3-22 本屋改善2
「おっそーーい!!」
昼休憩を挟んで、少しいろいろしてから本屋への扉を開けての第一声がこれだ。
「イヤー、ココノコウゾウフクザツダネ。マヨッチャッタヨ」
言い訳は完ぺ・・
「ウソおっしゃい。その後ろの荷物は何なのよ」
「ああこれ?いやーはっはっは」
「笑ってごまかすなぁ」
いやー、なんでだろうねぇ。今日初めて会った相手なのに早くも打ち解けちゃってるよ。
「ああはい。ボク実は第4層暮らしなので、もう話し合いが終わったらここから帰ろうと荷物を取って来たんですよ」
「えっ、あなた4層暮らしなの」
「ええそうですよ。だから相談に乗ってあげらるのもあとちょっとですね。最近日が延びたとはいえ、日没も早いですし」
「・・・そうなんだ」
まぁ遅くなったのは家族へのお土産を買ってったっていうのもあるが。
荷物をとりあえずその辺に置き、
「それで計算結果を見せてもらっても大丈夫ですか?」
「ええ、これよ」
渡された原価計算の検証を始めた。読み方が分からなかったので軽くレクチャーは受けたが。
ふむ、詳細のわりに項目数が少ないが時代的か個人営業だからこんなもんなのだろうか?
普通の本の場合、見た感じ材料費の比率が高いな。絵師とかへの外部委託費はそれに次ぐ。でも外部委託時に材料支給の有無で変動ありっと。
そして挿絵無しの場合、材料費が支出のほとんどを占める。挿絵単色がその間か。
ふむふむ。
「なるほど。これはありがとうございます。では、本題に戻りましょう」
「えっ。・・・それはどういう事ですか」
「客層を都市民全体にするって話ですよ。休憩前に話してたでしょ?」
「休憩してたのはあなた達だけで、それに頑張って用意したこれは無視ですかぁ」
「いえ、まったく関係がないわけではありません。ただもっと先にすべきことがあるだけです」
「・・・・・」
「まずボクがあなたに要求すること。それは・・・・・ここを本屋にしてください」
「・・・・・・・はぁ?一体どういう事よ。ここは既に本屋よ」
「あら、そうなんですか?ボクに言わせれば本屋と言うより本を売ってる倉庫って表現が適切だと思いますが」
「どういう意味よ」
「そのままの意味ですよ。あなたはこの店舗を蔑ろにしすぎています。長年の経験則からこういう形態になったのだと思いますが、まるで客商売をする店構えじゃありません。
ここは今、大型商店の一画という恵まれた立地です。人は集まるし、この周辺にはいろいろな趣味人や、数棟隣にはそれなりの高級店が入っていますのでそれなりの人も訪れます。それなのにまったくこの店が繁盛しないのはなぜだかわかりますか?」
「その人達は本がいらないからじゃないの?」
「もちろんそれも無いわけではありませんが、彼らは純粋にここに本屋があることを知らないんです」
「ウソよ、看板は出しているわ。それを見れば分かるでしょ」
「あの看板です・・か。あれは場所がわるいし、それに1つしかないでしょう。印象に残りません。
どれぐらい印象に残らないかと言うと、自分の話で申し訳ないんですが聞いてください。
ボクは前から本が欲しくて本屋を探していました。そして数年前まで第3層南区の中央辺りに住んでいました。ここからそんなに遠くないですね。そして近場の大人たち中心に聞き込みした結果がこれです。今日この上の骨董店の店主にこの店を聞くまで一切この店の話は出ませんでした。
これほど印象に残らない店なのです。もちろんボクと近場の大人たちの情報網が貧弱だったという見方ができないこともないですがね」
「・・・そんなに知られてないの私の店。じゃあ客寄せしないといけないってこと」
「まあ有体に言えばそうですね」
「でも客寄せの人を雇うなんてそんな余裕はないわ」
「いやいや、ここは本屋ですよ。八百屋みたいな客寄せしてどうするんですか。もっと普通に通路沿いや建物の前に目立つ看板を置くだけで良いんですよ。それだけで今回は十分です」
「ウソ、本当にそれだけで良いんですか?」
「今回は、です。今は時間も資金もないでしょう。それ位しか手を打てないんです」
返す当てもない借金をしてるんだ、猶予は少ないだろう。
「他にも店内の配置を変えるとか定休日を作るとかいろいろあるけど、1度にいろいろ変えるのも大変だからね。
ああ最後に看板は一目で何屋さんか分かるようにね。一目だよ。
ふぅ、以上助言終わり」
時間も押し気味だし最後の方は早口になっちゃったが、まぁ大丈夫だろう。
「ええっと・・・・」
「助言を戯言と流してもよし、実行するもよし、じゃあ今日はこの辺で」
ガシッ
「・・・・・・」
「次はいつ会えますか」
「・・・・春前に1度来ます」
帰り道、途中まで2人と一緒に帰ってると、
「なぁウィル、アレは良かったのか?」
「うーん、提案しようか迷ったけど時間もなかったし、考えれば提案できる段階でもなかったからね」
「時間がなかったのはお土産買ってたからじゃないのかよ」
「これは手厳しい」
その後2人とは道の分岐で別れた。
さぁ、急いで帰らなくちゃ。




