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ボクの異世界侵略記  作者: チカさん
第3章 少年期移住生活編
74/93

3-25 本屋での憩いと交渉

 夏の下月突入間近の上月44日。

今日は大型商店に来ている。


もう間もなく灌漑工事のため徴集が始まるというのにここは相変わらず人で賑わっていて、とりあえず中庭で休憩してから中へ突入した。



「こんにちはー」

「ん、ああボウズか、今日はどうしたんだ」

「いや、その隣の本が増えてないか確かめに来たんです」


ここは本屋の上の階の骨董店。この骨董店の店主は本屋の店主から借金のかたに本を受け取っているが、その本が増減してないか確かめてから下に下りようと言うわけだ。


「ここひと月増えてないよ。お前さんが考えた方法が上手くいったみたいなんだ。まっ、減ってもいないんだがな」

「それは良かった。では」


確認事項も終わったので地下の本屋へ下りた。


「こんにちはー」

「いらっしゃいませ。ウィル君じゃない、今日はどうしたの?」

「今日は様子を見に来ました。調子はどうですか?」

「ご覧の有り様よ」


店内には人っ子一人いない。

「なるほど。相変わらずですね」


「ええ、でもウィル君のおかげで負債は増えていないわ」

「いえいえ、ボクは助言しただけです、実際に動かれたのは店主さん自身ですよ」


俺が助言したこと、それは認知度を上げるための看板を出すように勧めたことと、春前に来た時に定休日の相談に乗ったことだけだ。

定休日を設けた理由は店主さんの写本作業と顧客回りと店の営業日を明確に分けるためだ。今までは顧客回りしてたら店は休み、それ以外は営業日というなかなか愉快な営業形態だったのだ。

今では労力のみで金にならなかった無駄な顧客回り回数を減らし、出来るだけ店にいるようになった。客がいないときには写本作業をしている。


俺が1回目の助言をした後店主さんは看板を1階部分と店の外の置いた。資金は骨董店店主に借金をして調達した。骨董店の店主の発言からたぶんそれが最後の借金だったんだろうな。


出来上がった看板を設置して1日2日は、うん、うんだ。

設置してすぐに効果があるならそれは劇物だ。きっといい効果はない。

更に数日経ちようやく客が数人来たらしい。客と言っても看板を見ただけで来た物見遊山客やひやかし客ばかりだったそうだが。

だがそれでいいのだ。物見遊山だろうがひやかしだろうが彼らにも人脈がある。その中でたまたま話題に出て、たまたま本に興味を持ち、たまたま多少蓄えがある者が見つかればいいのだ。極少人数でも構わない、だって本の供給量も大した量ではないのだから。


その結果が今のプラスではないがマイナスでもない状況だ。

そして俺も安心した。店の事だけじゃない、第2層に入れない程度の一般市民の中にも本に興味を持つ者がいたことをだ。


「またまたー、謙遜しちゃって。それで帳簿の方も見ていくの?」

春前に来た時にはまだ看板の効果が薄い時分で定休日の策定以外にも細かい相談にはのったがまさか帳簿を見せてもらえるとは思わなかった。

個人営業にしてもセキュリティ精神低すぎないか。


「いいえ。ただお願いがあるのですが」

「お願い・・ですか?」

俺は棚から1冊の本を抜き取った。


「この本の写本をお願いしたい」

「えっと、つまりお仕事の依頼ですか?」

「はい。ただし挿絵はいりません。代わりにちょっとお時間をいただきたい」

「挿絵はいらないってこの本だと意味がないと思うんだけど、それに時間って?」

「勉強教えてください」


斜め45度


「お願いってそれのことぉ。・・・暇な時ならいいわよ、ウィル君には助けてもらったし」

「ありがとうございます。断られちゃったら独学になるところでした」

「どういたしまして。それでこの本なんだけど10日は欲しいわ」

「意外と時間かかるんですね。それでお値段は前出していただいた10ティカで良いですか?」

「あれね、ええそれでかまわないわ。

この本だったら写すだけなら1日かからないんだけど、紙を注文をしたり、確認作業をしてたらそれくらいかかっちゃうのよ。他の仕事もあるしね」

「なるほど」


「ちなみに・・・・これは、使える?」

俺はトウモロコシの皮で作った植物紙を取り出した。いよいよこの紙を世に羽ばたかすんだ。


「これは・・・・羊皮紙じゃないわね。これに書けって言うの」

おや?あまり驚いていないな。・・・まぁそれならそれでいいか。

「うん」

「それにしてもウィル君珍しい物持ってるわね。植物製の紙なんて、図書館の歴史書に書いてあるのをチラっと見ただけで実物を見たのは初めてよ」

おお!、昔はあったんだ。


「でも何で廃れちゃったんだろう」

「えーと、ちょっと待ってて今思い出すから」

店主さんは頬に手を当てながら考え出した。


しばらくして、

「えっと、確か、この辺ではその紙を作るための植物が安定生産できないとかどうとかだった気がするわ。ごめんなさい、その本読んだのずいぶん前だからそれくらいしか思い出せないわ」


安定生産?確かにこのトウモロコシ紙は年に1回の収穫期に確保した分しか作れないが。生産するだけならいろいろな植物でも可能なはずなんだが。一体どう言う事だ?


「・・・なるほど。で、これは使えますか?」

「ちょっと待っててね」

そう言うと店主さん普段写本作業をしている机からペンを持ってきて、


「ちょっと試し書きさせてもらってもいいわよね」

「もちろんです」


許可を出すと、店主さんは紙の端にいろいろ書き始めた。写本元からみるに製本したときに裁断する部分のようだ。別に気にしなくてもいいのに。



「これなら十分ね。後何枚ある?」

「これくらいあります」

ドンっと机の上に紙を出した。多分この本2冊分は余裕であると思う。


「ずいぶん多いわね。一体何処で手に入れたんですか?」

「さぁ、どこだろうねぇ」

「隠しちゃうんだ。どうせ交易品かその流れ物ってところでしょう」

「さてね。交易品と言えばそろそろ交易祭の時期ですが、本は取引してないんですか?」

「あ、話題変えられた。まぁいいけど。

交易祭は本の取引もあるんだけど、『トルダン書店』が独占的に取引しててうちは入る余地がないわ」

「トルダン書店ですか。確か王都に本店を構えててこの都市の第2層に支店を出してる本屋さんでしたっけ」

「ええそうよ。ウィル君、『ラダニアン学園』って知ってる?」

「ラダニアン学園ですか?この都市で1番権威ある教育機関ですね、でもそれが何か?」

「あらよく知ってるわね。本当にウィル君は第4層の人?」

「ええそうですよ。準領主家でも有力家でもないただただ極一般的な農家の息子です」

「ただただ極一般的な農家の息子は本に興味を持たないと思うのだけど」


痛いところを突かれたな。確かにうちは兼業農家というただただ極一般的な農家かと言われれば少数な部類だ。専業農家が多数だからな。


「・・・訂正します。農家の息子です」

「・・・そう言う事ではないのだけど。・・・まぁいいわ、続けるわ。

さっきのトルダン書店って言うのがこのラダニアン学園や有名な私塾に教科書類を卸してるの。そのつながりから上層部と懇意にしててうちの様な弱商店は入る余地が無いってわけよ」


「なるほど。じゃあ新しい本はどうやって仕入れてるんですか?」

「最近はトルダン書店から購入することが多いわね。あとは個人の著書が持ち込まれることもあるけど」

まぁ交易に入る余地が無ければトルダン書店から買うしかないわな。それに個人の著書か。

店主さんが続けて、

「ウィル君、本って高価でしょ」

「はい」

「だからここに並ぶ本は出版される本の中でも選りすぐりの名著だけで、そんな本滅多にないわ。だから実際にはここ数年冊数は増えてないわ」

本に対する認識の違いかな?


「なるほど。じゃあこの本も相当昔の本なんだね」

「それは初版自体は100年以上前だけど十数年に1度改訂版がでるの。だからそんなに昔の本じゃないわ」


「なるほど、ためになります。

本題に戻りますが、材料負担の場合お幾らほどになりますか?」

「確かに逸れちゃったわね。・・・これなら6ティカ50ゼン、いや6ティカでいいわ。今から取り掛かれば夕方には完成すると思うし、持って帰る?」

挿絵なし、文字だけ、材料一部負担だとずいぶん安くなるな。


「・・・夕方だと帰る時間がありませんので明日取りに来ます。申し訳ないですが明日勉強を教えて貰っていいですか?」

「ええ大丈夫よ。待っているわ」


前金なら3ティカだが、面倒なので全額を払って家に帰った。




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