3-27 ある少年のある日々3
話が進まないなぁ・・・(他人事)
夏の下月に突入した。
例年なら週前半忙しく後半がある程度時間が取れるスケジュールとなっている。
だが今年の週後半には小麦収穫関係の対価としてお隣さんB家の畑の手伝いに行くことになっている。
お隣さん両家の旦那さんたちは月がかわって早々に徴集された。工事の場所はこの区の川下の辺りなので日帰り可能なのだが休日以外は帰ってこれないそうだ。
賦役労働者に差をつけないための処置だろう。
お隣さんB家の手伝いもしているとあっという間に夏が過ぎ、夏の下月も終わり頃、お隣さんたちが帰って来た。
今夏は畑だらけだったな。
その結果、残念ながら今年は交易祭には行けなかった。王都訛りを聞くチャンスだったのだが、たぶん来年にはそんなこと忘れてるだろうな。
秋が始まり今度はお隣さんA家の手伝いが始まる。今年も欠かさずトウモロコシの皮を入手しないとな。
実をいうと昨年作った紙は残り少ない。昨年は不覚にもトウモロコシの皮の大半を腐らしてしまったのだ。乾燥物と甘く見過ぎていた。
幸いニックとトリアと共に厚紙や花漉きをしてからの数日間は織機を作りつつ合間合間に紙作りをしてたのでその分だけは確保できた。
だが今年、本を見つけた今年こそはそんな失態を犯すつもりはない。
14ティカだ、夏の中ごろ手に入れた本だが元々20ティカだった。それが挿絵なしで紙を負担したら6ティカになった。
実に元値の3分の1以下にまで値が下がったのだ。これを逃す手はない。
1冊目のあの本はもう覚え終えた。
シリーズ本の1冊目という事で難しい物ではなく内容が薄く、更に改変ひらがなも更新し次の本に進む準備もできている。
ただあそこまで行く時間が無いだけだ。
秋の上月2日の朝、水汲みに出掛けるとユルトとヨークが水汲みをしていた。
「2人ともおはよう」
「ああおはよう」
「おはようウィル、それで聞いてくれよー」
大体いつもこんな感じで俺の1日が始まる。
今日はどんな話題だろ。
「なんと昨日俺たちは気付いちまったんだ」
ヨークが大仰な動作をしながらそんなことを言ってきた。
「ああそうなんだ、おめでとう」
「ちゃんと聞けって!」
「はいはい、でもどうせ大したことないことだろ」
「いや、大事なことだ」
「ユルトがそう言うってことは大ごとだな、それで何に気付いたんだ?」
「なんと、なんとー・・・・・干し場が足りません」
ヨークはハイテンションから一転、抑揚のない声で告げた。
干し場?
「干し場が足りないって、つまり盗まれた?それともヨーク辺りが薪と間違って燃やしたのか?」
「名指しかよ、俺はそんなドジはふまねぇ。それに盗まれたとかじゃなくて単純に足りないの」
2人曰く、夏の下月の農作業は3人で回すしかなく忙しくて店を出す暇もなかった。
例年は未熟状態のトウモロコシを売りに出しているが、あれは臨時収入という意味以外にも秋の収穫量を調整する意味もあるそうだ。
今年はそれをしなかったため、今ある干し場の数じゃ足りないことに昨日気付いたそうだ。
「なるほど。それは収穫前に気付いけたのが幸いたな」
「だろ、だから今日ひとっ走りして買ってくるのさ」
自慢げな感じから気付いたのはヨークか?そして使いっ走りもヨークみたいだな。
水汲み運搬をしながら先程のことを考えていた。
2人のいう干し場とは毎年組み立てている屋根付きの物で、比較的面倒なタイプの干し場だ。
何が面倒ってそれは嵩張ることだ。曰く、2人の家の倉庫の半分はこの干し場が占めてるそうだ。柱があり梁があり屋根板がありと1台1台は大した量じゃないが、収穫期には庭を覆い尽くす程の数を所有しているためだ。
それがまた数台増えるのか。・・・・大変だな。
1週目も半分を過ぎ、今日からお隣さんA家の手伝いが始まった。
お隣さんA宅の庭側に回ると真新しい干し場を含む大量の干し場が建てられて、既にいくつかの干し場にトウモロコシが吊るされていた。
「今年もよろしくお願いします」
「お願いします」
作業が始まった。
今年は例年より収穫量が多いため、ユルトが収穫に、俺がリヤカーに、ヨークと今回新たに雇われたリュートが干す作業に割り振られた。
俺は1人寂しく畑と家の往復だ。
お隣さんA家の手伝いも滞りなく終わり、紙作りをしたりして過ごし、秋の下月1週目も中頃。
例年ならこの時期には木の伐採が行われるのだが、今回は少し変わったことが起きていた。
簡単に言うと集められた一部の者たちが地面を掘らされているそうだ。
もちろん都市上層部がトチ狂ったわけではなく、これは臨時手段の1つだ。
そう言うのも春秋には伐採が、夏冬には灌漑工事がと半賦役と賦役が毎月のようにある事態となっている。
木の伐採は純粋な経済活動と比較すれば報酬が安く、灌漑工事に至ってはほぼ無給であり、今年から4年間は人によっては1年の4分の1以上がそんなことで潰れるのだ。
そして今回行われている地面を掘る行為はこういった事態の時にたまに行われているそうで、あれは燃料を掘っているのだ。俺が生まれてからは初めてだ。
『燃土』
ここではそう呼ばれる燃料が地面から取れるのだ。取れるというかこの都市の土壌、特に第4層南区周辺の土壌は、乾燥させれば燃やせるのだ。
燃やせるといっても燃焼能力は低く、薪と一緒に入れるかさ増し用燃料だ。
燃焼能力は低いとはいえこれは安全な都市内で入手できる燃料なのだが、普段は掘られていない。
なぜなら、我々人の生存圏はこの何重もの城壁に囲まれた狭い範囲だけなのだ。つまり都市内の物的資源は貴重で、おいそれと使える物ではない。
樵同様に常設の燃土採掘師みたいな人もいない。
この燃土の正体だが、多分前世で『泥炭』と呼ばれる物だと思う。
泥炭とは植物生成物の一種で石炭への生成途中の物質だといわれている。石油と違って決着はついてるんだったっけ?
もう少ししたら燃料用として丸太同様にその燃土も市場に流れてくるだろう。
「独特な匂いだ」
冬まで1週間を切り、冬の準備として件の燃土を手に入れ、それを薪と一緒に燃やしてみたのだが、結果はこの嗅いだ事の無い匂いを発生させた。
形容しがたく一部の生木の煙よりは気にならないが、もう泥炭臭と新たに記憶するしかない匂いだ。
いや、でもどっかで嗅いだような気もしないことはない気がする匂いな気もしないことはないな。
うーん・・・・




