2-21 導入に向けて2
月日は少し流れ春の上月3週目に入った。あと2週間もすると春の伐採が行われる時期だ。
一昨日代表者会議の結果が発表された。結果は賛成多数で手押しポンプを井戸に導入する事が決定した。しかし誰の作品を使うかでもめたらしく、俺の読み通り品評会が開かれることになった。
あぶなっ、読みが外れたら俺の作品をお披露目できないところだったよ。
品評会は近くの川辺で行われることになった。気にしない者は気にしないがあまりきれいな川ではないので俺は1度も泳いだことはない川だ。ここに櫓を立ててその上で性能を見せ合う形式となった。
ここまでなら、おおーなかなか大がかりだなっと思う程度だったんだが、誤算だったのが主催者側がありがた迷惑なことをしてきたことだ。
それは、給水管の方もあちらが用意した物を使う事になったということだ。
どうやら代表者会議で配管部分はスペース、コスト的に各自が用意するよりも良いだろうという結果になったそうだ。
おかげでポンプ本体だけを用意すればいいので、他棟の者もこの品評会に参加する者が出てきて、より品評会が盛り上がるだろうという話だ。
一昨日は話だけだったが今日はその件の給水管と同じ径の物品が用意されるそうだ。
昼ごろその物品が届いたという知らせが来た。同時に井戸のある広場で品評会についての発表が行われることを聞いた。
広場に着くとそこには品評会の主催者と参加者と野次馬連中でまあまあの人口密度を叩き出していた。仕事は?
身長的にお目当ての物品は見えないし、あの中に入るのは嫌なのでしばらく人混みを眺めて待つことにし、しばらく待っていると主催者の1人が台にのぼり何やら宣言をしだした。
宣言内容を要約すると、
・品評会の日程は春の下月1日の昼から
・各人の実演の後投票の結果、優勝した作品はそのままここの井戸に採用される
・1から3位までは豪華商品が贈られ、参加者にも参加賞が贈られる(失格者は除く)
・おやつは10ゼンまで
・帰るまでが品評会です
だ。
宣言が終わると、ぱらぱら野次馬連中が帰りだした。
品評会参加者はこの後詳細な説明と、主催者側が用意する管とほぼ同じ径の物品を配るので集まってくれという事で、俺もその物品を受け取るため指定された場所に向かうことにした。
「邪魔だガキが、あっち行ってろ」
俺が目的地へ向かっていると、そんな怒鳴り声が聞こえた。ああ確かにこまるよねぇやんちゃさんがいると、一体どこのやんちゃさんだ?
「お前、人の話聞いてるのか、そこのお前だよ!」
まったく、どこのやんちゃさんが人の話をきいてないだってー。
きょろきょろ
うん?別に見渡す限りこの近くには子どもは誰もいないんだが。
「お前だ」
声はすぐ近くで聞こえて、その方を向くと確か隣の棟の住人だったと思う若い男が立っていた。
「邪魔だと言ったはずだぞ。今すぐ立ち去れ、さもないと・・・」
男は何やら拳に息を吹きかけるという何のフェチかよく分からない行動をした。拳フェチ?
だが趣味は人それぞれだ。俺は彼が多少変わった趣味の持ち主でも差別的な目で見るような程度の低い者にはなりたくないと思っている。
ジト目はセーフだよね?
「ボクに何か用なの?」
「お前以外にどこにガキがいるんだよ」
?俺は何処からどう見てもおこちゃ・・ま。・・・・ああ俺のことを言ってたのか。
「ボクは品評会の参加予定者だよ。詳細な説明を聞きにきただけだけど」
「ああそうだったのか、引き留めて悪かったな。じゃあまた・・・なわけあるか、どこからどう見てもお前は品評会の参加者じゃねぇだろうが」
のりつっこみ乙。
「えーと、どうやってボクが参加者じゃないと見分けたんです?もしかして参加者はあらかじめ記章かなんか配られてるんですか?」
「はぁ何言ってやがる。どう見てもお前の様なガキンチョが参加者に見えないだけだ」
「・・・なるほど?まあ仮にそうだとしてもべつに説明聞くくらいいいでしょ。じゃあボクは行くよ」
俺はまた歩み始め・・・
「おいおいおいおい、何を言ってるのかな、お前さんはお呼びじゃないんだ。さっさと消えてくれ」
れなかった。それに、お前さんは・・・か俺はどっかのブラックリストに記載されてるかのような言い方だ。ここは大人しく退散すべきか?
俺は踵を返そうとしたとき、
「そこー、何やってる」
そう言ってこっちにやって来たのは、うちの大家さんの右腕的存在の確か・・・カザ、いや、ウズ、いや、パキ、いや、・・・なんとかスタンさんだ。この前の会議のときには司会進行をしていた人だ。
「ヴキリスタンレイさん、ちょっとこのガキが言う事を聞いてくれないだけです、すぐ追い出しますから」
ヴキリスタンレイ。・・・おしい。
「モチリトリッシュ。警備をかって出てくれたのは有難いですが、その子は大丈夫ですので通してあげてください」
ヴキリスタンレイさんは俺とモチリトリッシュさんを見てそう言ってきた。
この人モチリトリッシュって名前なのか。愛称はモチかモッシュ、リトリー、チリトリ、リッシュ、どこをとってもよりどりみどりな名前だな。
「えぇ、でも」
「でもではありません。ウィルは参加者の1人ですよ」
まだ参加するかは未定なんだが、勝手に参加者扱いされてるよ。
「こんなガキが参加者ですかい、さすがに冗談きついですよ」
「本当のことですよ。最初に手押しポンプを作ったのはその子なんですから」
「このガキがですか、確かに子どもが最初に作ったって聞きましたが、まさかこんなチビだったとは」
その後いくつかの誤解が解け、ヴキリスタンレイさんとモチリトリッシュさんに別れを告げ目的地へ向かった。拳フェチではなかったそうだ。
「おっと、みんなようやく発明者が来たぞ」
俺が目的地に近づくと、俺に気付いた者が周りに声をかけた。
その声に一斉に俺に視線が集まる。うーん視線恐怖症になりそうだ。
「やーウィル君、君もやっぱり来たんだね」
今日は大人との絡みが多い日だなとそちらを向くと、ポールガリアさんがよってきていた。この人は品評会の発端となった実演をした者達の1人で、年齢は俺の両親より少し上っぽいが子どもの1人は元生徒だ。そういう絡みもあり俺も何回か会話をしたことがある大人だ。
「こんにちはポールガリアさん。ボクなんかがどこまでできるか分かりませんが、参加だけはしようと思いまして」
「発明者の君がそんなことを言わずともいいと思うがな。君ならちゃっかり優勝してしまいそうなんだがな」
「そうなると嬉しいですね。ボクも出来る限り努力はするつもりですけど」
その後幾人かと挨拶を交わしつつ待ってると、品評会の詳細な説明が行われた。
実際の櫓の高さとか発表の方法とかおやつは15ゼンまでとかの細かい話だ。
有益だったのが練習用に高さはないが他は本番と同じような環境が整備されることだ。本番用の櫓は品評会寸前まで使えないだろうという配慮だ。ここで取り付けの練習や試運転などを行ってくれという話だ。
そして俺のお目当てだった物品の支給が始まった。用意された給水管と同じ径の物は薄い木製の輪っかだった。説明を聞くに単純に物差し代わりの物品ではなく本体と給水管をつなげる部品となるそうで、品評会のときにはこれが金属製に変わるそうだ。
輪っかを手に入れた。
ねぇふとない、これ。
受け取った輪っかは何となく口調を変えたくなるくらい太かった。周りの人の様子を確認してみても何か考え込んでる人はいるが、たぶんこの輪っか自体に疑問を持ってるわけじゃないんだろうな。
俺も作ることばかり先にして、検証が不十分なため確証はないが、このサイズの能力を十二分に発揮するには相応の動力が必要だろう。つまり、無駄に大きいと言う事だ。大は小を兼ねると言うが、兼ねるだけで最適とは言い難い。
ここは品評会は諦めて個別に完成を目指す道を進むべきか。
まあ幾つか実験したあと参加するか決めればいいか。
家に帰って来た。
持ち帰った輪っかの径を測ってみると、俺が作ってる物より2倍近く大きかった。つまり現状の4倍弱の重さの水を吸い上げる必要があるのか。
今までの製作分はとりあえず置いとくとして、新たに製作を始めようか。




