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ボクの異世界侵略記  作者: チカさん
第3章 少年期移住生活編
55/93

3-06 移住生活6

 夏が過ぎ、秋の上月。


「でさ、やっぱりひきわりが良いわけよ」

「粉でいいだろ」


俺は今、収穫最盛期のお隣さんのお手伝いに来ている。そしてユルトとヨークの派閥争いを眺めながら作業している。


ラックは夏の下月の中ごろから祖父母宅へ行った。

いよいよラックの養子に出す計画も秒読み段階で、いつもより長めで秋の伐採辺りまで帰ってこないそうだ。

元々都市奪還作戦が発令されなければラックが10歳になる今年だったのだが、発令されたため時勢が不透明だったり、うちも移住したため延期になったのだ。

だが結局家を継げるのは1人しかいないため、ラック無しで畑の管理ができるか見極めたのち養子に出される。

幼児2人も四六時中面倒を見る必要もなくなって来たので、目の届く範囲で遊ばせてればよくなってきた。そのため母も参戦できるだろうから、来年か再来年といったところだろう。



 俺に割り当てられたお手伝いはヨークと共にトウモロコシの皮を剥いで干す作業だ。

うちと同じように長兄はリヤカー係で畑とここを往復している。そしてこちらに来るたびに休憩をとって畑に戻って行くのだ。

その一幕がこのトウモロコシ加工派閥論争なのだ。俺にとっては粉だろうがひきわりだろうがどっちでもいい。


「まったく、兄貴にも困ったものだぜ。ウィルもひきわりの方が良いよな」

ユルトは畑へ戻って行ったあと、ヨークが俺をその論争に巻き込んできた。

粉は主に主食に使われ、ひきわりは主食以外に使われるから、論争する程用途が被っているとは思えないんだが、トウモロコシ農家の子ども達だ、それぞれ一家言あるのだろう。


「ひきわりにしろ粉にしろまず干してからだろ、喋ってないで手ぇ動かせ手を」

「ちぇ。わかったよまったくぅ」


今は皮を剥くのがヨークで吊るす作業が俺という風に分担作業しているため、ヨークが遅れるとどんどん遅れてしまうため活をいれた。


ヨーク達の家の前に作られている干し場には既に大量のトウモロコシを吊るしたのでそろそろ干す場所が無くなってきた。


「ヨーク、もう干す場所が無くなってきたんだが、次は何処に干すんだ」

「ん、あそこ」

次は家の軒先のようだ。あとどれくらい収穫があるか分からないが、家がトウモロコシ色になってしまうな。



「お前等今日はこれくらいだ」

黙々と2人で作業してると、ユルトが本日最後の運搬をしてきた。


その後はユルトを含む3人で作業をしていると2人の両親が帰って来たので、今日のお駄賃を貰って家路についた。



 貰った駄賃は大体家計に入れてるが、一部私的な駄賃を貰っている。

それはトウモロコシの剥いだ皮だ。今年はこの皮で紙を作ろうと考えている。

昨年製作した分はとっくに使い切った。というか元々移住時に経年劣化の観測用と

記録用途の紙だけしか持ってきてない。あとはニックとトリアにあげた。


お隣さん曰くこの剥いだ皮は畑に鋤き込むくらいしか用途が無いそうで、鋤き込むにしてもトウモロコシが生ってた本体に比べて微々たる量で、畑に持って行く手間がかかる分マイナスな物なので、タダ同然で貰ってきている。

ちなみに粒取りが終わった後のトウモロコシの芯の方は着火材として売れるのでそっちの方が価値がある。





 更に数日通い、お手伝いは終わった。

最初に収穫した分もまだ数日間は乾かす必要があるそうで、一旦は終了だ。

うち(フーホー)の方もまだなのでいよいよ紙作り始動だ。

基本材料は違うが昨年のノウハウがあるし、今回は道具をしっかり用意したので大丈夫だろう。




 数日後には試作第1号のトウモロコシ紙ができた。昨年とは体力と魔力が違うためここまでスムーズに製作できた。


「さてさて、どんな具合かな」


出来上がった紙をひっぱたり水を垂らしたりインクで文字を書いてみた。


「強度は藁のより上だな、でももう少し細かく刻んだ方が良いな」


はっきり言って中々の出来だ。藁のときの製法をそのまま使用したんだがな。

あとは刻み具合の調整をしたら量産ができそうだ。



 検証を終え、次の試作のため皮と鍋を手に井戸の方へ出かけようとしたとき、


トントン

「こんにちはー」


・・この声はヨークだな。母たちは買い物に出ているため今家には俺しかいない。


「はいはーい」


扉を開けるとやっぱりヨークだった。

「いらっしゃいヨーク、どうしたんだい?」


「明日からまた作業が始まるからそれを知らせに来たんだ。ウィルはこれそう?」

紙作り的にはちょっとタイミングがわるいがあれは私的だし、畑はまだ収穫が出来ないから大丈夫だな。

「うん大丈夫だよ。明日は何か用意する物はある?」

「特に・・ああ手袋があった方が良いよ」

「それは大丈夫だよ。他には?」

「それがあれば十分、じゃあ明日待ってるよ」

そう言うとヨークは帰って行った。


トウモロコシの粒取りに手袋は必要なのは常識だ。・・・常識か?



 次の日から朝に畑の世話をして、その後お隣さん家で粒取り作業を行う日々が続いた。

手袋をしていても大量のトウモロコシの粒取りをした後は手が痛くて紙作りをする気にはなれなかった。


数日掛かりで粒取りが終わり、今年のお手伝いは終わった。

さて明日から紙作り再開だ。早くしないとうちの収穫が始まってしまう。







 数日後、俺はこの区の広場で第3層南区の方へ行く商人を探していた。お届け物をしてもらうためだ。

専業の郵便会社はないため、郵便物はそちら方面へ行く商人さんに手間賃を払って届けてもらうのだ。

ちなみに伝言も郵便物扱いだ。商人ですら文字を自在に書ける者は少ないそうで、長い伝言は基本無理だがな。


送り先はニックとトリア宛だ。正確には送り先は前アパートメント宛で伝言と併用してニックとトリアに送るのだがな。

贈り物は箱で、中には手紙と紙と干し野菜とを入れている。

手紙はこちらの近況とかいろいろ書いたもので、紙と干し野菜は就職祝いだ。交易祭のときに2人とも就職したことを聞いたのだ。

これは奪還作戦の混乱が収まりつつある証拠だろう。


そして2人はどうやら紙を染めて折り紙とか切り絵とかの玩具、芸術用途で使用しているようで、特に折り紙は前アパートメントの子どもの間で流行って一瞬で紙が消費されたそうだ。

これも交易祭のときに聞いた。そして遠回しに催促された。


2人は紙の作り方を知ってるが、俺が渡した物として作り方は知らないと口裏を合わせている。俺がいない中どんな影響があるか分からなかったからだ。

前アパートメントの住人なら俺の印象は良い意味でもわるい意味でも広まっているためそれが防波堤として機能してくれている証拠だろう。


そしてその時初めて両親が俺がそんな物を作ってたと知ったわけだ。何か作るにしても基本隠れて作ってるからな。紙作りしてるのは知ってるのは実質ニックとトリアだけで、幼児2人は同じ部屋にいても衝立越しお守り付きが基本だったからな。


今は全員知ってるので2人を母に預けてから堂々と隠れて紙を作っている。・・・職人とは基本隠れて作業するのが常識だ。



 この広場に来た時間帯がわるかったのか、見つけるのにそこそこ苦労したが、そちら方面へ行く商人さんを見つけ、お届けをお願いした。




今度は2人から手紙が届いたらうれしいな。




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