3-37 ?の正体
冬の上月に突入した。
今年は昨年程切羽詰まっていないので、暖房用の薪も用意し程々に魔術で代用することになった。
ただ今年は冬仕事のための藁やワタも用意したので完全な暇にはならないだろう。
程々に作業をして程々に魔力を使う、何だかんだ忙しかった今年とは思えないほど穏やかな日々が続いた。
「うん?」
今年もあの球形のプニプニしたものを見つけた。
「おかしぃ」
今回見つけた場所は板と棚板との間なんていう見つけにく場所ではなく、サウナ石の塊近くの床に落ちていた。
プニプニ
相変わらず良い手触りだ、これは白玉ぐらいの硬さかな。
プニプニ
流石におかしいので、今回は両親に聞いてみるか。
プニプニ
「おはよう、ねぇ父ちゃんこれ何か分かる?」
「これは・・・・こんなもの何処で拾ったんだ」
「朝起きたらサウナ石近くの床に落ちてた」
父は目を瞑り何か考えてから、
「ウィル、これはリグルスライムだ」
「リグルスライム!」
魔物じゃん。
「ああ、まぁ別に危険な魔物じゃないから気にする必要はないがな」
そう言うと父はまた目を瞑り何やら考え出した。
「どうしたの?」
「ウィル、リグルスライムとは何か教えたな」
「うん、魔素溜まりに発生する魔物でしょ」
「ああ、本体はそう動くものでも無いから外から入って来た訳ではなく、部屋の中で発生したことになる」
「・・つまり家の中に魔素溜まり出来てるのか」
「そうだ。兵の訓練場でも魔術兵団が使った次の日などにはたまに見かける」
「魔術を使っても魔素溜まりは出来るってことか。暖房用にかなり魔術を使ってるのが原因かな」
「ああそうだろうな。ちなみにこれ1匹か?」
「隅々まで探してないから分かんない」
「無いとは思うが、リグルスライムが5匹以上居たら換気なりして魔素を散らしなさい」
「5匹以上?」
「リグルスライムが10匹以上居るような魔素溜まりには魔物が寄って来たり、危険度の高い魔物が発生すると言われている。だからその半分以上居たら散らしなさい、いいな」
ほぉ、そうなのか。
「了解」
危ない橋は渡るつもりは無い、特に家の中なんて絶対だ。
父は返事を聞くとリグルスラムを持ったまま立ち上がった。
「どうするの?」
「捨てて来る」
「飼っちゃダメ?」
白玉みたいな感触が素晴らしいんだよな。ああ、あの蕨餅みたいなやつも捨てるんじゃなかった。
「・・・飼うだと、こんなのでも魔物だぞ」
「危険はないんでしょう。魔素溜まりに発生するってことは彼らにとって魔素はエサに当たるのだと思う。だからそいつを置いていたら勝手に魔素を消費してくれて散らす手間を省けるんだと思うんだけど」
「確かにリグルスライムは魔素をエサにしていると言われているが、ううん・・・・・」
「あらいいじゃない」
おや?母が援護してくれるのか。
「何かを育てるのはとてもいい経験よ。エサ代も掛からないし家計にも優しいわ」
母の援護もあって、リグルスライムを飼えることになった。
起きてきたリュートとフェリにも紹介しよう。
「2人ともおはよう」
「おはよう」
「おはよう」
「それでコレ見て」
「ん?・・・うーん何か前にも見た気がする」
「お兄ちゃんが去年持ってるの見たじゃない」
「うんそうだね。去年のは捨てちゃったけど。それでコレ実はリグルスライムだという事が分かりました」
!?
「リグルスライム~」
「うん、生まれたての個体でずいぶん小っちゃいが間違いないらしい」
俺が手を出すと、手に置かれたのをおっかなびっくり触りだした。
「やわらかい」
2人が一頻楽しんだあと、飼う事の報告をしたらまた驚いていたけど特に異論はでなかった。
その後藁を編んで鳥の巣の様な飼育スペースを確保し、しばらく観察してから今日の作業を始めた。
観察中やつは一切動かなかった。生まれたてだからかな?
とりあえず折りを見て計測機器を作って成長記録でもつけようか。体長に体重、これ位ははかるか。
その後部屋を浚ってみたが、この1匹しかいないようだ。
冬仕事や訓練をしつつ1週間が経った。
この1週間で僅かに変化しているのは間違いない。体長は測定精度がわるいため何とも言えないが、秤で量っている体重は間違いなく増加している。
「うん?今動かなかったか」
ジーーーーー・・・・気のせジ―――――――――・・・気のせいか。
プニプニ
朝の観察も終え家中を回り家の温度調整をしていると、
「兄ちゃん」
リュートがやって来た。
「どうした?」
「これ見つけた」
リュートの掌の上にはこれまたビー玉程のリグルスライムがのっていた。
「おお、どこに居たんだ?」
「あそこー」
指差した先はダイニングの暖炉の辺りを指していた。
「この部屋にもいたかぁ」
子ども部屋だけじゃなかったか。
「ねぇ、飼っていい?」
「大丈夫だと思うよ、一応話しといで」
1匹も2匹も変わらんさ、エサ代掛かんないし。
リュートが母に話を通しに行って、少ししてから母がリュートとフェリを連れて出て来た。
「ねえウィル」
「うん、分かってる。これは家中くまなく探す必要があるみたいだ」
もう2部屋で見つかっているため他の部屋にいないなんて断定はできない。
5匹以上見つかれば換気をする必要があり、さらに場合によっては魔術の頻度を下げる必要がある。そうなると薪の消費に直結するため母が気にするのも分かる。
皆で手分けして家中を探し始めた。
「今の所いないわね」
「うん、いない」
「こっちもいなかった」
各部屋の家具の隙間まで探したが、今の所発見には至っていない。
「あとは、・・・はぁ」
あとは下から見えない場所、つまり上を走っている横架材の上面の確認だ。梯子にしろ魔術で上がるにしろ面倒な作業であることには違いない。
俺とリュートは板に魔術を掛け天井付近まで上がり、母とフェリは光の魔術を発動して光源を天井そばに置いてのサポート体制を整え作業をした。
複数回上がり下がりして確認をしたが、見つけることは出来ず、この件は一件落着と相成った。
その後、リュートが2匹目用の巣をつくり2つを並べた。
リュートの方のリグルスライムは大きさこそビー玉程だったが、かなりやわらかく、葛餅位の個体だった。
飼い始めてから2週間。
「うん?今動かなかった?」
ジーーーーー・・・動いてる
よく観察すると、僅かにリグルスライムが乗っている藁が動いているのを観測した。
「ふむ、漸く『シラタマ』の動きを観測できたか」
飼い始めたリグルスライムに付けた名前はシラタマだ。見た目は白玉の様な色合いではないが持った時の感触から名付けた。
2週間経ち大きさも当初の1.2倍程に成長した。
あとどれくらいで動きが見える程に成長するのだろうか。




