3-42 進展3
ヒィィな事態から俺も落ち着き、昼は直ぐそこの露店群で調達した。
落ち着いたことには落ち着いたが油断するわけにはいかず、ホもしくはペと腐と同じ空間に閉じ込められるわけにはいかず、露店群にほど近い所謂フードコートで話し合いが再会された。
ここなら他人の目があるからまだ安全だ。周りからはきっと老人と孫2人みたいに見えるんだろうなぁ。
「それでウィル君が私に隠していた理由は何ですか?」
「理由ですか?建前と本音と冗談のどれが良いですか?」
「・・まずは建前で」
「ちなみにそれ以外は答えませんよ」
「じゃあ本音を」
「うーん、大元の理由ではありませんが、端的に言うと供給量を誤魔化したかったからです」
「供給量ですか?」
「ええ。多分それがヴェルトリーさんが言っていた興味の答えでもあるでしょう」
「ほほぅ。では儂がどのような事を考えた分かるのか」
「作ったら分かると思いますが、原材料の値段と供給量、製作難度、生産効率から考えておおっぴらに売られてない理由が分からなかった」
「ふむ。中々の読みじゃ、確かに似たような事を考えておった。そしてお主の答えがあれか。・・・・・・・お主は商人ではなく為政者の様な考えをするのぅ」
「そうですか。では紙作り頑張って下さい」
「そこは止めんのかのぅ」
「いえ、その内誰かが。でしょうから止める意味はありません」
「ほほぅ、前に何ぞあったのか。例えば手押しポンプとかで」
・・・手押しポンプは大々的に品評会を開いたから、俺の事を覚えている者も多いだろう。
それにしてもこの老人は誰から情報を仕入れたんだろうか。
「露骨な具体例ですね。さてどうでしょう」
「ねぇウィル君。手押しポンプが露骨ってどういう意味?」
「そっちも知らんかったか。この者はあの手押しポンプの発明者でもある」
「えええーーー!!」
近くに居た者達が何事かとこちらの席が注目を集めた。
「店主さん、声大きすぎ」
スピーカー2号と命名したろか。
ちなみに、元祖スピーカー改めスピーカー1号ことナタリーは最近会ってないが、どうも前よりはお淑やかになったとの情報を得ている。
「あぅ、ごめんなさい」
「若者は元気があるのぅ」
「そうですなぁ。若者の特権ですかな」
注目されたのも直ぐに引き何事も無かった様に会話が再開された。
「それでウィル君があの手押しポンプも作ったて言うのも本当なの」
「あのっていうのは違いますが、原形はそうです」
「細かいわね。でも・・そう、そうなんだ。あの手押しポンプのおかげで随分水汲みが楽になったのよね」
「うむ、儂も知った時には驚いたもんじゃ。この都市で発明されたアレは王都はもちろん、それを越えてトュベリアンまで瞬く間に普及したと聞く」
あ、そうなんだ。久しぶりにアレの話を聞いたな。
そうかぁ、アレはこの国で認められたかぁ。
「あれ?ちょっと待ってください。アレが広まったのって確か都市奪還作戦があった386年だったはず。今年は393年。・・・一体あなたがいくつの時よ」
「言っときますけどボクは同い年の子に比べて僅かに、そうほんの微々たる量ですが背が心持ち謙虚です」
察せよスピーカー2号。
「あっ・・・そうなんだ」
「まぁ、つまるところコレに関しての対応はこれまで通りと言う訳です」
これまで通り。つまりこの老人と関わらない方が得策っぽいという判断をした。
「残念じゃのう。お主が積極的なら後援者なりを紹介したんじゃがな」
「後援者・・ですか?」
「そうじゃ。お主はこれからも画期的なものをいろいろ作るじゃろう。じゃが入手困難なものや何かあった時のため、そういう者を用意しとくべきじゃと儂は思う。お主程の者なら受け入れてくれるだろう者に数人心当たりがあったんだがのぅ」
「そうですか。ではご縁が無かったということで」
「そう急かんでもよい。お主はコレをどういう風にしたいんじゃ」
老人は紙を持って問うてきた。うーん・・・・
「・・・・仕事かなぁ」
「・・商会長か」
「いえ」
「まさか工房長か」
「いえ」
「・・・一職人なんて間違っても言うではないぞ!」
なぜこの老人は剣呑な雰囲気を出しだしたんだろう。
「もちろん否ですよ」
「お主は仕事にしたいと言うたではないか、あれは冗談か」
「本音ですよ」
「ほう。一体どういう事かこの老いぼれに説明してくれんかのぅ」
剣呑さが増した。
「ボクはコレを仕事にしたい、それは本当です。
ただ、・・・ボクはコレを職人の仕事ではなく市民の冬仕事にしたい。・・コレをどういう風にしたい、のボクの答えです。まっ、ゆくゆくはですけどね」
「・・・・・・くくくっ、そうかそう来たか」
老人が纏っていた剣呑さは霧散し、しきりに頷き始め、一頻頷き終えると今度は質問を始めてきた。
「して、なぜ冬なのだ?閑散期で良いのではないのかえ」
「最もな理由ではありませんが。冬ってしばらく外に出ようにも出れないでしょう。だからそんな時期に作業場に籠れば良いと思うんですよ。他の時期にわざわざ籠ってまで作業する必要はないと思うんです。それに原材料の関係で秋から冬が最も良いのではという事もあります」
「確かに理由としては弱いの。作業場はどうする?各家につけるのは並大抵の努力では足りんぞ」
「それなんですが、共同洗濯場に併設してはと考えています。水の確保も容易ですし洗濯場の様に共同使用前提です。まぁ、洗濯場同様吹き抜けですので冬とは矛盾しますが」
「確かに先の話と矛盾するが今はよい、共同使用と言うのも悪くない案だと思う。原材料の調達や販路はどうする」
「そこまで練っていません。まぁ個人で調達したり販売したりするのは中々に大変ですから、農林業者協会の様に種の代わりに原材料を、販売先の一つとしても、という様な組織が必要なのかもしれません」
「農林業者協会の様な組織か。・・・」
「まっ、老いぼれさんが臨終するまでに実現しないでしょう。ボクの半生位掛けてゆっくり進めていくつもりでした」
「儂を老いぼれと呼ぶか」
「うん?自称老いぼれでしょ、さっき仰ってたはずですが?・・・ああ失礼、難しいお年頃というやつですね。申し訳ない」
うんうん、他人からは年寄り扱いされたくない微妙な年齢なんだなこの老人は。見た目すっげぇ年寄りなんだけど。
人生あるあるだね。大人に見られたい背伸び子どもや、自分ではお兄さんだけど子どもからおじさんと呼ばれ微妙な気分になる。うんこれもあるあるだ。
蔑みの目から生暖かい目にチェンジしておこう。
「そんな目で見るでない!」
なん・・・だと・・・・
この老人は蔑みの目が好みだと言うのだろうか。恐ろしくレベルの高い老人だ。
再び蔑みの目にチェンジし、その後はおべっかと当たり障りのない会話に終始した。




