陰謀
ヴォルグス砦城主ロリーデ・ガルクスは元帝国騎士団准将であることがわかると嵐・守護は真剣勝負を挑む。
ミハムはロリーデ・ガルクス城主の信頼ある部下たちに世話をさせてもらっている。
ここは城主の執務室らしい大きく立派な机を挟み二人だけで話ている。
城主から話しかける
「お話の前に、アストネージュ伯爵にミハム様のご無事をお伝えしてもよろしいですかな?」
俺は普段と変わらず
「かまわねぇよ」
ロリーデ城主は両の手に拳を作り胸の前で交差させて両眼を閉じる。
しばらく、じっとそのまま動かない。
そっと両眼を開ける。
「アストネージュ伯爵はミハム様のご無事を大変喜んでおりました。2000人の騎兵をこちらに派遣されるそうです。」
嵐・守護はメイラの事を思い出しながら
「真魂交神か?」
ロリーデは驚きを隠さず、目を大きく開いて
「真魂交神を御存じでいらっしゃる。」
びっくりしながら言う。
「こう言っては失礼ですが、傭兵の方が【真魂交神】を御存じとは思いませんでしたので」
「私とアストネージュ伯爵は20年来、武神将と准将という立場でお仕えさせていただいていたので【真魂交神】しております。」
「それで、私と二人でお話とは?」
俺は淡々と話した。
「ミハムは従兄弟の所へ行った帰りに襲われたそうだ」
当然の様にロリーデは聞いてくる
「護衛はいなかったのですか?」
また、淡々と俺は答える
「100人正規兵が護衛していたそうだ」
ロリーデは黙って考え込んだ
「・・・・」
俺は話を続ける
「盗賊や夜盗の仕業じゃねぇよ」
「わざわざ、正規兵100人を相手に喧嘩売ったって自分達の被害の方がでかいに決まってる」
「そんな割の合わない仕事はしねぇよ」
「しかも、護衛の隊長は1000人からの傭兵部隊【碧緑の団】に襲撃され、すぐさまミハムに10人の護衛を付けてシャガの町に逃がしたんだが」
「シャガの町で護衛の10人はおそらく殺された」
「そもそも、1000人の【碧緑の団】を動かして襲撃させるだけでもおかしな話だぜ」
と、それからの成り行きを一通り話し終えると
ロリーデ城主が静かに俺にだけ聞こえるように話す。
「嵐殿はでは今回の事件はただの襲撃事件ではないと?」
俺は敬語とか貴族、上官に対する時も言葉使いは変えない。時にはそれが原因で、ちょっとしたトラブルにもつながるのだが、俺は変えない。
「ああ」
「間違いなく、こりゃ宮廷内の陰謀だ」
「ミハムが死んで得する人間はいるか?」
ロリーデは更に声を潜めて喋る。
「アストネージュ家はレイリアお嬢様が現在の金獅子近衛騎士団首をお務めで、伯爵家も継がれるのではないかと言われております。」
「こう言っては何ですが、ミハム様がいなくなって得する者などは想像できませんな」
相変わらず嵐は吐き捨てる
「おりゃ、宮廷内のゴタゴタなんて全くわかりゃしねぇし、わかりたいとも思わねぇしな」
ロリーデは逡巡して
「一応伯爵のお耳には入れておきましょう」
俺は言いたい事を伝えたので
「そんじゃ、俺が言いたかったことはこれだけなんで、ミハムをよろしく頼むよ」
ロリーデが嵐を引き留める。
「もう少しよろしいですかな?」
「アストネージュ伯爵より本来なら伯爵ご本人より感謝の意を嵐・守護殿に表したいのですが、お互い事情や都合も御有りだろうからと嵐・守護殿に何か褒美を与えてほしいとの事です。」
俺はいつもと変わらず
「別に何もいらねぇよ」
ロリーデが驚きの表情で諭す様に話しかけてくる。
「これだけの功績をあげて、褒賞を辞退すると、、、」
面倒くさく成って俺は言う。
「辞退とかなんとか、難しいことはわかんねぇが、何か欲しくてミハムを助けたわけじゃねぇしな」
ロリーデは相変わらず諭す様に言い続けてくる。
「信賞必罰は武門の原則」
「此度の嵐・守護殿の働きは充分な褒賞を得るべきかと思いますが、、、」
面倒くせぇなぁ「・・・・」
俺はその時、閃いた。
「それじゃ、ひとつ頼みがある」
「なんなりと」
俺は体を前のめりにして目を輝かせていた。
「あんたと真剣勝負したい」
ロリーデは褒美を出すと言っているのに何をこの若者が言っているか一瞬理解できず。
「はっ?」
俺は重ねて熱心に言う。
「いや、だからあんたと完全装備で真剣勝負がしたい。」
ロリーデは動揺を抑えるようにあえて静かに語る。
「どうして私のような者と真剣勝負などと」
俺はわくわくする気持ちを抑えきれずに
「大陸最強を誇る帝国騎士団の元副団長と今の俺との間にどれくらいの力の差があるのかこの身で感じたい」
ロリーデはやっと理解した。
「あなたは強さを求めていると?」
嵐・守護は物凄く疲れているにも拘わらず、鼻息荒く
「ああ、俺はもっともっと強くなる」
ロリーデは子供を諭す様に
「なぜ強さをお求めになりますかな?」
俺は今まで何度も言ってきた同じ事を繰り返した。
「ただ、俺の周りにいる人間が普通に過ごせるように守りたいだけだ。」
「この世界全てを平和にしようなんて思っちゃいねぇんだ」
「俺の知ってる人間、世話になった奴や好きな奴らがただ、平穏に過ごせるように守りたいだけだ」
「ダチが目の前で、殺されるのはもうこりごりでよ」
「今回の事だってそうだが、俺が滅茶苦茶強くて名前を聞いただけで、敵が恐れをなして襲ってこないくらい強ければ、愛馬も死なずに済んだ」
思わず拳を力強く握ってしまった。
「だから強くなりてぇ」
嵐・守護の幼い頃から渇望する【力】への欲望。
ただそれは、他人を虐げるための物では無く、守る為に強く成りたいと願う渇望。
ロリーデは嵐・守護の目を真っすぐに見つめて考え込む。
「・・・・」
「愛馬にまで、、、」
「いいでしょう、明朝、中央広場で試合しましょう」