ツヴァイスは俺とリューイに会釈して、職場に向かっていく。
リューイが感慨深げに「人って変われるもんなんですね。」
俺はニヤッと笑い「教師が良いからな」
「教師が生死を彷徨うような指導はまずいでしょ。」リューイが言い返す。いつものやり取りだ。
コンコン
本日、二人目のお客様だ。
銀色の瞳に身長180センチと女性にしては背が高い銀鈴の美女シュシィス・スセイン氷結の女王だ。
リューイが礼節を持って丁寧に扉を支えて、招き入れる。
小さな顔を腰まで伸びた、真っすぐの銀髪を揺らして、会釈しながら執務室に入って来る、ランガードの美しき婚約者。
「お弁当を作りましたので、お持ちしました。リューイさんの分もありますから一緒に頂きませんか?」
「よろこんで、ご相伴させていただきます。」
「よし、じゃ昼飯にするか」俺がウンザリする書類から逃げだして、客間の椅子にシュスと共に横並びに座る。
リューイが向かいに一人で座る。
コンコン
そこに本日、三人目の来客である。
リューイがすぐさま扉を開けると、リスティアード皇太子殿下がレィリア・アストネージュ金獅子近衛騎士団団長と共に立っていた。
リューイがびっくりして
「御用がありましたら、こちらから伺いましたのに、、、」
皇太子はウィンクしながら「そんな、大した用事じゃないから気を使わなくて大丈夫だよ。」優雅に音もなく歩く皇太子と共にレィリアが「お邪魔するわね」と綺麗な高い声でリューイの前を通り過ぎる。
客間に入って来た、リアードとレィリアにシュスは立ち上がり、挨拶をかわす。俺は座ったまま「なんか用か?」と愛妻弁当を食べながら聞いた。
レィリアが呆れ顔で「あなたは、立場が変わっても婚約しても何も変わらないのですね」
「言っておきますが、褒めてる訳ではありませんよ、その逆ですからね」
リアードが「そのお弁当、美味しそうだねちょっと頂戴よ。」手を伸ばしてくる王子に俺は「大将はもっとうまいもん食えばいいだろ!王子様なんだからよ」と言って、弁当を抱え込む。
「リアード様、お口汚しでございますが、よろしければ私のをどうぞ召し上がり下さい。」シュスがそっと、自分のお弁当を差し出す。
「悪いね、それじゃありがたくいただくよ」喜び食べるリアード「うん、美味しいね。この味付けはアーセサスより薄くて上品でいいねぇ~」
俺は弁当を食いながら「そんで、何の用だよ大将?」
リアードは口に一杯お弁当を頬張りながら「うん、それはねぇ~」
レィリアが横目で冷たく見つめながら「リアード、はしたないですよ。」
「ごめん、ごめん、バングル典雅文明王国って知ってる?」
俺はちょっと考え込み「一度行ったことがあるな、大陸中央にあって、大陸街道がいくつも通ってるとこだろ」
「なんか気位だけ高くて中身のねぇ連中が多くて、俺には合わなかったがな」
大陸街道は東西南北に伸びた、整備された大きな道で商業や貿易の主要な道になっていた。
その大陸街道が交わるのがバングル典雅文明国首都バーゼルだ。大陸中の商業と文化の中心と言われ貿易で発展した国である。
よって、大陸中の最先端な雅の風潮をいち早く取り入れた最大の文化国家である。
建国はアースウェイグ帝国と並び、最も古い歴史を持つ。
リアードは微笑みちょっと、お弁当を食べる手を止めて俺を見つめる「そのバングル典雅文明国の第一王子がね、【宮廷歌人】ベルファム・ソーンと言う人物を連れて、明日黒曜天宮に使節団として来られるんだよ。」
俺は怪訝な顔をして弁当を食べながら
「は~ん、なんの為に来るんだよ」
リアードは困った顔をして
「【宮廷歌人】ベルファム・ソーンと言う人物が、今大陸中で話題になるほど人気があってね、そのお披露目じゃないかな?」
「なんだそりゃ、その何とかって歌人を自慢しにわざわざ黒曜天宮にくるのか?」俺は愛妻弁当を口いっぱい頬張りながら喋る。
レィリアが冷たい視線を浴びせる。
リアードも弁当を食べながら「それでね、武神将と准将は全員出席してほしいんだ。」
「アースウェイグ帝国は尚武のお国柄だから雅な流行なんて持ち合わせていないからさぁ、せめて誇りだけは示そうという事でよろしくね」
「それとシュスも列席してもらっても良いかな?」
シュスが可愛らしい小さな口を開き「私でよろしければ喜んで出席させていただきます。」
「ありがとう。」弁当を全て平らげて、「ご馳走様、それじゃ明日の晩にね」と言い、リアードは席を立ちあがる。
それに合わせて、シュスも立ち上がり扉まで見送る。
俺は座ったまま「大将も忙しいんだな、それじゃな」と言う。
最後まで冷たい視線のレィリア・アストネージュ金獅子近衛騎士団団長だった。
昼食を取った後は、山積みの書類と命懸けの格闘を始める、ランガード武神将と優秀に補佐するリューイ准将であった。
シュスは二人にお茶を入れ、部屋を後にする。
自分がいても、職務の邪魔になるだけだと判断したのだろう誇り高く、背もすらりと高く、配慮もできる、美しき氷の女王は優美に歩き去る。




