3-28 ある少年のある日々4
かぽーん
「ふぅ」
秋も終わり冬に突入した。
今は今日の分の筵織りを終え、風呂も入っている。
この国の習慣ではサウナなのだが、サウナと言えば水風呂が付いている。その水風呂の水を魔術で温め風呂として使っているのだ。魔術さまさまだ。
もちろんサウナの日もあるが、魔術で沸かせるようになってからは風呂の方が多い。
もちろん理由があって、サウナと水風呂を何回も往復するのが入浴スタイルが面倒なのだ。実に利?にかなってるだろう。
風呂から出て今度は水冷の魔術でお湯を水に戻した。
今日は後の者がサウナだから水風呂に戻したのだ。うちでは両親は長年親しんだサウナ派で、リュートとフェリはテキトー派だ。
ここのサウナだが、焼け石に水の方式のサウナでこちらも最近は魔術で石を温めている。
本来何十個も焼け石を用意しないといけないので、昔は魔術で1個1個温めるのが大変だったため普通に焼いて用意していたが、春の魔術訓練のおり俺は認識について思い知った。
今まで石(個体)で見ていたのを石(材質)で認識し直した結果、今では全ての石を1度に温めることに成功している。
その結果は大幅な時間短縮と燃料費の削減、魔力伸ばし訓練用の一石三鳥の結果を生み出した。認識とは侮りがたし。
家の暖房もある程度魔術で代行できるだろうが手を出してはいない。
今年は燃料費の一部が浮いたため母が満足気で、筵織りなどの冬仕事をあまり強要され無くなった。
そのため今冬は製作や魔術訓練に勤しむ予定を立てている。一応筵織りもやるつもりはある。
今冬製作しようと考えている物はいくつかあるが、最初はもちろん夏に失敗した籾摺り機だ。
今回は籾摺り後の小麦と籾殻との選別部分も搭載する予定だ。循環構造はイマイチ構造が浮かばなかったため今回は断念した。
選別は風力方式で今のところ小麦と籾殻を分けれたら十分だ。
そして次は選別機だ。選別機と言っても籾摺り後の選別とは違うよ。これは脱穀後、籾摺り前に藁くずや身が無い籾、あまり身が詰まっていない籾の選別用で、唐箕の分野だ。なので風力のみ魔術で調整するとしてあとの構造はまんま唐箕を真似する予定だ。
昨年の予定上ではこの選別機は予定になかったが、籾摺り機の実験中に身の詰まり具合で籾殻の外れ率や割れ率が違うっぽいのに気付いたため前選別をすることにしたのが製作決定理由だ。
農具関係はこの2つを予定している。
時間が余ればもう2つ作ってみたい物がある。
1つは干し場、もう1つが謄写版だ。
干し場はお隣さんA家が用意したり組み立て解体するのが大変そうだったのが考え出したきっかけだ。
既に構想は練っていて、屋根部分は防水紙の使用を考えている。紙だから貼り合せれば大きさを変えやすいし、普段はロール状に巻いていたらずいぶん省スペースになると思う。ただ現在持ってる防水紙では大雨や風向きによって破ける可能性があるのでその辺を煮詰めたいと考えている。
謄写版はもちろん本についてだ。これが完成すれば本がもっと身近な存在に落とし込めると思う。高価すぎるだけで決して需要が無いわけではないのだ。
孔版印刷機の一種である謄写版は、小学校の図工室奥の多分物置というよく分からん部屋で見たことがある。細部まで覚えてないが蝋紙と蝋を削る道具と板、それとローラーという一式が必要というのは覚えているので、どうにか形にはできると思う。
印刷方法を考えていた時には、他にもルネサンス3大発明の1つ活版印刷が浮かんだが、この国の文字的に活字体を導入しないといけないため見送った。
魔術訓練に関してはそろそろ次の段階へ進みたいと考えているためこちらも集中して取り組みたい。
呪文省略を覚えてもうすぐ2年。始めは発動時間部分の呪文の省略、次にその状態での魔闘技の習得に勤しんだ。そして習得まで約1年掛かった。その後呪文省略プラス早遅法、連発法の順に訓練して約半年でこちらは習得した。
それから半年間、呪文省略プラス魔闘技、早遅法、連発法の全4種の高等技術を込んだ訓練をしているが上手くいっていない。
上手くいっていない理由は難度以上に精神的疲労が大きすぎて訓練時間が短くなりがちであることだと思っている。
そのため魔術訓練中に他のことにかまけてることも多い。
そうそう、この前魔力に関して面白い発見があったんだ。あれは・・・・
その日も訓練に疲れてテキトーに魔力操作で遊んでいた時のこと、左腕辺りに魔力を集中して右手に向けて思いっきり魔力を動かした時それは起きた。
なんと、魔力が飛び出したのだ。
魔術を使うときには確かに体外に魔力は飛び出す、だがそれは魔術管理者が行う事で能動的に体外へ出すことはできなかったのだ。それが当たり前だと思っていた俺にはまさに青天の霹靂だった。
飛び出した魔力は掌から半球分飛び出してその後一瞬で体に戻ってきたため観測も一瞬だったが、今ではこの現象をある程度自由に実現できるようになった。
だからなんだって思うかもしれないが、いつか魔力弾とか魔力球を飛ばせたら楽しそうだろ。
冬の上月2週目も終盤、ようやく及第点に足る籾摺り機が完成した。今回は種籾に使わなかったあまりの籾を確保していたのでちょっと実験ができたのが完成度を高めるのに一役かった。
外観は吐出口を2つに分けたので少し変わり、摩擦車も径を調整したりクッション材として腸を貼りつけたりした。長いから革より使い易かった。
中は羽根車が回る空間には薄い布を貼った。小麦が割れるのは羽根車だけではなくその壁面でも起こるのではないかとだ。検証回数が少なく統計は取れていないが多分間違いない。
次のお披露目が待ち遠しい。
籾摺り機が終わり、次に選別機改め魔唐箕(送風の魔術を使う唐箕)を作った。実験する籾がもうないので一部可動式で次の時に実験込みで使用するように対応した。試行錯誤が必要なかったからこちらは2日で完成した。
日が流れ冬も下月に突入。
防水紙を使った干し場はあっという間に完成し、謄写版に取り掛かっている。
最近ようやく店が開きだしたためまずは買い出しだ。
買う予定の物は蝋と色液だ。
蝋は一般的な蝋燭の蝋は触れる溶ける融点の物なので蝋の種類が違う高級蝋燭か蝋板の蝋を、色液は墨汁の様なサラサラタイプからバターの様なギトギトタイプまで用意しようと予定している。
大型商店にやって来た。
うちの区の店に高級蝋燭などの変わった物置いてるわけないだろう。ここは第4層に比較的近いうえに第3層付近まで行かないとないような物品も揃ってるのがとても良い店だ。
雑貨店や画材店を回り、高級蝋燭と蝋板用の蝋、そしていくつかの色液を購入した。
うーん、お高かった。
ヤスリ板は実験では家にあるヤスリで代用する予定だ。ヤスリはもう自作はやめ購入していて、いくつか揃えてる。
そして残ったお金で本を注文した。一応紙を持ってきていて良かった。取りに来るのは幾分先だろうけどな。
さぁて、帰ったら製作開始だ。




